Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

2018年の読書活動を振り返って

2019 年。早くも一ヶ月が過ぎました。巷では「平成最後の〇〇」という言葉をよく目にするようになりました。これからますます新元号への期待も高まっていくのでしょうね。

2018 年。たくさんの出来事がありました。いろいろな変化も。まさかこんなことが… という経験もいくつかしました。そんな中、自分のすぐそばにはいつも海外ミステリのアンソロジーや個人短編集がありました。そのことが強く印象に残っています。なかなかページをめくる気分になれない時期もあったけれど、本と読書ノートとお気に入りの筆記具は常に手元に置いていました。もはやお守りのような存在なのかも。

では… 完全に時期を逸してしまいましたが 2018 年の読書活動をまとめてみます。

読んだ短編の数 (超短編を含む)

391 作品 (読書ノートにきちんと感想を書いたものだけで)

最初に読んだ短編

H・ペンティコースト「もの言う子牛」

最後に読んだ短編

コーネル・ウールリッチ「悲鳴を上げる本」

新たに好きになった二人組

ジョイス・ポーター「ドーヴァー主任警部 × マグレガー部長刑事」
ジャック・リッチー「ターンバックル部長刑事 × 相棒ラルフ」
ローレンス・トリート「ミッチ・テイラー刑事 × ジャブ・フリーマン鑑識主任」

ベスト短編15 (読んだ順)

01. キャスリーン・ゴッドリーブ「夢の家」 美しい切なさが棘のように刺さった
02. ジョゼフ・ペイン・ブレナン「浮遊術」蒸し暑い夏の夜に読みたい薄ら寒さ
03. ロアルド・ダール「この子ひとり」ダールの印象が180度変わった
04. ロバート・シェクリイ「完璧な女」そうそう SF でもなくなってきた
05. ヘンリー・スレッサー「受験日」全体主義国家はこんなにも生きづらい
06. チャールズ・E・フリッツ「不幸のクッキイ」おみくじクッキー恐怖症に
07. レイ・ラッセル「長い夜」これを読んでもアレに憧れる人がいるだろうか
08. ヘンリイ・スレッサー「世界一親切な男」都会的ユーモアが悲哀を引き立てる
09. ダニー・プラクタ「何時からおいでで」2018年最大の笑撃を受けた
10. レイ・ラッセル「部屋」国家による統制が肌に合わないとこんなことに
11. ビル・プロンジーニ「死の呪文」読後にじわじわと迫りくる可笑しみと恐怖
12. ナンシー・ピカード「同居人」一瞬の出来心が招いた結末に激しい虚無感
13. アンドリュー・クレイヴァン「これが最後よ」主人公の職人気質が妙に清々しい
14. ドロシー・A・コリンズ「キッチン・フロア」歯切れのよいルース・レンデル
15. ジョシュ・パークター「殺人へのご招待」重厚な雰囲気のひねりに思わず息を呑んだ

この記事を書きながら、改めて海外ミステリ短編の持つ奥深さに魅せられてしまいました。今年もまた、少しでも多くの短編と出会えますように…

ジョン・ボール編『犯行現場へ急げ』

(読了日:2018年10月07日)

ロバート・L・フィッシュ「クランシーと飛込み自殺者」

地下鉄駅で見つかった礫死体の身元はタクシー運転手のケリィと判明するがクランシー警部補は他殺と睨む。彼の自宅を調べると小型カメラや写真引き伸ばし機などが見つかり… 主人公はマックイーンが『ブリット』で演じた刑事と知って大興奮。段落ごとに「◯時◯分」の記載があるため、クランシーがいかに早い段階から犯人の目星をつけていたかがわかり、解決までの流れの勢いを感じることができる。新しい配属先にまだ馴染めずにいる姿など、クランシーが人間味のあるキャラクターとして描かれているところも気に入った。別の短編も読みたい。

コーネル・ウールリッチ 「夜間航路の殺人」

結婚式を終えたばかりの部長刑事ブラッドフォードが新妻と乗り込んだ夜間定期船で殺人事件が発生。殺されたギャングの恋人は絶望して遺書を書いている途中で何者かに刺殺されてしまう。ブラッドフォードは船員と力を合わせて犯人探しに乗り出すが… 刑事としては申し分ない度胸の持ち主でありながら女性の取り扱いはからっきし苦手なブラッドフォード刑事。妻の機嫌もまともにとれないほどの彼の不器用さがユーモアまじりで描かれているのだが、それはウールリッチ自身の生き辛さに対する自虐のようにも思われて、じーんと心に染み入るものがあった。

ネッド・ガイモン「会話」

51個の極短台詞だけで成り立つ超短編ながら、二人の会話主の関係性、徐々に高まる緊張、感情の暴発を見事に描き切っている。ミステリのミニマリズムを追求するとこんな型に辿り着くのかもしれない。実験作、意欲作、異色作… いろんな評価ができると思う。

エドワード・D・ホック「深夜の誘拐」

某社人事部長クレメントのお抱え運転手がガレージ内で熊手を使って刺殺されると同時に娘が行方不明になった事件にレオポルド警部が挑む。FBI 捜査官ムーアがなかなかいい味を出す。さすがレオポルド警部!と思える安定の面白さを楽しめる本格短編ミステリ。ムーアの存在に押されて地味めな活躍だったフレッチャーにはぜひともしっかり反省していただきたい。

ローレンス・トリート「弾丸のB」

犯罪とは無縁な地区にある宝石店で発生した強盗殺人事件を刑事ミッチ・テイラーと鑑識課ジュブ・フリーマンが追う。宝石商の死体から摘出された弾丸は彼自身のリヴォルヴァーが至近距離から発したものだったことに疑問を覚えたジュブが現場で弾道解析を行うと… 自信と誇りを持って裏方役に徹するジュブと、彼の仕事ぶりと成果に敬意を払うミッチの関係に興奮した。おんぶに抱っこの二人組も微笑ましくて嫌いじゃないけれど、彼らのような自立した男同士の静かで確かな友情もまた味があってよい。この二人の活躍を一冊にまとめた短編集が欲しくてたまらない。

