Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ローレンス・トリート編『スペシャリストと犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (8)』

(読了日:2019年7月25日)

まえがき

ミステリの世界で警察小説なるジャンルを切り開いた作家ローレンス・トリート。彼の持つ柔和さ・謙虚さ・勤勉さといった、人としての魅力が自然と伝わってくる、優しい言葉遣いに満ちた文章。アメリカ探偵作家クラブ傑作選で随一のまえがき。

スタンリイ ・コーエン「あいにくですが、グリッグズさん」

スキー場でリフトに座っている人間を次々とライフルで狙撃しては雪の積もった窪地へと死体を運んでいく謎の男の正体と目的は… サスペンス、スリラー、アクション、ユーモアがバランスよく融合した佳作。一人称の簡潔な文体が心地よい。

ジェイムズ・クロス「シュガーとスパイス」

ミシュランの三つ星を七年連続で獲得しているレストランの経営者兼料理長シャプタルには、厨房で働く者たちにも知られていない大きな大きな秘密があった。それを唯一知る人間は妻マリー・クロードだけで… ガラガラと足場が崩れ去る絶望感を味わう作。

スタンリイ・エリン「九時から五時までの男」

趣味雑貨商会を営むキースラー氏は毎日九時から五時まできっちりと働く生真面目人間。事務所で郵便処理を終えると急遽歯医者の予約を入れ、その後は徒歩で "顧客回り" へと出かけて行くが… これを表題作にした短編集が存在するのも納得の質の高さ。キースラー氏の言動をただひたすら淡々と事務的に書き連ねただけに見える文章から、何かよからぬことが起きようとしている、その瞬間が刻一刻と迫りつつある、という予感を確実に匂わせ、読み手の注意を一瞬たりとも逸らさせない。そうしたエリンの技術の高さには素直に舌を巻くしかなかった。必読作。

ジョーン・リクター「トウモロコシ畑の侵入者」

東アフリカで農業顧問をしているジャックは倉庫からトウモロコシの種子を盗んでいる者がいることに気付く。犯人を捕まえようと、早朝に毒矢を持って出かけるが… この作家はもれなく悲劇で終わるのが常なので、あぁやっぱり、しかない。消化読書。

ジェラルド・ハモンド「銃は語る」

銃器商キースは伯父から譲られた銃を売りたいと言う男が持ち込んだ散弾銃に気になる点を見つけたため、妻にこっそり合図を送って警官を呼びに行かせる。銃に隠された過去をあっさりと見抜くキースの職人ぶりに注目。夫婦で使う暗号が妙に家庭じみていて面白い。銃の改造や修理に関する蘊蓄がほどよく含まれているところも興味深い。小言の多い妻が仕事の面では夫を信頼していて、言われたことにはきちんと従う (ただしちょっとした仕返しは忘れない) という夫婦関係の描き方も気に入った。全体的に軽妙な雰囲気で描かれていて、息抜きにサラッと読みたい短編。

エドワード・D・ホック「マダム・ウーの九匹のうなぎ」

骨董店を営むマダム・ウーはベトナム戦争での暗い過去を背負う夫クローフォードが闘凧の試合に参加するたびに注意深く見物人たちの顔を眺めるのを不思議に思っていたのだが… 短編ながら人物をしっかり描いて物語に深みを与える技が上手い。

ウォーナー ・ロウ「支払いはダブル・ゼロ」

コリンズ氏の経営するホテルでディーラーとして雇われた美青年サムがルーレットを担当していると、ひたすら「23」に200ドルを賭け続ける奇妙な老人が現れる。何かが怪しいと感じたサムはコリンズ氏にその旨を報告に行くが… これは傑作。すっかり騙された。コリンズ氏の超人的な頭の良さに魅せられてうっとりしているところへ容赦なく繰り出されるキレッキレの捻り。ただただ瞠目するしかなかった。ロウの作品は垢抜けたユーモアに加えて人間に対する温かな愛情が溢れており、どんなオチでも決してイヤな気持ちにならないところが魅力的。ますますファンに。

