Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

グレゴリー・マクドナルド編『愉快な結末 アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (10) 』

(読了日:2021年6月24日)

ジュリー・スミス「慰問カウンセラー」

妻がヨガで逆立ち中に体勢を崩し、首を骨折して死亡した事実をなかなか受け止められずにいるシドニーを、郡検死官事務所慰問班のジャックが訪問して… 解説に「社会風刺」に当たるとの記載があったが、何度か読んでもどこが風刺なのかよくわからなかった。

スタンリイ・エリン「画商の女」

その日暮らしの貧しい画家が現金を求めていることに付け込んだ狡猾な手法によって財を成してきた画商マダム・ラグリュ。画家の恋人でモデルのファティマがある奇抜な方法でマダムに価格交渉を挑み… 凄まじい迫力で描かれる頭脳のキャットファイトが見どころ。

グレゴリー・マクドナルド「映画ベストナイン

何も盗まれてはいないものの、家具の位置が変わったりしていることから、不在中に誰かが無断で部屋を使っていることを知った映画批評家のアイリーンが「せめてゴミくらいは片付けて」とメモを残したところ… ユーモアと愛に満ちた微笑ましい作品。

ヘンリイ・スレッサー「おまえが嫌いなのさ、ドクター・フェルドマン」

他人に好かれて当たり前の人生を送る医師フェルドマンは、旅先で知り合った男モーリッツァーからなぜか目の敵にされて… 自分を憎む相手からも好かれようと必死のフェルドマンがまるでピエロのよう。安定のスレッサー節。

エドワード・D・ホック「いちばん危険な人物」

金曜朝に銀行まで馬車で輸送される現金を盗むべく、抜かりなく準備を整えたモリアーティ教授と5人の実行部隊だったが… 「あの男」対策ももっとしておくべきだったかな。ホック作の短篇にしてはちょっと貧相で期待はずれだった。

ジェフリー・ブッシュ「執事クラブ始末」

かつて名家の執事を務めた老人5人が集まって食事を楽しむ定例会の直後に出席者全員が死亡し… 彼らが経験した難事件・怪事件を回想し合う場面で、ミステリ好きにはおなじみのあの人この人の名前が次々と語られるのが何ともワクワクする。

チャールズ・R・マッコネル「シドニーとセスとSAM」

父親から受け継いだ薬局を細々と営むシドニーは、幼い頃から兄セスに罵倒され続けてきた恨みを晴らすべく、筋肉を麻痺させる薬を大量に彼に飲ませて… 人間の腹黒さがこれでもかと描かれるが、怖いもの見たさで引き込まれてしまう痛快な作品。

フレッド・S・トビー「おまえが運転しろ」

口喧嘩の絶えない不仲の夫婦ジョージとチャリティーが主人公。あるパーティーからの帰り道、急に吐き気を催した夫のために車を路肩に停めたチャリティーは、そこが切り立った崖であることに気付き… 描き方の工夫でオチの衝撃を大きくするところが上手い。

ジェフリー・ブッシュ「李唐の問題」

「真贋」として既読につき、読了ツイート省略

ジェラルド・トムリンソン「市長閣下の上水道

トラックから盗んだ大量のゲーム機を故買屋に売りつけて大儲けするつもりのスキャッグズだったが、いざトラックを襲ってみると積み荷はすべて精神安定剤 <ブリス> であった。処分に困った彼は苦肉の策を… これで終わり?というあっけない結末。

ヘンリイ・スレッサー「光る手」

社内で頻発する商品の盗難に業を煮やした手袋製造会社社長のスタックポールが、暗い場所でだけ光る特殊な粉をかけた手袋を盗まれやすそうなところにわざと置いたところ… これは大傑作。冴え渡るユーモアにやられました。スレッサー作品のマイベスト5入りが決定。

トニタ・S・ガードナー「なにごとも運次第」

遠方の大学に通う娘を見送りに行った空港が爆弾騒ぎで閉鎖になったことに始まり、主人公アーニーが運の悪い出来事に次々と見舞われて… オチは何ということもないが、よくこんなにも「さもありそう」な不運の連続をうまく書いたなーと感心する。

セルマ・C・ソコロフ「天は自ら助くるものを助く」

市の予算削減によって解雇が決まった老教師ウィドマークは、長年の夢であった退職後の海外生活をどうしたものかと一計を案じ、かつて出来の悪い教え子であった市長ビリングズを訪ねて… ほのぼのとした文体で悪どい復讐の描かれる楽しさがよい。

フランク・シスク「夾竹桃

わんこが主人公の異色作。仲のよい二本足の友ジェフリーを身代金目的で誘拐した人間から救うべく、主犬公アンブローズが大活躍する。シスクがこのような子どもでも読めそうな作品を書いていたとは意外。犬から見た人間ってこんな感じなのね、という気付きが楽しい。