ビル・ノックス「マイラ・アン号の座礁

日曜大工好きなギビーがアパートの部屋の中で組み立てた木製ボートをロープで吊り下げて窓から外の庭へ下ろそうとしたところ、途中で急にロープが捻れて大惨事が発生し… 至極迷惑な珍事件に対応するハメになった二人のパトロール警官の活躍を描く。一風変わった事件の回顧録といった趣で、ミステリの要素は感じられず、全編を通してのほほんとした空気が漂う作品。ガチガチの本格ミステリで疲れた時には、こんなのを読んで脳を緩めるのも悪くはないかも。

スタンリイ・エリン「警官アヴァカディアンの不正」

高級住宅街に住む医師の自宅へ急行するよう指令を受けて現場に到着した二名の巡査は医師の妻から「夫が誘拐された」との話を聞かされるが、その夫は目の前で至って普通の様子をしており… 服務規程至上主義の警官が「大人」になった理由とは。規則がどんな場合にも正しいとは限らない。規則に従わないことが悪であるとは言い切れない。わたしたちが目を背けがちな社会の一面を抉り出してミステリに仕上げるエリンの高い知性を味わえる一編。矛盾した世界の中でしたたかに生きねばならない人間に対する賛歌のようにも思える。

ジョン・ボール「ファイド」

不器用ゆえに人から愛されることを知らなかった野良犬にようやく愛情を与えてくれる人が現れる。その人は一人暮らしの医師で犬を「ファイド」と名付け、往診や見舞いなどにも連れていくようになる。だが、ある日往診先で患者を亡くした医師は自宅にこもりがちになり… かつて文学上の顧問から反対されて出版社へ送ることができず、その後もどうしても忘れられない原稿として大切に保管してあったものを「ファイドのために、五分間を割いてやって下さらんか」とのコメントとともに編者が発表した作品。研究に没頭していく医師の姿が一瞬マッドサイエンティストに見えた。

フランク・シスク「試練の時」

宝飾店から高級時計ばかりを狙って盗み、市価の半額程度で素早く売り捌く手口を繰り返す強盗ドミニク・L・ピアノを追うことになった新米刑事ボールトンを待ち受ける「試験」とは。彼を一人前に育てようとする先輩の部長刑事ラインハートの懐の深さと温かさがよい。

ビル・プロンジーニ「共通点」

外見や環境が似通った三人の主婦が立て続けに殺害される事件が起きた日の夜、自分が犯人だと言う男が刑事課へやってくる。彼が嘘をついている可能性があるため、シェフィールド警部らが慎重に話を聞いていくと。男の淡々とした自白と警部らのやり切れなさの対比。

ジェイムズ・クロス「確率の問題」

強盗と思しき少年が酒屋の店主オーグルヴィーから執拗なまでに銃で撃たれて死亡した事件に違和感を覚えた社会学教授ジョンは、検事補として働く息子フランクに内緒で独自に調査を行う。彼がオーグルヴィーなどの関係者から話を聞いて導き出した答えの是非は…?ついつい息子の仕事に首を突っ込んでは息子の嫁に煙たがられるジョンが微笑ましく、何かというと確率を計算したがる彼のオタクっぽさもまた可愛らしい。一風変わったおじさんなのかなと思いきや、結末で嫁に対して見せる年長者の余裕ある態度がカッコよくて小憎らしい。息子の天真爛漫ぶりには失笑。

ジェラルド・トムリンソン「ゼルの手配書」

タクシー運転手のジムは長距離バスから降りてきた男が見覚えある顔をしていることに気付き、男が乗り込もうとしたタクシーの運転手チャックに頼んで彼を譲ってもらう。男の名はフランク・ゼルと言い… こんな風に警察を支える市民がいたらカッコいい。

S・S・ラファティ「十三丁目の家」

ホテルで給仕として働く女性が路上で殺害される事件が発生。近くを担当する巡査らが怪しい人影を全く見かけなかったことから、フィンリー警部は現場の目の前に建つアパートの住人から調べ始める。そこには三人の独身男性が暮らしており… ミスリードが上手い。フィンリー警部の性格や疑わしい人物の背景までしっかりと描かれており、20ページ弱という長さにしては中身が濃く感じられる一編。推理小説を読んだという確かな手応えがある。フィンリーと某氏の間に友情が芽生えたことを匂わせる結末に「名コンビ誕生?」と胸が躍ったけれど短編集は出ておらず無念。

へレーン・フィップス「吠えるインディアンの犬」

インディアン保留地にある地下礼拝所を調べるため一人で中へ入っていった老教授ビクターが持病の心臓発作を起こして死亡する。薬入れの中のカプセルが全く効かなかったのはなぜか。年の離れた妻の身勝手な動機と何事も人任せな態度にモヤモヤ。

ビル・プロンジーニ & ジェフリー・ウォールマン「見えない男」

詐欺まがいの際どい株取引を繰り返してきたコンサル会社経営のマドックスがホテルの部屋で射殺体となって発見された。その部屋は密室状態であったはずなのに凶器の銃が部屋の窓に面した中庭で見つかるなど、謎が多い事件だったが… 27年もの間、誰からの注目を浴びることもなく事件現場の警護に当たってきた老巡査ギャラガーに花を持たせる一編。誇り高くも慎ましく生きる男の背中に渋い魅力が漂う。密室の謎解きもなかなか凝っていて楽しめる。ついつい部屋の見取り図を書いてしまった。

ジョン・F・スーター「ある迷宮事件」

何事に対しても冷淡な夫ジェークの愛情に飢えていた妻ネリーが行商人のベンと関係に陥るのに大した時間はかからなかった。だが、ある日を境に突然ベンが行方不明となってしまい… 元警察署長だった老人が未解決事件を回想する、文庫本で6頁の超短編

