Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ヒラリイ・ヘイル編『わが手で裁く イギリス・ミステリ傑作選 '88』

(読了日:2021年6月18日)

サイモン・ブレット「話しづらい死」

一人暮らしをしながら大学へ通っていた弟リチャードがHIVらしき症状で苦しんだ末に亡くなったことを知ったハリエットは彼の部屋を訪れる。大家のブルワーは、リチャードがゲイで麻薬常用であったことを裏付ける物がいくつか見つかったと言うのだが… 普段は大使館員として働くハリエットの冷静な観察眼と、弟を信じ抜く純粋で深い愛。それこそが真実を見抜く武器となり、他人の勝手な都合によって踏みにじられたリチャードの人物像を改めることができた。姉弟の強い絆が心に残る渋い一篇。

エリザベス・フェラーズ「わが手で裁く」

老いた自分がそのうち発狂するのでは?と怯えるエマは、ずっと可愛がってきた姪ドロシーに遺産管理の代理権を与えるつもりだが、実際に同居して世話をしてくれているのはドロシーの妹夫婦だという事情があり… 姉妹に漂う不吉な空気が英国らしくてよい。

ジーン・スタッブス「石母像」

とある街で曰く付きの古い家を購入した男ビーンと親しくなった牧師は、彼が何らかの事情で絶縁した昔の仲間に見つからないよう姿を隠そうとしていることを察して… 象徴的に描かれる石の像が不気味な空気を醸し出すものの、真相がモヤモヤと意味深な点が消化不良。

マイケル・ギルバート「ジャッカルと虎」

既読につき、読了ツイート省略

D・W・スミス「妖精の置きみやげ」

会社重役ハリスの娘モナが誘拐され、身代金要求の手紙とともにモナの物と思われる毛髪が送られてくる。ハリスは身代金の受け取りにやってきた男を尾行して坊主頭にされたモナを家に連れて帰るが… 娘が別人ではないかと疑う両親の心の揺れが一番の読みどころ。

マイクル・Z・リューイン「ファミリー・ビジネス」

急に金回りのよくなった息子が陰で一体何をしているのかを調べてほしいとの依頼をハットウェル夫人から受けた探偵アンジェロが家族一丸となって真相を暴いていく。良き夫・良き父アピールが強すぎてアンジェロの探偵風味が損なわれたのが残念。

ジル・マクガウン「芸術としての殺人」

観覧予定のコンサートが爆破予告のせいで中止となったために早く帰宅したジェラルドは、寝室で妻が別の男と愛し合っているのを見つけ、衝動的に男を車で轢き殺す。死体を隠し終わったところ、見知らぬ2人の男がやってきて… 粗いプロットとありがちなオチ。

ピーター・ラヴゼイ「死のひと刺しはいずこに」

とある発作が原因で筋肉運動と言語能力に不自由を生じて車椅子生活を送るポールは、海辺でキレイな貝殻を拾ったりして精一杯に妻グウィネスに愛情表現をする心優しい男性だが、妻は話し相手がいない毎日に嫌気がさし… ポールの機転が光る佳作。

デイヴィッド・ウィリアムズ「ほかの女」

ブロータ家の運転手ゲァリーは夫人と恋仲になり、彼女の夫リックを殺す計画に加担するが、右腕のないリックの右のこめかみを撃ち抜くという失態から風向きがおかしくなり… 男女の駆け引き、お色気、アクションなど、いろいろな要素が盛り沢山で楽しい。

普段は大使館員として働くハリエットの冷静な観察眼と、弟を信じ抜く純粋で深い愛。それこそが真実を見抜く武器となり、他人の勝手な都合によって踏みにじられたリチャードの人物像を改めることができた。姉弟の強い絆が心に残る渋い一篇。