Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ロバート・L・フィッシュ編『あの手この手の犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (1) 』

(読了日:2020年1月2日)

スタンリイ ・エリン「最後の一壜」

ワイン商ドラモンドが倉庫に保管している伝説の赤ワインに興味を持った大富豪カスーラスがワイン愛好家マレシャルを仲介人として10万フランでの買い取りを申し込むが… 各人の思惑が複雑に絡み合いながら結末へ加速していく展開にエリンの巧みさを感じる名作。

バリイ・N・マルツバーグ&ビル・プロンジーニ「死んでもらうぜ」

たまたま立ち寄ったバーで泥酔した男から「お前、殺し屋だろう」としつこく絡まれた主人公はやむなく男を殴って倒して店を去っていくが… 作者の遊び心を軽く楽しむためのショートショート。深く考えたりする類の話ではない。

イリアム・ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」

カーの作品を読み尽くして心酔した少年エドガーが、財産目当てに叔父ダニエルを殺そうと完全なる密室殺人を企てたものの… いくら子どもが主人公とはいえオチがあまりにお粗末。時間を返して〜!とつい恨み節の一つも言いたくなる。

ケイ・ノルティ・スミス「不肖の息子」

文豪として名を馳せた父の回顧録を執筆・出版するも、著者である自分には何ら光が当たらずやきもきする息子ジャスパー・クライラー・ジュニア。そんな彼を父の大ファンだという青年ブラントが自作小説の原稿を持って訪れ、是非読んで欲しいと訴えるが… やることなすこと全て上手くいかずに世間の嘲笑を買ってしまう主人公を描いた短編。皮肉が何層にも重ねられていて、ちょっとひねくれた感じの面白さがある。それでもどこか温かみのあるユーモアを感じるのは筆者の人柄なのだろうか。二世の今後の人生に幸あれ…!

ハーヴェイ&オードリイ・L・ビルカー「部屋さがし」

転居希望申請から5年目にしてようやくリストに名前が載ったリアドン夫妻だったが、事務処理の問題が続出してあちこちたらい回しに。締切時間が刻々と迫る中、この機会を逃したらまた何年も待たねばならぬという焦りから妻のイライラが爆発し… オーウェル1984年』の恐怖とカフカ『城』の不条理をミキサーにかけて世紀末感の風味を加えて出来上がった傑作。理不尽に満ちていてゾクゾクが止まらない。狂気じみた妻からの圧力によって極限まで追い詰められた夫の決断もまた衝撃的で後を引く。ディストピアものがお好きな方はどハマり間違いなし。

エドワード・D・ホック「くされ縁」

数々の戦争を共にくぐり抜けた仲間同士とはいえ、人を躊躇なく殺すことで出世街道を驀進していくグローヴに対して常に違和感を覚えてきたコントレルは… 苦味のある皮肉が効いた大人向けの作品なれど、どこかホッとする救いを感じられるのがホックの魅力。

ロバート・ブロック「韻を踏んだ犯罪」

人気作家ディッキー・フェーンに秘書として雇われたミス・ケントは、彼が留守の間に書斎の中を調べ上げ、過去の作品に描かれた殺人はすべて彼自身が実際に行ったものであることを示す証拠を見つけ出すが… どんでん返しはあれど、パンチの弱さが気になる。

ジョン・F・スーター「熱はでないが」

年老いた父親と一緒に暮らすことになったエディスは、何かと口うるさい父親にせめて料理くらいは手伝ってもらおうと電子レンジを購入するが、その真の目的は別のところにあった… 父親の過去が明かされるとエディスにスッと感情移入できて読後感は晴れ晴れ。読み終わってから改めて見るとジワジワくる邦題の付け方もなかなかよい。

フローレンス・V・メイベリ「女の問題」

頻繁に家を留守にする夫パディが稼ぎを注ぎ込んでいるのはギャンブルだと信じていた妻アンジーだったが、夫を探し求めてラスベガスの街をさまよい歩いていると、派手で美しい若い女と歩くパディの姿が… 中盤で執念深さの描写がダラダラと続くのが退屈。一体いつまで続くの?ともどかしくなってしまった。もう少しテンポを上げた方が見せ場が引き立ったように思う。結末の不穏なムードはドメスティックものが好きな人ならば気に入るはず。

モリス・ハーシュマン「事実上、完全犯罪」

ずっと一匹狼の強盗として動いてきたトムに妻マージが突然「助け合いが大切」と言い出し、かねてよりトムが狙っていた時計会社で採用面接を受けるフリをして内情を探ってきたと打ち明け… トムの語り口に終始コミカルさが感じられて気軽に読める短編。

アル・ナスバウム「ほんの一例」

激しい雨の中を疾走する夫婦二人乗りのバイクがトラックが追突され、草むらへと突っ込んだ後、大きな木に激突して何とか停止するが、後ろに乗っていた妻は即死してしまう。脚を折った夫はじっと草むらに身を潜め… 激しい心身の痛みに耐えながら事故の状況を冷静に分析し、相手の次の行動を読み、じっと時機を待つ男の姿に漂う絶望感がウールリッチ的で、ギュッと胸を締めつけられる感じがした。時間軸を前後させる手法も効果的で、結末のほろ苦さをより引き立たせている。既読のナスバウムの短編では文句なしの最高傑作。

ロン・グーラート「金メダルをかっぱらえ」

強盗としての確かな腕を買われてFBIの仕事を請け負ったデッカーは、ロシア人が米国に関する機密情報を埋め込んだとされる金メダルを博物館から盗み出す作戦に参加するが… デッカーとハワード捜査官の掛け合いと奇妙な友情が笑いを誘う軽妙な短編。

フィリス・アン・カー「オールド・ホーニイの犬」

絞首刑を言い渡された土地から逃亡してきた追いはぎ犯のロデリック卿は、立ち寄った旅籠で睡眠薬の入ったワインを飲ませられて地下室に監禁されるが… ホラー要素が強い作品。傲慢な逃亡犯がとにかく不愉快。今さら「卿」って何様のつもり???