アル・ナスバウム「ただ一つの規則」

手荷物に仕込まれた爆弾によって8人もの空港職員が犠牲となるテロが発生。とある事情からニューメキシコの閑職にある特別捜査官ペニーが容疑のかかった3名の日本人テロリストを追う。主人公が見せるハードボイルドな解決法と引き際から垣間見える男の美学。

フランシス・M・ネヴィンズ・ジュニア「推理ゲーム」

飛行機で席を隣り合わせた女性ロビンが推理小説好きと知り、過去に自分が担当した小説顔負けの事件の思い出を語る元警官ジャック。自殺に見せかけて某会社社長を殺した犯人が誰か、ロビンは言い当てられるか。いくら何でも犯人がお粗末すぎ。ネヴィンズ Jr の評伝は細かくて好きですが、短編となるとどうも苦手です。理屈っぽいというか回りくどいというか。しかも今回のようなオチではちゃぶ台をひっくり返したくなってしまいます。

キャスリーン・ハーシェイ「静かな住宅地」

美しさを武器に複数の既婚男性と関係を持ち、いろいろな物を貢がせていた人妻ジュリ=ローズが死亡した。それぞれの夫が彼女と浮気していることに気付いていたダイアンら三人は、自分たちが毒を塗っておいた切手シートが死因ではないかと話し合うが… 彼女の死の真相を知るただ一人の人物であるヒックス保安官が選んだ事件の処理方法は道義的に正しいものだったと言えるのかどうか。それを読者に考えさせる意味深な結末に非常に興味を覚えた。別の作品も読みたい。ピンとくる作品の少なかったアンソロジーの最後で印象深い一編出会えて嬉しくなった。 

犯行現場へ急げ (1982年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

犯行現場へ急げ (1982年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

EQ 編集部編『英米超短編ミステリー50選』

(読了日:2018年09月14日)

トニー・ウィルモット「過去の秘密」

お昼休憩で訪れる公園でよく見かける若い娘と言葉を交わすことをささやかな楽しみにしている市職員スマイズは、その娘が古い車の所有者について熱心に調べ回っていることを職場で偶然に知ってひどく動揺する。なぜならその車は… 苦くて複雑な読後感を残す。

ナンシー・ピカード「同居人」

頻繁にかかってくる無言電話を恐れる妻を家に残して出張中のジーン。宿泊先から連絡を入れると妻が怯えた声で応答したため、ちょっとした出来心から無言を貫いてみたところ、知らない男の声がして… ほんの一瞬の「魔」が人間の運命を大きく狂わせる怖さと虚しさ。

ヘレン・メリアン「十五年後」

成績優秀で将来有望と思われていた少年が当時唯一親しくしていたのは勉強が苦手で「警官ごっこ」が大好きな腕白スティーブだった。少年の引越を境に疎遠になっていた二人に不意に訪れた再会の日とは。原題 Night and Day (正反対の二人を暗示) がうまい。超短編

ヘンリー・スレッサー「目」

ボスから「人目に付かない簡単な仕事だ」と言われて殺しを引き受けたリオン。人里離れた場所にあるターゲットの家へ下見に行ってみると、すぐ目の前に建つ家に暮らす老婆が玄関先の揺り椅子に座っていて… スレッサーが得意とする何とも可笑しい結末を素直に楽しむ。

パトリック・アイアランド「発見」

同じ大学で働く博士に手柄を取られないよう単独で遺跡発掘の旅に出る准教授ハロウェイ。洞窟の奥で古代の壺を発見するが、懐中電灯を壊して闇の中に閉じ込められてしまい… 祖母の財産に手をつけてまで欲を満たそうとした男の末路。究極の選択。どちらも悲惨。

ルース・レンデル「苦い黄昏」

入院中の男子が「友人の話だ」と前置きして知人に聞かせる話。夫の浮気相手に復讐するつもりだった妻が… じとじと・ねちねちした話が多くて苦手なレンデルですが、いざサラッとしていると何だか拍子抜けしてしまうという… 読み手はわがままですね。作家は大変だ。

アンドリュー・クレイヴァン「これが最後よ」

度重なる夫の浮気に悩まされるマーガレットは相手の家を訪れて直接対決を狙うが相手の若さと美しさに圧倒されてしまう。後日、肉切り包丁を入れた買い物袋を持って彼女の家を再訪すると… あっと言わせる結末。何かと世話のかかる夫に思わず苦笑。

サイモン・ブレット「極秘情報」

街娼の女性が自転車のチェーンで絞殺される。9ヶ月ぶりに連続殺人魔「13日の殺人者」の登場に警察が再び動き出すが… タイトルから結末が想像できてしまうのが残念。犯人のメンタルが案外弱いところも微妙な感じ。

アーサー・ポージス「プリントアウト」

何年も行方不明の子供の現在の姿を推定写真として表示できるコンピューターを開発して捜査に貢献する科学者が、その写真を参考に警察が保護した少女を偏愛していた変質者から脅迫を受け… アシモフ編『三分間の宇宙』に収録されていそうなSF風味の超短編

クリスチアナ・ブランド「目撃」

お抱え運転手スミスが運転するロールスロイスの後部座席から、背中にナイフの刺さったアラブの族長ホラー・ホラーの死体が発見され、スミスが容疑者として警察に連行されるが… いくら何でもそれは厳しいんじゃない?という設定と結末にモヤモヤが止まらない。

ジョン・バーク「パートナー」

ひとつ屋根の下で暮らすシンディの支配的な性格に嫌気が差しているアレックスは、ある日の夕方の散歩中、通りを渡ろうとしている彼女に対し、ある反抗を試みたところ… 先入観をガラリとひっくり返される結末に「そういうことだったのか」と思わず膝を打つ。

アヴラム・デイヴィッドスン「追いはぎ」

夜遅くの電車を降りたところで何者かに後ろから頭を殴られ、下着以外を身ぐるみ剥がされてしまったスレイドだったが、警察から変質者と間違えられたりして仕事に支障が出るのを恐れて草むらから出ることができず… だから何なの?な終わり方にポカーン。

