Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

E・D・ホウク編『今月のペテン師 年刊ミステリ傑作選 '77 』

(読了日:2020年2月7日)

「恐ろしい悲鳴のように」エッタ・リーヴェス

エタ・リーヴェス「恐ろしい叫びのような」として既読

「こんなことをするはずがない」ルース・レンデル

税理士である主人公は、知人の紹介で作家ベイカーと親しく付き合うようになる。やがて、妻グエンドリンがベイカーに対して妙な執着心を見せ始め… 主人公が探偵小説好きという趣味を最大限に活用して考え出した鮮やかな復讐法とは?レンデルの作品にしては、かなりこざっぱりとして読みやすい。レンデルのドロッ、ジメッとした作風が肌に合わない人でも、これなら問題なく読めそう。

「ノヴェンバー・ストーリー」バーバラ・キャラハン

大統領の有力候補として世間でもてはやされるフリップには、悪どい方法で四人もの人間を死に追いやった暗い過去がある。彼の妻リズがフェミニストの記者モリーのインタビューを受けるうち、長年囚われきたリンボ (辺獄) を抜け出すきっかけを掴むが… 異様な閉塞感がすごく息苦しく、そもそも「リンボ」って何?という疑問が頭を離れず、ストーリーが頭に入ってこなかった。

「お次の番」ジャック・リッチイ

叔父テレンスの屋敷に好きなだけ住み続ける権利を相続した三人の親類のうち、遺産の現金化を求めて遺言の破棄を検討する二人が立て続けに殺害された。しかし残る一人ウィルバーには歴としたアリバイがあり… 屋敷の怪しげな執事とウィルバーとの駆け引きが軽妙。叔父テレンスの遺した屋敷に好きなだけ住み続ける権利を相続した三人の親類のうち、遺産の現金化を狙って叔父の遺言の破棄を検討中だった二人が立て続けに殺害された。一人生き残った主人公ウィルバーには歴としたアリバイがあり… 屋敷を一人で切り盛りする執事の怪しさが出色で、彼の正体知りたさにぐいぐいと読み進めてしまった。主人公と執事が見せる駆け引きが軽妙で笑いを誘う。いかにもリッチイらしい小粋なオチがまた魅力的。

「気違い婆さん」エイヴラム・デイヴィッドスン

時とともに姿を変えてゆく街に馴染めず、人付き合いもなくなった老未亡人ネルスンは、周囲の人間からいつしか "気違い婆さん" などと呼ばれて煙たがられるようになってしまったが… はぁ、そうですか… としか言いようのない話。消化読書。

「熱いときめき」ビル・プロンジーニ

「甘い血」として既読 (当ブログ内には紹介記事なし)

「再発見」ジェイムズ・ホールディング

ドナテロ作のヘラクレス像として広く知られる彫刻が実は聖クリストファー像という全く別の作品を二つに切断したものの片割れだと主張する主人公フェルチニャーノ教授のエゴが巨大すぎて面白くも何ともなかった。古美術商や故買屋を信じるのが怖くなる。

「死はわが乗客」チャールズ・W・ラニアン

光学工場の郵便係兼同僚女性五人を送迎する運転手としても活躍中のヘンリーは、ある日、いつも一番最後に降ろすミセス・ヴォイトが後部座席で絶命しているのを発見し… 彼の人柄の良さを瞬時に見抜いた警部補ドーソンとともに極狭密室殺人の謎に挑む。ヘンリーとドーソンの間に友情に近い関係性が出来上がっていく過程が微笑ましい。ドーソンが考え出した作戦はコミカルで失笑を禁じ得ないけれど、なかなか機転の利くヘンリーが息の合ったフォローを見せる場面などは純粋に楽しめる。

「内からの眺め」ジェイン・スピード

家政婦ブランチは長年働いてきたローガン家の隣に見慣れぬ女性が出入りし始めたことに気付く。その女はローガンの亡妻の母クレアだと名乗り、娘の死後、一家が突然自分の前から姿を消したことを恨んでいると言う。平和を乱す存在を前にしたブランチの決意は…

「中古のジーンズ」ローレンス・ブロック

 ローレンス・ブロック「中古のジーンズ」読了。いかにも履き心地のよさそうな中古のジーンズがあちこちの店で大量に売られていることにふと疑問を覚えながらも答えを見つけられずにいたロバートが、ある日ヒッチハイクに応じてくれた男性にその話題を振ってみたところ… これぞまさに!な「奇妙な味」。読み終えて数秒シーン… とした後で背中がソワッとするような、何とも言えない後味の悪さが魅力的なショートショート。ユーモアと毒気のバランスが絶妙なローレンス・ブロックらしい作品。マイ「奇妙な味」アンソロジーを (妄想で) 編むとしたら、必ず入れておきたいと思える一篇。

「ドーヴァー、少し頭を使う」ジョイス・ポーター

自宅の道具小屋に何者かが忍び込んで無断で鋤を使った形跡があるから調べてほしいと妻に頼まれたドーヴァーは部下のマグレガーをどやしつけながら推理を進めるが… セルフパロディのような軽いノリを楽しめる。マグレガーの超人的忍耐力に乾杯!

「今月のペテン師」ロバート・ブロック

人気作家バザードのゴーストライターであるジェリーは、バザードと人気を二分するライバル作家のマンによって誘拐され、月末までに新作を書き上げるよう脅迫されるが… このオチはエロスとバイオレンスに満ちた犯罪小説に対する痛烈な皮肉なのだろうか?

「デス・マスクの謎」S・S・ラファティ

絞首刑となったブリドルトンの遺体で作られたはずのデス・マスクが別人の顔のように見えると絞首刑執行人が言い出して… 登場人物の関係性や事件のからくりがよくわからなかった。かといってもう一度読む気にもならず。消化読書。

「建国百年の暗殺者」エドワード・D・ホウク

ある女性から「私の息子が大統領を殺そうとしている」と告げられた秘書官のロドニーは、大統領にその旨を伝えるが真に受けてもらえず、独自に対策を練ることに。ホウクにしては読みづらく、謎解き・ユーモア・結末とも特段の魅力は感じられなかった。

「白い部屋の男」リッチ・レイニー

「男は木と合体しようとした」という衝撃的な一文で始まり、極めて不安定な男の精神状態を象徴するかのような断片的な語り口により、男の過去が明かされていく異色作。空虚で苦々しい後味が残る。ホウクによれば「ミステリのニューウェーブ」とのことで、保守的な自分にはまったく馴染まない実験的なテイストの作品だった。

「『クリスマス・ツリー売場殺人事件』」ローレンス・シーハン

新作についてああでもないこうでもないと考えを巡らせる人気ミステリ作家ストーンの創作メモという形をとるショートショート。メモを通して作家自身・妻・愛人の姿が浮かび上がってくるのは面白いが、軽すぎるノリについて行けず。