ジョン・D・マクドナルド「ピンぼけ」

妻の葬儀を終えたフレッチャーは以前から親しくしていた裕福な未亡人ヘレンとともに新生活を始めるつもりでいたが、写真が趣味だという見ず知らずの貧相な男が突然やってきて… その男が撮影した一枚の写真が暴く真実と、写真そのものに隠された大きな秘密。練りに練ったプロットをたった7ページの超短編で過不足なく書き尽くす技術に感服。伏線の回収もきれいでスッキリした読後感を楽しめる。無駄のない書きっぷりが印象に残ったので短編集を探してみるつもり。

J・I・ムワゴジョー「金銭愛」

法外な金額の自動車保険を契約した直後に高級外車で事故を起こした男に対して本当に保険金を支払う義務があるのかを調べてほしいと保険会社の部長から頼まれた興信所のキドーチが男の身辺を調査していくと… さもありなんという平凡な内容で終わる一編でした。

ビル・プロンジーニ「〈シャドウ〉を集めた男」

法律事務所員コンウェイの趣味はヒーロー小説の主人公シャドウに関するものを徹底的に集めること。唯一入手できていなかった某雑誌をある日偶然に立ち寄った本屋で見つけた彼は幸せに咽びながらカフェに入り… シャドウ愛が高じて不思議なことが。プロンジーニはたまにお遊びが過ぎる気がするのってわたしだけでしょうか…

アル・ナスバウム「法廷弁護士」

勤務先の銀行から1万ドルを着服したルイーズから相談を受けた弁護士デービッドは、さらに9万ドルを彼女の口座へ移動するように命じ… ミステリを語る際にモラル云々を持ち込むのはナンセンスですが「こんな弁護士は廃業してしまいなさい!」と心底思うほどの後味の悪さ。

フランク・シスク「鉄のカラー」

かつては穀類の専売で巨額の富を築いた実業家であった老人ビセンテが、盲目の老人ミゲルに対して異様なほどに恭しい態度で接し続ける理由は何なのか。そしてビセンテの首筋を隠すように常に巻かれているネッカチーフの意味とは。全編に重苦しい物悲しさが漂う。このシスクという作家はクセが強いですね。以前読んだ「ギリシャ・リフレイン」もそうでした。独特の雰囲気で描かれる世界に入れるかどうかのハードルが結構高い気がします。

ヘンリイ・スレッサー「毒を盛られたポーン」

父親からチェスの天才児として育てられた少年マイローはクラブ・チャンピオンのクパーマンにだけは歯が立たなかった。今は遠くで暮らしているクパーマンの希望により、成人して現チャンピオンとなったマイローは郵便で彼と対決することになったが… 大人になってからもクパーマンを相手に苦戦を強いられ続けたマイローがふと目にした雑誌広告から思い付いた作戦は功を奏するのか?というスリルの先に、スレッサー流の冴えたひねりが待っている。勝ちに執着して「我を失う」マイローの心理に注目するとサイコ的な不気味さも味わえて二度と美味しい。

ジェラルド・トムリンスン「カナーシーの砲弾投手」

マイナー・リーグの優勝候補チームで活躍する不動の先発投手クネーベルが試合中に「照明の様子がおかしい」と訴えた後で急な乱調に陥る。彼の育ての親を自負する監督が慌てて医者と警官を呼ぶが… 監督の回想という形が物哀しさを引き立てる。トムリンスンは以前読んだ「ペナルティ」に続いてのスポーツもの。後味の悪さの中に微かにとぼけた風味が混じった前作と比べて、シリアスでストレートな苦味が妙に胸に迫ってきた。監督やチームメイトが受けた衝撃を想像すると切ない読後感に包まれる。

リチャード・プロッツ「キックの問題」

国際ダンス・フェスティバルに顔を出した踊り好きの警察署長モーヘッドは、ダンス研究家リーブがフロアに倒れ込んで急死するのを目撃する。フェス主催者の一人で医師のコロドニーによると、死因は動脈血栓とのことだが… ミスリードも謎解きも平板で残念。

スペシャリストと犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(8) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