ミルトン・バール「トラック・ストップ」

長距離トラック運転手の溜まり場であるカフェに新米運転手らしき見慣れない男が現れる。暴走族三人組がその男にちょっかいを出し、歌えだの踊れだの命令して笑い者にするが… 男と入れ違いで店にやってきた常連客の一言に思わず吹き出すコミカルな一編。

スティーヴ・シャーマン「石の壁」

妻デブラを亡くしたアルバートは一週間家に閉じこもった後、日々黙々と石の壁を作ることに没頭する。やがて壁が隣人ウェズリイの敷地内に侵入し始めるが、アルバートは一向に意に介さない様子で… 彼の行動に隠された本当の意味を知らされる瞬間、胸にジワッとくる。

マイケル・J・エルリッチ「女房の殺し方」

ハリーは水漏れなどの家庭内の問題は何でも自分で直して節約したい主義だが、妻はそれをしみったれだと非難。事あるごとに口論になる二人。バーテンのビルに愚痴をこぼした勢いで「奥さんを事故で亡くしたなんて幸運だ」と口を滑らせたハリーだったが… 5ページ半のショートショートなのでこれ以上書けないけれど、何でもかんでも DIY にこだわるのもなかなか困りものだな… と失笑させられる結末。急展開の印象を与えることなく起承転結でしっかりと面白みを伝える技術は本当にすばらしい。これだからショートショートはやめられないんでしょうね。

キャロル・ケイル「殺意の明日」

家庭内で絶対的権限を振るって何もかも思いのままに操る夫に対し、いつしか殺意を覚えるようになったロイス。ある日発覚した水道の配管ミスにかこつけた夫の毒殺を計画するが、もう少し自分一人でいろいろな雑事をこなせるようになってから実行しようと思い直し… あはは! 目標に向けて大きな決断をした人間は強いですね。火事場のク◯力を発揮し始めた妻を前にした夫がどう変わるか。家庭内のパワーバランスについて考えさせられる人が少なからずいるかも…? 意外な展開で面白かった。

ジョージ・バクスト「言わなきゃよかった」

アパート内に越してきた女性が日夜奏でるひどいピアノの音に悩まされる作家のマルカムは、管理人に訴えたり彼女に直接手紙を書いたりするが効果はなく… うーむ。いまいち。最後の「言わなきゃよかった」の意味するところがよくわからなかった。

スティーヴ・アレン「長い剃刀」

「ハリウッド式殺人法」として既読につき、読了ツイート省略。

ジェーン・カーター・ラッキー「万全の対策」

「用心するに越したことはない」が口癖で、普段着を鍵付きトランクに入れたり車のバッテリーを外したりする夫に辟易している妻が主人公。こうなるだろうと簡単に予想できる結末にちょっとしたおまけ付き。吹っ切れた女はしたたかで恐ろしい。

エドワード・ウェレン「義を見てせざるは」

自動車事故で脚に大ケガを負って松葉杖生活を送るマーティン。自宅そばの暗がりに停まった車から女の悲鳴が聞こえる。窓から様子を伺っていると、女がナイフを持った男に羽交い締めにされ… どこで誰が見ているかわからないことを忘れちゃダメですね。

レジナルド・ヒル「巷説」

自分が創作した架空の話がどのような尾ひれを付けながら巷間に広がっていくかを研究中のアンは、偶然バーで隣り合わせた女がその作り話を友人に聞かせているのを耳にするのだが… 話の中の人・伝える人・聞く人が交錯してわかりにくいのが難。幻想小説の雰囲気が漂う。

ウェイド・H・モズビー「ゴルフ狂」

ゴルフ場のグリーンに立つと人が変わったように閉鎖的・攻撃的になるハリーと週二回の面談をしている主人公は、彼を偏執病の一種と考えていたのだが… おっと、そういうことだったのね。作者の思う壺にズボッとハマってしまった。何だか妙に悔しいわ…!

ジョイス・ハリントン「警官グルーピー

警官マイクがバーで出会った女ラスティーは彼の仕事や銃に興味津々であれこれ話を聞きたがるが、マイクはあまり多くを語らず、彼女と早く二人きりになることばかりを考えている。なぜなら彼は… 結末に向けてもう少し加速度的なスリルがあるとよかった。

エリザベス・テイラー「蠅取り紙」

祖母の命令で渋々ピアノのレッスンに通う11歳のシルヴィア。バスの中で見知らぬ男からしつこく話し掛けられて困っていたところを中年の女性によって助けられるが… 静かでのんびりとした風景描写につられてボーッと読んでいたらサイコな結末が待っていた。怖。

ジェイムズ・ホールディング「世界に一つ」

切手仲買人カーマイケルは男性客クラドックが持ち込んだ複数の古切手の中に、世界でたった一枚しかないと言われる英領ギアナのーセント切手を見つけて驚愕する。遊び心があって軽妙だが王道。もっと毒気ある結末だったら忘れられない一編になったかも。

E・J・ワグナー「シェフのおすすめ」

週刊誌の料理欄を参考に来客用ディナーを必死で用意するルースの頬には前日に夫から殴られた際の痣ができていた。レシピ通りに作った料理がなぜか失敗して夫からまたも激しく罵られたルースは… 夫が払わされた長年の抑圧のツケとは。おぉ、怖い!