ローレンス ・トリート「動機」

電力会社の無料展示場に足繁く通う中年男性バームは、場内で上映される映像の一部に執着しているようだが、その真意を測りかねる会社側は彼の存在を煙たがり、あらゆる手段で追い払おうとして… バームの目的があまりにも切ない。人情に訴えかける味わい深い一編。

スタンリイ ・コーエン「お金、大好き」

銀行でコンピュータ管理を任されているハムザーはシステムを司るカードの一部に巧妙な細工を施し、預金利息の端数を切り捨てたものが全てスイスの自分の銀行に振り込まれるようにしてから、上司に退職を申し出たのだが… ハムザーの危機対応能力が痛快。

フランク・シスク「大蟻」

家の中に大量の大蟻住みつくようになって困り果てたホーマーは女王蟻を退治する決意をするが… ホーマーと精神科医ニコルズの会話のみで進行する異色な短編。映画「複製された男」のラストを連想するシュールな話。シスクの短編の中ではかなり読みやすい部類かと。

ヘンリイ・スレッサー「速読記憶術」

記憶術の教授オリン近年めっきり生徒が減ったせいで苦しい生活をしており、元教え子である恋人ペネロープとの仲までギクシャクし始める。そんな中、ようやく現れた受講希望者キングストンの正体は… 皮肉がピリリと効いた、いかにもスレッサーらしい味付け。

ジョイス・ハリントン「プラスティック・ジャングル」

プラスティック製の鉢植えの前でひどい発作を起こして以来、神経症的なまでにプラ製品を嫌う母親の話。娘ミミをいつまでも子供扱いしており、彼女が最近働き始めた百貨店がどんな場所なのか確かめに行くと言い出して… 毒親の末路やいかに。

マイクル・ギルバート「ポートウェイ氏の商売」

うだつの上がらない会社を一人で動かして毎年のように赤字を出しているにもかかわらず、なぜか私生活では極めて羽振りのよいポートウェイ氏の金のなる木を探し当てるべく、国税庁職員マイクルは経理係として氏に雇われるが… 業界の内幕が面白い。

アンソニイ・バウチャー「九本指のジャック」

主人公ジョンは、ふとしたきっかけから九番目の妻が金星人であること、彼女たちがいずれ人間を滅ぼして地球を占領しようとしていることを知り、金星人の弱点を探ろうとするのだが… 星新一に似たSF世界が楽しめる、珍しいテイストのバウチャー短編。

ジェイムズ・パウエル「女神の眼」

ヒマラヤ地方の街で女神シャフティ像の瞳の青い石が何者かによって盗まれた。捜索隊員に選ばれたマヌとヤラが犯人探しの旅に出て… ユーモアいっぱいで楽しい気分になれる短編。マヌの慎み深い宗教観が微笑ましい。陽気でありつつ風刺性が高いところも魅力的。マヌたちには、腰に下げた短剣の柄に手をかけて無言で相手にお礼などを伝える習慣があるのだけど、そのしぐさが至る所で引き起こす勘違いの数々が可笑しくて可笑しくて、何度もクスクス笑ってしまった。

エラリイ・クイーン「エイブラハム・リンカンの鍵」

リンカンとポーの署名入り本ならびにリンカン直筆文書を所有するディキャンポ氏は、金持ちの収集家に連絡をとって貴重な品を譲ろうとするが、価格の交渉中に脳出血を起こしてしまい… エラリイの考証癖が遺憾なく発揮された作品。

ジョー・ゴアズ「さらば故郷」

既読につき、ツイート省略。

ワーナー・ロウ「スコッツデールからの手紙」

人気シリーズの続編がなかなか仕上がらない作家ヘスキスは、犬を主人公にした一人称小説を書くことを思い立ち、飼い犬にタイプライターの使い方を教え込んだところ… 犬の名前がポイント。奇妙な味?ブラックユーモア?どっちつかずで不思議な短編。

マーガレット・ミラー「マガウニーの奇蹟」

故キーティング夫人の弁護士ミーチャムの元へ「夫人の棺の中を見よ」と告げる無記名の手紙が届く。実際に棺を開けてみたところ、そこに夫人の遺体はなかった。ミーチャムは埋葬を担当した葬儀屋マウガニーを探し当て、詳しい事情を聞こうとするのだが… 「奇蹟」の語感から予想したものとは全然違う内容だった。タイムリミットがなく、これといった謎解きもないため、ダラダラとした平板な展開に感じた。ミラーの不気味さを味わいたければ「谷の向こうの家」の方がオススメ。