スペシャリストと犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(8) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

悪夢 (1941)

Story

全面鏡張りの八角形の部屋で錐を使って男を刺し殺すという不気味な夢から覚めたヴィンスは、手首の引っかき傷、首筋の痣、男の服から引きちぎったボタンなど、夢が現実であったことを示す物的証拠を次々と目にしてすっかり動揺し、姉の夫で刑事のクリフに相談するが…

Aira's View

猟奇的な雰囲気の漂う生々しい殺人の悪夢が実は現実だったのでは…?という冒頭の急展開ですっかり心を掴まれ、否応なくグイグイと作中世界へと引きずり込まれる感覚が気持ちのよい短編。自他ともに認める遅読者のわたしが80ページをアッという間に読み終えてしまった。

自分自身を信じられず、苦悩のどん底へと突き落とされたヴィンスが、義兄クリフから疑われ、疎まれ、それでも決して諦めずに真実と向き合おうと勇気を振り絞って前進する姿に胸が熱くなる。ホラーとサスペンスの絡み合ったストーリーに、男二人の愛憎相半ばする感情が固い友情と信頼へ形を変えていく過程の描写も加わり、多面性の感じられる作品に仕上がっている。

常に自分を不完全で孤独な人間だと感じながら生きてきたウールリッチは、いつかどこかでクリフのような存在に出会いたいと願っていたのではないか…? そんな思いがふと頭をよぎった後では、なおのこと心に染みる一編となった。

悪夢 (ハヤカワ・ミステリ 776)
 

ブライアン・ガーフィールド編『犯罪こそわが人生 アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (9)』

(読了日:2019年7月17日)

ヘレン・マクロイ「燕京奇譚」

年老いたロシア公使ヴォルゴルーギイの若くて美しい妻オルガ・キリーロヴナが一人で馬車に乗って出かけたきり行方不明となった悲しい理由が、彼女を慕っていた陸軍武官アレクセイの活躍のよって明らかにされていく。しっかりした時代考証の上に成り立つ重厚な物語。

リチャード・マーティン・スターン「ミンナへの贈り物」

水夫アンディは愛妻ミンナのためにマルセイユで一箱分ものブランデーを仕入れたものの NY 上陸時にかかる税金を支払うだけのお金が手元にない。そこで猫好きの彼が思い付いた奇策とは? 思わず心がほっこりする優しい結末が気に入った。

ジョン・D・マクドナルド「二日酔い」

ひどい二日酔いで目覚めた広告マンのハドレーは、前夜の出来事を思い出そうと断片的な記憶を必死に辿っていくうち、街で買ったはずのネクタイが見当たらないことに気付き… 結末へ向かって急速に高まる緊迫感、ドライな雰囲気で突き付けられるオチが魅力的。終盤でオチの予想はつくものの、文体のせいなのか結末がドーン!とくる勢いがあった。

エドワード・D・ホック「レオポルド警部の密室」

密室のレオポルド警部」として既読。

ローレンス・トリート「悪魔のおかえし」

精神科医アイラの前に突然現れた魔王のルーは、人間が不道徳な行為をするのは精神を病んでいるからだとの医学的な考え方が広まったせいで悪の存在を信じない者が増えたことが不満な様子。精神科医を凹ませて溜飲を下げたいルーはアイラに取引を申し出て… 魂や精神に関するアイラとルーの議論に哲学的な響きがあって面白いし、悪を信じない者に悪の存在を見せつけて悪の復権を果たしたいルーの楽しそうな様子には茶目っ気も感じられて、さぁどう決着するのかな?と軽い気持ちで読んでいたら… さすがは魔王、ちゃんとやるべきことはやっていた。

ハロルド・Q・マスア「名画殺人事件」

画商ローズモントが急病死したため、遺言執行人である弁護士スコットは税務局員らとともに銀行へ資産の確認に行ったところ、何者かによって仕掛けられていた爆弾によって貸金庫が爆発してしまい… スコットにもっと個性と魅力があれば謎解きも楽しめたはず。画商と愛人と老画家の関係など、正統派な謎解きはそこそこ楽しめるものの、主人公スコットと警部補ジョンの関係が単なる友人という雰囲気で終わっていて、バディもの好きとしてはちょっと物足りない印象が残った。及第点。