ジーン・L・バッカス「ラスト・ランデブー」

海辺の食堂で老女から相席を申し込まれた主人公の女性。一度は承知したもののやはり一人にしてほしいと伝える。なぜなら彼女には静かに浸りたい思い出があり… ミステリに属するかどうかは疑問だが、出会えてよかったと思える深い味わいに満ちたお話。

パトリシア・J・サーモンド「ガス・ステーション」

夜勤を終えて車で自宅へ戻る看護婦 (本文ママ) は、近頃周辺で多発している連続暴行事件を思い出していつになく緊張しながらハンドルを握るが、途中でガソリンが残り少ないことに気付き… 主人公とともに感情のジェットコースターに身を任せる。5ページ程度の文章にショートショートの面白さを手際よく全部詰め込んだ、非常によくできた作品だと思いました。

アル・ナスバウム「ヒーロー」

エンジンが落下した際に尾翼を損傷して操縦不能となった旅客機が湖に緊急着水する事故が発生する。大きく二つに折れて湖底へと沈みゆく機体から何人もの人を救った勇気ある男性の正体とは。その彼が未来に向けて残した明るい一筋の光とは。静かに心に染み渡る一編。

ピーター・ラヴゼイ「死者の託宣」

ギリシアで新婚旅行中のヘレンは夫が街で見つけたクリケット場で仕方なく試合を見物することになって退屈の極み。そこへ御者が名所「死者の託宣所」へ行ってみてはどうかと進言し… 現実と幻想が交錯した後に訪れるまさかの結末。ラヴゼイの引き出しの多さ。

ロレイン・コリンズ「飢えた幽霊」

シンガポール駐在中の掘削技師ハーヴィーは、何やら曰く付きの高級アパートの一室を格安で借りられるらしいと友人から聞いた話に飛びついたが… 悪どい不動産屋に酷い目に遭わされるハーヴィーがさすがに気の毒。ただで済むと思うな!と彼の代わりに言いたい。

ヒラリー・ウォー「お訊きしたいこと」

金物店を経営するマイクの妻メアリは深夜の事務所で共同経営者ジェイクの撲殺死体を発見。そこへ偶然にも現れた夫から「二人で一緒に死体を見つけたと証言しろ」と言われ、メアリは彼に対する疑念を強めてゆく… ドメスティック・ミステリーはやはり好物。

ロバート・バーナード「消した女」

恋人との付き合いが面倒になってくると、彼が元恋人をどのように「消した」かを聞かせて首尾よく女を追い払う主人公マイルズ。読者が英文学や詩に詳しい場合、マイルズの特技の元ネタがすぐにわかってしまう。そんな相手でも唸らせる何かが一つあればよかった。

ジャック・リッチー「バード・ウォッチャー

森の中で野鳥の巣を観察をしていた主人公の前に、死体を肩に担いだ男が茂みの中から突然現れる。男はいずれ大統領の座を手に入れるだろうと噂されている有力者で… 権力を持つ人間と彼の弱みを握った平凡な人間との息詰まる駆け引き。その結末とは。ジャック・リッチーの作品には、彼が持つ「人間愛」「隣人愛」みたいなものが漂っている気がする。どことなくあったかい雰囲気があって好き。

フリップ・ジャレット「賭け」

とある街のバーに一人の見慣れない男が現れる。地元の若い常連客を相手に賭けダーツに興じ、負けた若者に「おれがここにいることをクレーマーという男に伝えてくれ」と頼む。過去の因縁に区切りをつける時が来たとお互いに悟った二人の男を描く、渋みのある一編。

シャリン・マックラム「醜い花嫁」

死刑執行間近な囚人ケニーとしばらく文通した後に結婚したヴァーニーは刑罰制度の是非を問う演説や講演などで世間の注目を浴びて時の人に。ケニーの死後は回顧録などで一儲けするつもりのヴァーニーだったが… ある人物の活躍によって彼女の強欲に鉄槌が下る。

マイケル・タルボット「アビンドン広場の外れ」

過去の汚点をネタに他人を強請って金儲けをするエイドリアンの元に「不可思議商会」と刷られた謎の名刺が届く。好奇心に負けた彼が店を訪ねると、そこには過去が覗ける鏡や本などがあり… 店に導かれた理由に気付かなかったエイドリアンの末路は。いわゆる「奇妙な味」が好きな人は「不可思議商会」の字面だけで胸躍ってしまうかも。ロアルド・ダールやロバート・ブロックあたりの作家をチラチラと脳裏に浮かべつつ読み進め、彼らだったらどんな落とし前をつけただろうか… などと妄想を楽しんだ。私にとってはもう少し毒のある終わり方が理想的。

フランシス・M・ネヴィンズ Jr「ワイオミング心中」

ヴェガ上院議員とカルボーネ一族による金銭授受の現場を隠し撮りしたビデオをめぐって、男女二人が繰り広げる騙し合い。原題 Counterplot から想像できるとおり、作者によるプロットこねくり回しゲームを素直に楽しめるかどうかがポイント。

キャサリン・パトリック「千慮の一失」

女好きで酒浸りの夫に嫌悪を募らせる妻が息抜きに出かけたバーで旧友マーガレットと偶然再会。浮かない彼女に何があったのか尋ねると、つい最近男に捨てられたところだと言う。詳しい話を聞くうちにその男の正体が… 悲劇をケロッと書いたタッチが面白い。

ポーラ・ゴズリング「買い物は土曜日に」

ティムはバーゲンでごった返す百貨店などで店員を装い客から預かったクレジットカードを盗むのを得意な手口とする泥棒。そのカードを一日だけ使って足がつかないように買い物をするのが楽しみなのだが… 上手く立ち回っているつもりでも結局は犯罪者。

アンドリュー・ヴァクス「アリバイ」

四年の歳月と数万ドルもの大金を費やして主人公がようやくたどり着いた謎のポーカークラブへの入口。一度訪れるごとに五万ドルも支払う必要のあるクラブが存在する本当の理由とは。最後まで読んでもスッキリしない部分が残った。ハードボイルドの香りも苦手。

ドロシー・A・コリンズ「レシピー控え帖」

父親から全財産を受け継いだ双子の姉ナタリーを毛嫌いするセアラは、ある日ナタリーが家に連れてきた三流舞台俳優ジェラルドと恋仲に。遺産を相続したのは自分の方だと偽って結婚話を押し進めるが… 姉への恨みをひたすら募らせる妹の毒舌に思わず失笑。

