Story
街灯の下に佇む主人公の青年ロジャーズは、小粋な衣装をまとい、全身から育ちのよさを漂わせている。彼がどこかへ出かけたがっている気配を察し、一台のタクシーの運転手がそっと近付いてきて…
Aira's View
ウールリッチの小説では、上品さに欠けていたり腹黒かったり、お世辞にも魅力的とは言えないタイプの女性がよく出てくるが、今作では主人公ロジャーズもなかなかのクセ者として描かれていた。
相手が運転手であれ、クラブで出会った女性であれ、彼の話し方や態度には尊大さと軽薄さの混じったものが漂う。厭世的で自暴自棄な面があり、他人を心から愛したり信じたりする喜びを知らずにいることを、強がって隠そうとしているようにも感じられる。
ラストでは、皮肉の効いた小さなツイストとともに彼の社会的立場が明かされ、ロジャーズの振る舞いに関して腑に落ちる点がある一方、女性に対する絶望の表し方には後味の悪さを覚えずにいられない。
…などと、この作品について書き記していると、どうしてもウールリッチ自身の人となりや暮らしぶりへと思いが及び、またしてもほろ苦い気持ちになる (自称) 研究生なのでした。
Work
原題:Clip-Joint
訳者:門野 集
収録:『砂糖とダイヤモンド コーネル・ウールリッチ傑作短篇集 1』白亜書房
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