ロバート・ブロック「女のことならわかっていたのに」

詐欺師ルーは入念な準備の末に裕福な未亡人ベッシーと結婚目前のところまで漕ぎつけたが、急な再婚話を心配するベッシーの兄バートが突然現れ… 笑いで終わるブロックの短編は新鮮で妙な感じがした。このオチはいくら何でも無理があるかも。

スタンリイ ・エリン「伜の質問」

父親から受け継いだ "電気椅子係" の仕事に従事する主人公は誰かがやらなくてはならないのだという義務感こそが彼の原動力だと信じて生きてきた。しかし、それを引き継いでほしいと息子に告げた時に… この題材を扱うにあたって徹底的な自己探求を行ったというエリンの熱意と生真面目さが文面から迸り出てくるような気がした。息子の口から出た予想外の質問によって一気に表出する主人公の本心にゾワッとする。

ヒラリイ・ウォー「わめく若者たち」

公園に停めた車の中で恋人ヘレンと仲睦まじくしていたところを三人組の若者に襲われて彼女を連れ去られてしまったと警察署に飛び込んできた青年ローレンスとともに現場へ向かったゴールトン警部は… ベテランの警察官が見せる落ち着きと洞察力に味わいあり。

ブライアン・ガーフィールド「スクリムショー」

事故で元夫と息子を亡くして孤独なブレンダは特にこれといったあてもなくマウイ島の安宿に滞在していたところ、大学時代の友人エリックと予期せぬ再会を果たす。彼は現地で鯨骨の彫刻師として生計を立てていると言うのだが… アンソロ編者の貫禄。

ドロシイ・S・デイヴィス「紫色の風景画」

壁紙デザイナーのメアリが大好きなモネの風景画を観るために通い詰めている美術館で火事が発生。彼女はその絵を守ろうと咄嗟に壁から外してこっそりと自宅へ持ち帰ったものの… 以前からあまりしっくりこない作家で、今回も面白さのポイントがわからず。 

 

ヘンリイ・スレッサー『うまい犯罪、しゃれた殺人』

(読了日:2019年7月15日)

「逃げるばかりが能じゃない」

勤め先の信託銀行から20万ドルもの大金を着服したポッターはあっさり自首をして刑務所へ。しかし、金の隠し場所に関してだけは意地でも口を割らず…

「金は天下の回りもの」

同僚とのポーカーで一週間分の給料をフイにしてしまったアーヴは、帰り道で強盗に襲われたふりをして警察に被害届を出したところ、本来はいるはずもない犯人が捕まったとの連絡が入り…

「ペンフレンド」

マーガレットは自宅を訪れた警官から、姪マージーが数年にわたって囚人と文通していたこと、その囚人が数日前に脱走したことを聞かされ…

「信用第一」

亡き父の友人で今は輸入業で荒稼ぎをしているパスチェッティの下で働くトニーは、史上最高額の取引の話が持ち上がった際、パスチェッティと取引相手の両方を騙して大金を手に入れたのだが…

「犬も歩けば」 

貧しい生活を送るジョーが、なけなしのお金をはたいて乗ったバスで隣り合わせた身なりのいい男の後を尾けていくと、突然その男が路上で倒れて動かなくなってしまい… ふと魔の差した善人が良心を取り戻すことで余計ややこしい事態に巻き込まれていく話。

「41人目の探偵」 

十数年前に妻を殺した犯人を街で偶然見かけたマンローから、彼と直接話ができるように仲介役を務めてもらえないか、との依頼を受けた探偵のタイリーは、中古レコード屋で男に接触することに成功し、音楽の話で意気投合 (したふりを) する。売りたいレコードを見せるという口実で、タイリーは男をホテルの部屋に呼び出すのだが…