ビル・プロンジーニ「現行犯」

既読につきツイート省略。

T・M・アダムズ「犯罪者誕生」

金遣いの荒い妻のせいで慢性的な家計の逼迫に悩まされるジョージは、近所の歯医者で見かけた犯罪雑誌で脱獄囚として紹介されている男が経理課の同僚エドだと気付き、彼から口止め料を受け取り始めるが… ミイラ取りが何とやらの典型例で、新鮮味に乏しいのが残念。

T・M・アダムズ「切り札」

トランプの手品が得意なチャックは、友人マークの前でトランプを広げて、どれでも好きなものを一枚選ぶように言い… 一万ドルもの金を賭けようと突然言い出したチャックの真意とは。マークの義娘の口の利き方に終始イライラさせられたことが一番印象に残ってしまった。50もの短編を収録したアンソロジーで、なぜよりによって同じ作家の作品を二つ続けて載せねばならなかったのだろう?という疑問も。

ジャック・リッチー「ダイヤルAを回せ」

健康問題を抱えた裕福な老人がホットラインに何度か相談の電話をした後に銃で頭を撃って自殺したが、ターンバックル刑事は自殺説を初めから疑っており… 推理を披露する機会を逸して愚痴るターンバックルと彼を慰める相棒ラルフの距離感が最高。大好き。

アン・ベイヤー「血縁」

キャプション・ライターのルイーズは、作家として大成功を収めた妹コーラの話題から距離を置くためにクルーズ船の旅を楽しむことにしたが、よりによって同じ船で妹が朗読会を行うことを知り… ルイーズのアイデンティティが大きく揺らぐ場面が読みどころ。奇妙な味。

ジェイムズ・M・ホールディング「信用ゆえに」

印刷関係の仕事で一儲けしたボビーは妻マーゴとともにクレジットカード中毒となるが事業の売却によって何とか持ち直す。その後は某クレジット会社の巡回代理人として働き、再び金回りのよい生活を送り始めたのだが… 知的犯罪のカラクリが興味深い。少し前に読んだ「犯罪者誕生」に似たオチだったため、新鮮味を感じられなかったのが残念。別のアンソロジーで読んでいたらもっと楽しめたように思う。

ロズ・アヴレット「骨董品が多すぎる」

自宅アパートの玄関ホールに張り巡らされた鏡を覗くたびに何となく気味の悪さを感じるインテリア・デコレーターのマイアラは、夫が出張で不在にする間に無断で改装工事を行うことにしたのだが… 夫の職業上の特技が重要な伏線となってオチを盛り上げる。

コーネル・ウールリッチソーダ・ファウンテン」

若者特有の瑞々しさでいっぱいの超短編。その短さゆえに若干忙しい展開だけど、18歳の主人公にフィットするテンポのよさがむしろ心地よい。コミカルなオチには思わず声出して笑った。女性がろくな描かれ方をしていないのはウールリッチの仕様。やむなし。

英米超短編ミステリー50選 (光文社文庫)

英米超短編ミステリー50選 (光文社文庫)

 

 

アイザック・アシモフ他編『ビッグ・アップル・ミステリー マンハッタン12の事件』

(読了日:2018年8月28日)

ジェイムズ・ヤッフェ「春爛漫のママ」

甥夫婦に脛を齧られながら暮らす裕福な伯母マーガレットは友人がいない孤独を紛らわせようとして新聞に友人募集の広告を出す。農園主キースと文通で親しくなり、ついに彼がニューヨークへやってくることになったが… 刑事の息子を持つ母が安楽椅子探偵。裕福で自分を頼ってくれる親戚があっても孤独感を拭うことはできなかった老婦人を巡る、あまりにも切ない真実。実地調査と科学的根拠に乏しい点から安楽椅子探偵ものはあまり好みではない上、その探偵が (たしかに賢くて気高くはあるけれども) 一風変わった中年女性ということで、ほぼ消化読書でした。

スチュアート・パーマー「緑の氷」

元小学校教員のヒルデガードが活躍する短編。宝石店のショーウィンドウからダイヤを盗んだ男によって老巡査が射殺された。有力な証言を得られない警察は包囲網を張って犯人が再び現れるのを待つが… おばさん探偵の好奇心と行動力は警察をも凌ぐとは恐るべし。(探偵が男性じゃないとどうしても興味が薄れてしまうのはなぜなんだろう… しかも助手もまた男性じゃないと気分が盛り上がらないのはなぜなんだろう…)

ヒュー・ペンティコースト「ジェリコとアトリエの殺人」

ある実業家の息子ポールが肖像画を描いてもらう目的で画家シェリダンのアトリエを訪れていたところへ何者かが侵入して二人を射殺する。かつてポールの父がマフィアの息子を死に追いやったことに対する報復なのでは?と世間で騒がれ始め… 私立探偵ジョン・ジェリコのシリーズからの一篇。ある人物が登場した瞬間からそこらじゅうに犯人臭が漂う。あまりにバレバレだから何か裏があるのかと思いきや何もなし。殺人の動機も薄っぺらで自己中心的。謎を読み解く楽しさが感じられなかった。このアンソロジー、ひょっとしてハズレかもしれない。

クレイトン・ロースン「あの世から」

霊媒師リスとともに書斎で幻視実験をしていた医師ドレイクがナイフで刺し殺される。事件発覚時リスは頭を強く殴られて昏倒中、部屋の窓も扉も内側から紙テープで封じられており、凶器も見当たらない… 密室殺人の謎を魔術師A・マーリニが見事に解き明かす。創元推理文庫『魔術ミステリ傑作選』にも収録されている一篇。ミステリに魔術を持ち出したら何でもありになってしまうんじゃないの…?という気持ちが根っこにあるせいか、どうも斜に構えて読んでしまうのがいけないと思いつつ、やはり苦手な魔術師マーリ二もの。一部たどたどしい翻訳が気になった。

