(読了日:2019年7月17日)
ヘレン・マクロイ「燕京奇譚」
年老いたロシア公使ヴォルゴルーギイの若くて美しい妻オルガ・キリーロヴナが一人で馬車に乗って出かけたきり行方不明となった悲しい理由が、彼女を慕っていた陸軍武官アレクセイの活躍のよって明らかにされていく。しっかりした時代考証の上に成り立つ重厚な物語。
リチャード・マーティン・スターン「ミンナへの贈り物」
水夫アンディは愛妻ミンナのためにマルセイユで一箱分ものブランデーを仕入れたものの NY 上陸時にかかる税金を支払うだけのお金が手元にない。そこで猫好きの彼が思い付いた奇策とは? 思わず心がほっこりする優しい結末が気に入った。
ジョン・D・マクドナルド「二日酔い」
ひどい二日酔いで目覚めた広告マンのハドレーは、前夜の出来事を思い出そうと断片的な記憶を必死に辿っていくうち、街で買ったはずのネクタイが見当たらないことに気付き… 結末へ向かって急速に高まる緊迫感、ドライな雰囲気で突き付けられるオチが魅力的。終盤でオチの予想はつくものの、文体のせいなのか結末がドーン!とくる勢いがあった。
エドワード・D・ホック「レオポルド警部の密室」
「密室のレオポルド警部」として既読。
ローレンス・トリート「悪魔のおかえし」
精神科医アイラの前に突然現れた魔王のルーは、人間が不道徳な行為をするのは精神を病んでいるからだとの医学的な考え方が広まったせいで悪の存在を信じない者が増えたことが不満な様子。精神科医を凹ませて溜飲を下げたいルーはアイラに取引を申し出て… 魂や精神に関するアイラとルーの議論に哲学的な響きがあって面白いし、悪を信じない者に悪の存在を見せつけて悪の復権を果たしたいルーの楽しそうな様子には茶目っ気も感じられて、さぁどう決着するのかな?と軽い気持ちで読んでいたら… さすがは魔王、ちゃんとやるべきことはやっていた。
ハロルド・Q・マスア「名画殺人事件」
画商ローズモントが急病死したため、遺言執行人である弁護士スコットは税務局員らとともに銀行へ資産の確認に行ったところ、何者かによって仕掛けられていた爆弾によって貸金庫が爆発してしまい… スコットにもっと個性と魅力があれば謎解きも楽しめたはず。画商と愛人と老画家の関係など、正統派な謎解きはそこそこ楽しめるものの、主人公スコットと警部補ジョンの関係が単なる友人という雰囲気で終わっていて、バディもの好きとしてはちょっと物足りない印象が残った。及第点。
ロバート・ブロック「女のことならわかっていたのに」
詐欺師ルーは入念な準備の末に裕福な未亡人ベッシーと結婚目前のところまで漕ぎつけたが、急な再婚話を心配するベッシーの兄バートが突然現れ… 笑いで終わるブロックの短編は新鮮で妙な感じがした。このオチはいくら何でも無理があるかも。
スタンリイ ・エリン「伜の質問」
父親から受け継いだ "電気椅子係" の仕事に従事する主人公は誰かがやらなくてはならないのだという義務感こそが彼の原動力だと信じて生きてきた。しかし、それを引き継いでほしいと息子に告げた時に… この題材を扱うにあたって徹底的な自己探求を行ったというエリンの熱意と生真面目さが文面から迸り出てくるような気がした。息子の口から出た予想外の質問によって一気に表出する主人公の本心にゾワッとする。
ヒラリイ・ウォー「わめく若者たち」
公園に停めた車の中で恋人ヘレンと仲睦まじくしていたところを三人組の若者に襲われて彼女を連れ去られてしまったと警察署に飛び込んできた青年ローレンスとともに現場へ向かったゴールトン警部は… ベテランの警察官が見せる落ち着きと洞察力に味わいあり。
ブライアン・ガーフィールド「スクリムショー」
事故で元夫と息子を亡くして孤独なブレンダは特にこれといったあてもなくマウイ島の安宿に滞在していたところ、大学時代の友人エリックと予期せぬ再会を果たす。彼は現地で鯨骨の彫刻師として生計を立てていると言うのだが… アンソロ編者の貫禄。
ドロシイ・S・デイヴィス「紫色の風景画」
壁紙デザイナーのメアリが大好きなモネの風景画を観るために通い詰めている美術館で火事が発生。彼女はその絵を守ろうと咄嗟に壁から外してこっそりと自宅へ持ち帰ったものの… 以前からあまりしっくりこない作家で、今回も面白さのポイントがわからず。
犯罪こそわが人生 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 80‐11))
- 作者: ブライアン・ガーフィールド,坂口玲子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1985/12
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