「不在証明」

一人暮らしの娘シャロンが既婚者ベンと付き合っていることに嫌悪感を覚えているトロッター夫人だったが、ある日、シャロンがシャワーを浴びている間にかかってきたベンからの電話に出る羽目になり…

「恐ろしい電話」

共同電話に加入中のミセズ・パーチは、いちいち通話を盗聴してくるおしゃべり好きな近所の女性たちにうんざりしている。そんなある日、郡保安官事務所から「話したいことがある」との連絡が電話で入り…

「競馬狂夫人」

賭け屋から「ツケの清算が済むまで次の賭けは受け付けられない」と言われた競馬好きの主婦フランが、財布を持たずに家を出てきてしまったという芝居をバス停の前で繰り返して小銭を稼いでいると…

「気に入った売り家」

 今は亡き息子と暮らした思い出の家を法外な値で売りに出し続けるグライムズ老婦人のところへ、ようやく「言い値でも構わないから買い取りたい」と言う男性が現れて…

「老人のような少年」

仲間の誘いを断りきれずに銀行強盗に加担し、三年の刑期を勤め上げた少年ジャッキーは、現在も服役中の友人アリーの母親に挨拶しに行くが…

「最後の舞台」

最後の脱出」として既読。

「ふたつの顔を持つ男」

ひったくりの被害に遭った女性が犯人の顔を特定するために警察署で大量の写真に目を通していると、どこかで見かけたような気がする男の顔を見つけ…

「親切なウェイトレス」

ホテルのレストランで働くベテランウェイトレスのセルマは、毎晩欠かさず食事をしにくる老婆にひどく気に入られ、万一の場合には遺産を受け取ってほしいと言われるが…

「付け値」

深夜に自宅の居間で押し込み強盗と鉢合わせしてしまったモートは「妻を殺してくれたら大金を支払ってもいい」と交渉を持ち掛けるが…

「眠りを殺した男」

寝タバコの不始末が原因で妻を焼死させてしまった過去を持つキャベンダーは、ある時を境に不眠に悩まされるようになり、脳に詳しい医者に相談してみたところ…

「処刑の日」

妻を殺した罪でロッドマンを電気椅子送りにした検察官セルヴィの前に、みすぼらしい格好の老人が現れて「今夜死刑になるあの男のことで話がある」と言い…

Aira's view

今までに何百という短編小説を読んできた中で特に印象に残っている作家の一人がヘンリイ・スレッサーヒッチコックのお抱え作家として TV シリーズのヒットに多大なる貢献をした人物なだけあり、大胆なツイストや切れ味のよいオチが非常に冴える書き手だが、今回のような彼個人の短編集で作品に触れ続けていると、いつしかその面白さに反応するアンテナの感度が落ちるのか、途中からマンネリを感じてしまったのが残念だった。本格、サスペンス、社会派… といった短~中編の合間に息抜きのように味わったり、日常に生まれる細切れの時間に軽く手に取ってみたり、そういった読み方の方がスレッサーの魅力を深く味わうには向いているのかもしれない。

うまい犯罪、しゃれた殺人 〈クラシック・セレクション〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

うまい犯罪、しゃれた殺人 〈クラシック・セレクション〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

アメリカ探偵作家協会編『現代アメリカ推理小説傑作選 1 』

(読了日:2019年7月12日)

ダン・J・マーロウ「第二の人生」

死刑執行日が近付く中、当の死刑囚である自分よりもひどく精神的に追い詰められていく看守レイモンドを不思議に思う主人公は、臓器提供の意思を神経外科医に伝えた後、銃殺隊の待つ庭へ向かい… 何となくの予感が最後の一言で決定的になるのが気持ちのよいショートショート