フランセス & リチャード・ロックリッジ「殺人の"かたち"」

高校時代の同級生が久しぶりに集うパーティーで次々と思い出話を口にしていた主賓ハートリー。お酒は飲めないにもかかわらず途中から酔ったような顔つきになって階段から転落、首の骨を折って即死。NY市警のウェイガンドが事件に挑む。パーティー参加者 7 人の名前が何ページ読み進んでも頭に入らなくて難儀した。驚異的な記憶力を持つハートリー以外の人物描写が乏しくて見分けがつかず、犯人が明かされる場面まで進んでも全くピンとこなかった。頭の働きが頗る鈍い日に読んでしまったのかもしれないけど、今さら再読しても仕方ない。

エラリー・クイーン「一ペニー黒切手の冒険」

ヴィクトリア女王の署名が入った高価な黒切手が古切手商の店から一枚盗まれた。その犯人と特徴を同じくする男が書店から『混迷のヨーロッパ』という本を買い占めた上、その本の持ち主の家にまで次々と押し入るという不思議な事件を担当するエラリー。ある点において犯人の手口が一般的な強盗とは異なっていることに気付いたエラリーの勝利。彼の才能に一目置きつつも少し煙たがっているヴェリー部長刑事とのコミカルなやりとりが謎解きの面白さに色を添える。父クイーンの名前を知って個人的に興奮。祝・クイーン作品で初めて犯人当てに成功しました。

R・L・スティーヴンズ (エドワード・D・ホック)「世紀の犯罪」

50万ドル相当の積荷を貨物船から盗むことで歴史に名を残したいと願うラガーは、友人アンディの助けを借りてボートなどの手配を済ませ、貨物船の到着を待つばかりだったが、恋人エディスからアンディに関する嫌な話を聞いてしまい… このオチはないでしょう… というのが率直な感想。いろんな意味でひどい。積荷の中身がラストで明かされ、たしかに成功していたら当時の米国は大変な騒ぎになっただろうな… と想像してみると、少し気分がよくなる。かも。

レックス・スタウト「殺人は笑いごとじゃない」

有名デザイナーである弟アレックの前に突然現れて会社経営にまで口を挟むようになった女性ヴォスが目障りで仕方のない姉フローラは私立探偵ネロ・ウルフに彼女の身辺調査を依頼。ところがウルフと電話中だったヴォスを何者かが襲って殺してしまい… 今回はウルフの美食家もしくは蘭愛好家としての側面を描いた場面が少なく、助手アーチーとのツンデレな掛け合いも控えめ。その辺りを何よりも楽しみにしている読者にとっては満足度が低いかもしれない。自分で◯◯◯を調べるウルフや彼の真意を理解し損なって微妙に凹むアーチーが見られるのはよい。

Q・パトリック「一場の殺人」

殺人課トラント警部補の自宅に届いた謎の手紙には、マーナからジョージに宛てた「明日五時に。万一の場合には拳銃の使用も辞さない」との警告が書かれていた。アパートを訪ねたトラントをマーナの義妹が招き入れる。すると誰もいないはずの寝室から物音が聞こえて… 犯人のしたたかさが感じられる計画殺人をトラント警部補が10分足らずで飄々と解決してしまう軽めな味わいの短篇。トラントの温厚な性格と柔らかな物腰が関係者の警戒を解いていく辺りは読んでいて清々しい。ところどころトラントが女性好きであることをサラッと匂わす部分もよい。他の作品が気になる。

コーネル・ウールリッチ「地下鉄の怪盗」

盗んだ大金を入れたスーツケースを持ったまま警察の捜査網を器用に潜り抜けて逃亡を続ける〈怪盗〉の様子を大々的に報じる新聞を読んだ地下鉄の車掌ディレニーは担当車内の不自然な場所に置かれたスーツケースを発見。目を離さないように注意していたが… 警察と接触できるタイミングを待っていられないと判断したディレニーが果敢にも〈怪盗〉との直接対決に挑む。終盤は思わず息を飲む活劇が展開。アクション映画の一部を覗いているかのよう。前半で地下鉄車掌の仕事ぶりが妙に細かく書かれている点以外、ウールリッチらしさはあまり感じられない異色作。

エドワード・D・ホック「スペード4の盗難」

NYに出かけた怪盗ニックは信用詐欺で稼ぐ友人ロンと偶然の再会を果たし「二軒の住宅にあるトランプ全てからスペードの4を抜きとってくれないか」との相談を持ちかけられる。準備不足が気になりつつも高額の報酬に釣られて盗みを引き受けたニックだが… 以前から気になっていた怪盗ニックを初体験。完全無欠で荒っぽいところのある人物像を思い描いていたけど、実際には情に流されたり最後の詰めが甘かったりと人間くさいところがあって、逆に魅力的に思えた。「値打ちのないものしか盗まない」をモットーにする怪盗ニック。今とても気になる存在です。

アイザック・アシモフ「よきサマリアびと」

女人禁制の黒後家蜘蛛の会に例外として認められた未亡人バーバラをゲストに迎えて相談に乗る会員 6 名と給仕ヘンリー。宗教や歴史が絡んでくるとどうしても腹落ちの度合いが減ってしまい、今回も「ふーん (???)」という感じで終わってしまった。 

 

エラリー・クイーン編『新世界傑作推理12選』

(読了日:2018年8月9日)

P・Gウッドハウス「エクセルシオー荘の悲劇」

引退した船乗りたちが暮らす下宿屋の一室でガナー元船長が毒殺された。コブラの毒による過失死とされたが、他殺だと確信する女主人ピケットは探偵スナイダーに相談する。生意気な助手オークスの良い薬になればと思い、この難事件の捜査を命じるが… 自信過剰な助手の鼻っ柱を折ってやりたくて仕方のない探偵スナイダーのお茶目な上司ぶりがおかしくて何度もクスクス笑ってしまった。男二人の掛け合いが醸し出すユーモアとしっかりした謎解きが楽しめる短篇に大満足。彼らのコンビぶりが気に入ってシリーズものかどうかすぐに調べたけれど単発と判明。

エドワード・D・ホック「三人レオポルド」

ボスを殺して麻薬取引の独占を狙うハザードを逮捕すべく、彼が滞在中のヘルス・クラブへ潜伏捜査に向かうレオポルド警部。彼の到着を事前に把握していたハザードの前に現れたのは背格好のよく似た三人の中年男性で… 読者は殺人犯とともに警部探しをしながら、誰に化けているかわからない警部が遊び心を交えながらじわじわと (しかし確実に) 犯人に肉薄していく気配も味わうという、二つの視点が楽しい短編。必要ならば躊躇なく細かいルールを無視する行動力を備えたレオポルド警部がほどよく男くさくてカッコいい。既読レオポルドものでは一番好き。

ルース・レンデル「生まれついての犠牲者」

「運命の皮肉」として既読につき読了ツイート省略。

ヘンリー・スレッサー「世界一親切な男」

ボートから転落した妻ネッティを見殺しにした四人の男を許すことにしたコーヴィは、私立探偵を雇って男たちの趣味や性格を念入りに調べ、一人一人にふさわしい内容の親切を人知れず施していく。ヒッチコックに愛された短編名手による粋でブラックな一篇。スタイリッシュさとブラックさをここまで絶妙なバランスで両立させられる作家はわたしにとっては今のところスレッサーくらいなのですが、似たような作風でパッと思い浮かぶ (できれば短編が得意な) 作家の名前がもしあったら、ぜひお聞きしたいです。

ハロルド・Q・マスア「受難のメス」

不正医療裁判で敗れ、手術費全額返金の判決を受けた医師ウェーバー。さらに運の悪いことに、麻薬中毒の若者二人組に自宅を襲われ、妻の宝石や薬品などを盗まれるが、そこに七万ドルもの大金が混ざっていたことが後に判明し、事件は意外な方向へと進んでいく。主人公ジョーダン (ウェーバー医師の弁護士) の脳内で組み立てられた理論を最後に一気に明らかにして事件が解決されるタイプの作品。具体的/科学的な捜査を伴わないために結末が唐突な印象。前半の不正医療裁判に関する部分はもう少し短くてもよかったかも。原題 Trial and Terror のひねりがよい。

ジョイス・ポーター「臭い名推理」

女好きで知られるデザイナーが自宅に友人らを招いてパーティーを開いた後で射殺された。同居人である叔母グラットの証言から、犯人は車を運転できる友人 6 人に絞られた。さらにドーヴァー警部はデザイナー宅のトイレからある物がなくなっていることに気付き…「史上最低の探偵」とも呼ばれるドーヴァー警部もの。被害者の叔母が証言している最中に鼾をかいて寝るなど、惜しげもなく最低ぶりを見せてくれる警部に失笑。面倒くさいことはすべて部長刑事マグレガーに押し付けるところも相変わらず。その上、見目麗しくも何ともないときているのに憎めないんだな。ドーヴァー警部の何がいいって、被害者や容疑者の名前を覚える気が全くないところ。本当はチェシャーなのにシュロプシャーとかウィルトシャーとか呼んだりして。身なりはだらしないし太っているし食べ方は汚いしどうしようもないおじさんなのにどこか憎めないんですよね。

パトリシア・マガー「完璧なアリバイ」

仕事で知り合った若い女性に恋をしたフランクは、遠い昔に愛想が尽きた妻や気の強い愛人との関係に終止符を打とうとする。昨今話題の強盗殺人魔の犯行に見せかけて妻を殺すようプロに依頼し、犯行当夜の自分に完璧なアリバイを作り上げたフランクだったが…考えに考え抜いてからでないと何の行動にも出ない性格のフランクが意外にも追い込まれてしまった厳しい状況とは。罪を逃れるために用意した完璧なアリバイがまさかこんな風に効いてくるなんて… と読後しばらくボーッとしてしまった。レベルの高いひねりを楽しむ一篇。

ビル・プロンジーニ「朝飯前の仕事」

ロスの超豪邸に住む依頼人から頼まれたのは、娘の披露宴で高価な贈り物の数々が盗難に遭わないよう部屋を数時間だけ見張るという単純極まりない仕事だったが… パルプ・マガジン収集を何よりの趣味とする「名無しの探偵」が活躍する人気シリーズからの一篇。犯人が使ったトリックは「なぁんだ」と「それは気付かないわ」の組み合わせ。いまいち腑に落ちる感じがないけれど、主人公が現場に持っていった『ダブル・ディテクティヴ』にコーネル・ウールリッチ の小説が載っていたという描写だけで十分に興奮できたので、これはこれでよしとします (上から目線)。

ドナルド・オルスン「汝の隣人の夫」

夫が仕事の都合で月の半分近く家を空ける生活を持て余しているセシルは、隣家に越してきた既婚男性フィリップを相手にしたロマンチックな妄想を、退屈しのぎにと夫から贈られた日記帳に認め始めるが、ある日それを夫に知られてしまい… 最後の一言にゾクッ。妻の密かな楽しみが夫婦関係を揺るがしていく過程でどんどん高まる緊迫感の描き方が上手いし、まさかの真実を最後の最後に「そんな…!」という形で明かすまでの焦らしもまた効果的。手帳や日記を書くことが大好きなわたしにとっては非常に怖い、一風変わったドメスティック・サスペンスでした。

ピーター・ラヴゼイ「レドンホール街の怪」

タバコ屋を営むブレイドが二階を間貸ししている切手商メシナーは、前入居者が退去するまで一年近くも忍耐強く待ち続けて入居したわりには滅多に部屋を使っていない様子。ある日、ジェント警部がメシナーの部屋を調べたいとブレイドを訪ねてきたのだが…タイトルから何となく不気味なゴシック系の話を想像していたら大違い。どことなくほんわかしつつも英国人作家らしい皮肉もピリッと利いた小洒落た短編。ラヴゼイは「次期店長」(「肉屋」) を読んだ時に気になった作家。読まなきゃ損という話をちょくちょく読む/聞くので、短編集を買ってみます。

夏樹静子「足の裏」

都合により読了ツイート省略。

松本清張「証言」

都合により読了ツイート省略。 

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)