ポーリン・C・スミス「やっかいな錠剤」

不仲のクレンショー夫妻のもとで働く家政婦ガートルードの悩みは、夫妻がそれぞれ持病治療のために飲んでいる白い錠剤があまりにもそっくりなことで…

ジョン・D・マクドナルド「悪い奴ほどよく眠る?」

キーガン警部が酒を片手に知能犯逮捕の様子を自慢げに語って聞かせる相手の「先生」とは…

ジョン・ラッツ「絵は知っていた」

妻のいかがわしい写真をネタに強請りを受けたポールは、大金を払って取り返した写真を自宅に保管していたが、そのことを運悪く強請り屋に知られてしまい…

ジェサミン・ウエスト「ジュリアのための夜景画」

血まみれになった裸足で必死に夜の街を走り回るジュリアは、一体何から逃げているのか…

ティーヴン・R・ノヴァク「訊問を終ります」

わが子のように可愛がってきた孤独な少女から恋人の子を妊娠したことを告げられた電気店主ウィリアムは彼女を元気づけようと手作りのテレビを届けに行くが、そこで彼女の死体を発見、無実でありながら逮捕されてしまい… 会話文のみで展開する超短編。無実にもかかわらず被告となって裁判で証言する道を選んだウィリアムと弁護士ブキャナンの真意が明らかとなる終盤の面白さを、ショートショート好きの人にはぜひ味わってほしい。会話文のみでも登場人物の人となりがくっきりと浮かび上がってくるところにも筆者の力を感じた。

ウィリアム・F・ノーラン「交通違反

夜を徹して速度違反者の取り締まりを行うオートバイの男は赤い点滅灯の下を猛スピードで駆け抜けていった車を追いかけて… 久々に出会った SF ショートショートで背筋を寒くする快感。脳内 BGM は大ヒット SF 映画のテーマ曲。ででん、でん、ででん…

ベティ・ブキャナン「ハリウッドの足型」

チャイニーズ・シアター前に飾られている往年の女優ドリーナの足型が撤去されそうだと友人から連絡を受けたかつての名監督ハーマンは…

ハーラン・エリスン「眼の時」

入院中の退役軍人シドニーの前に、盲目の美しい女性ピレッタが現れる。かつての彼女はモデルとして名を馳せていたが、とある秘密結社と関わりを持ったせいで…

エドワード・ウェレン「顔の値段」

クラブに来た女性客に次々とお金を渡しては相手が身に着けている靴やら下着やらを譲り受けるという奇妙な行動を繰り返している男パーリーの目的は…

エドワード・D・ホック「密室のレオポルド警部」

自分の人生が狂ったのはすべてレオポルドのせいだと信じ込んで恨みを募らせてきた元妻モニカ。姪ヴィッキイの結婚式で警部と再会するや否や、会場の隅にある鍵付きの小部屋へと呼び出して… ホックが最も気に入っているレオポルド作品ということで、たしかによく練られた味わい深い一編だと感じた。レオポルドがフレッチャーを相手に初めて離婚歴を口にする場面からグイッと引き込まれ、エンターテインメント性の高い謎解きの過程を楽しめる。上司・同僚・他部署の職員との交流を通じて、ますますレオポルド警部を魅力的に感じられるようになった。大好き。

ウィリアム・E・チェインバーズ「汝を消さば」

ソーシャル・ワーカーとして独り立ちした娘モニカのアパートを訪ねたスターンは、そこへ偶然やってきた黒人男性トッドが彼女と仲睦まじくする姿を見せつけられて…

ドナルド・E・ウェストレイク「上には上」

詐欺師ジャドは、街で偶然すれ違った男ダンが同業者であることを見抜き、互いに仕事がしやすくなるように縄張りを分け合うことで話をつける。やがて親しくなったダンから鉱山に投資する話を持ちかけられ…

ジョー・ゴアズ「裏切りの縄」

植民地主義の政府に抵抗するゲリラの一員であるシカリアスは、組織のリーダーとの交渉を望む立法府の役人から頼まれて会合のお膳立てをすることになったのだが…

スタンリイ・エリン「ロバート」

あと二年もすれば悠々自適な隠居生活を迎えられるベテラン教師のミス・ギルディは、授業中ずっと上の空にしている生徒ロバートの様子が気になり、ついには彼を問い詰めてみたところ…

ヘンリイ・スレッサー「ママの幽霊」

見世物の失敗続きで落ち込む興行主レイモンドは、突然目の前に現れた母親の幽霊から「何か手伝えることはないか」と尋ねられ…

S・S・ラファティ「頭皮剥ぎ殺人の謎」

植民地の交易所で働くステンプルの娘婿になるはずだった男が頭皮剥ぎ殺人の犠牲となってしまう。嫉妬が犯行の動機と思われたため、娘に求婚したことのある原住民たちを全員呼び集めたところ…

エリザベス・A・リン「神のお召し」

家族を亡くした人をインタビューを放送して寄付金を集める番組の司会者グラネリとともに働くカメラマンのクリスティは、以前から彼の仕事ぶりに不信感を抱いていた。ある日、彼女に誘われて取材現場へやってきた恋人ポールが不慮の事故に巻き込まれてしまい…

レン・グレイ「クリケット・クリークのかわいいおばあちゃん」

ラルフが働く保険会社へ面接に来た初老女性メイベルは非常に優秀なタイピストだとわかり即採用が決定。人柄も良くすぐに皆の人気者になったメイベルだが… あっと驚く展開の先に待つ見事なひねりに「あっ!」とつい声が出た。

アントニー・バウチャー「何にだって慣れる」

元絞首刑吏アロンゾは、絞首台に不具合が生じたために連続殺人犯ワイズに対して刑を執行し損ない、それがきっかけでワイズが後に赦免されることになったという過去を未だに苦々しく思っており…

エラリー・クイーン守銭奴の隠し金」

質屋を営む老マラキが「全財産… 400万ドル… この建物の中に…」 と言い残して亡くなったため、弁護士や遺言の証人たちは質屋の店内をくまなく探し回るが…

アーサー・ムーア「川で釣った女」

ラルフは、鉄橋の梁の上で全身ずぶ濡れになっている女性を見かける。自殺に失敗したか何かだろうと思い、自分のアパートへ案内したのだが… 一人称で淡々と語られる結末が唐突で笑いを誘う。

ジェイムズ・ホールディング「手袋をはめた手」

「最後の決め手」として既読につき省略。ブログ記事なし。

ジョン・ディクスン・カー銀色のカーテン

既読につき省略。

ジョー・L・ヘンズリー「最後のドアを閉めよ」

不良少年にナイフで切りつけられた際の傷が原因で車椅子生活となったウィリーには、ある特殊な能力があり…

アルバート・F・ナスバウム「贋札を売る男」

バーで見かけた羽振りのよさそうな男に、どこからどう見ても本物にしか見えない巧妙な贋札を額面の半額で買わないか、と取引を持ちかける主人公の狙いとは…

ジーン・L・バッカス「妹とわたし」

大好きな父親が家政婦エレノアと恋仲になり、結婚まで考えていることを知った双子の姉妹クララとセリア。見た目は瓜二つでも、父親に対する愛情の示し方は全く異なっているようで…

リチャード・エリントン「さよなら、コーラ」

22年も連れ添った妻コーラに突然去られて傷心のカーターは「犯罪組織から命を狙われている弟グレッグを何とかして助けたい」と友人のトミーから相談され、しばらく考え込んだ末に一肌脱ぐ決意を固め… 収録された30作中で最も胸に沁みた傑作がコレ。妻や友人に対するカーターの思いの強さにジーンときて、読後はしばらくポーッとしてしまった。これだから本読みはやめられないのだな。こういう味わいのあるショートショートともっともっと出会いたい。そのためにもっともっとたくさんのアンソロジーを読みたい。心からそう思った。

ビル・プロンジーニ & バリー・マルツバーグ「十一回目の殺人」

ケナーは青酸カリ入りコーヒーを妻に飲ませた後、二本立ての映画を観に出かけるが、家に戻ってみるとなぜか妻は生きていて…

ジャック・リッチー「デヴロー家の化け物」

100年近く前からデヴロー家の屋敷の周辺でたびたび目撃される毛むくじゃらの化け物は、現在の当主ジェラルドの大叔父レスリーと何か関係があるようで…

現代アメリカ推理小説傑作選〈1〉 (1979年)

現代アメリカ推理小説傑作選〈1〉 (1979年)