(読了日:2017年5月5日)
ハワード・スプリング「郵便殺人」
新聞社でメッセンジャー・ボーイとして働いていた頃から同僚のシャスターに何かにつけて先を越されてきた新聞記者のミルナー。日々鬱屈をもたらす存在であるシャスターに対して殺意を覚えるようになったミルナーは休暇中に完璧な殺害方法を思い付き… シンプルだけれどなるほどと思わせるアイデア。文芸批評家出身の作者ということで、どことなくシニカルな雰囲気のある筆致が気に入った。
H・C・ベイリー「ミスター・ボウリーの日曜の晩」
信心深くて賛美歌が大好きなボウリー氏のところへ知人女性シーリアが訪ねてきた。夫の浮気や暴力から逃れるために離れた土地で暮らし始めたが、夫が追ってきて家に居座ろうとしていて怖い、助けてほしいと言う。ボウリー氏は彼に会いに行き… 良心の塊のような顔をして悪魔のような所業をサラリとこなすボウリー氏に戦慄。善と悪の境界線はどこにあるのか。宗教哲学のような一篇。初めてベイリーの作品を面白いと感じた。
ドロシー・L・セイヤーズ「血の犠牲」
小説家スケールズは初作が俳優兼興行主ドルーリーに買われ舞台化契約を交わすが、興行的成功のために大幅に内容を書き換えられたことに大きな不満を持ち、やがてドルーリーに対して殺意を感じるまでになる。そんなある日、ドルーリーが事故で大ケガをして… スケールズの視点で物語が進行するようになる後半、秒針の音がコツコツと心の中で響き渡るような緊迫感がたまらない。態度はあくまで消極的でありながら完全なる殺人を犯す方法。お見事。
ジョン・ディクスン・カー「骨董商ミスター・マーカム」
骨董商チャールズ・マーカムはジューディスという女が隠しておきたい過去を調べ上げ、恋人やその親にそれを知られたくなかったら2000ポンドを支払うよう強請る。そこへジューディスの恋人ロンが現れ… ラジオドラマ。くねくね忙しい。
アーノルド・ベネット「殺人!」
拳銃鍛冶屋で銃を買い求めた男と、彼の後を追って店に入り同じ銃をポケットに隠して持ち帰った男。彼らはある一人の女性を苦しめる男と彼女を救いたい男だった。とあるホテルのビリヤード場で話し合うも呆気なく決裂し… 警察と素人探偵のポンコツぶりに笑う。
グラント・アレン「ダイヤのカフスボタン」
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E・W・ホーナング「ラッフルズ罠にはまる」
以前招かれた拳闘家マグワイア宅で目にした宝石入りのベルトなどを盗みに入った怪盗ラッフルズから「罠にはまった。すぐ来てほしい」と電話を受けた相棒バニーは直ちに現場へ向かうが、運の悪いことに玄関先でマグワイア本人と鉢合わせしてしまい… 昨日も書いた通り、ラッフルズとバニーの関係性に大いに不満がある。作者の義兄弟にあたるドイルも賛辞を送るほどのラッフルズシリーズ。いまいち面白さがわからなくて困る。
フレデリック・アーヴィング・アンダスン「不敗のゴダール」
「怪盗ゴダール」シリーズで人気の小説家アーミストンはスリに遭って困り果てていたところをベンスンという男に助けられて目的の列車に乗ることに。ベンスンは先ほど助けた男が作者だとも知らず夢中でゴダールの最新作を読んでおり… 非常にうまく組み立てられた一篇。ときどき入れ子式の世界に迷い込んだ感覚に陥りそうになるが、内容が理路整然としているので混乱することはない。ほほぅ、そうきたか!と感心することしきり。エンターテインメント性が非常に高く優れた作品。
エドガー・ウォーレス「七十四番目のダイヤ」
オランダ王侯ラジャは首飾りの七十四番目のダイヤを求めてロンドンへやってきた。警部が警告したとおり、早速詐欺師ペニー・ラムがラジャの部屋を訪問してダイヤを偽物とすり替えて持ち帰る。ところが故買屋はラムが持ってきたものこそ偽物だと言い… 〈調整屋〉アンソニー・スミスの飄々とした仕事ぶり。軽く楽しめるのが魅力だけど少々あっさりしすぎ。調整屋という日本語がどうもしっくりこないと感じたのはわたしだけでしょうか。
ロイ・ヴィカーズ「聖ジョカスタの壁掛け」
怪盗フィデリティ・ダヴが知人から窒化沃素の話を聞いて閃いた奇想天外な方法で美術品収集家なら知らぬ者がいないほど有名な壁掛けを盗む。盗み方に芝居がかっているところがあって、見事というよりは何となく鼻につく印象。いまいち話に乗れず。
O・ヘンリー「催眠術」
偽の薬用酒で一儲けしている詐欺師ピーターズは街で出会った大道商人タッカーとコンビを組むことに。市長が体調を崩したがかかりつけ医が不在で困っていると聞き、早速押しかけて例の酒を飲ませてみたところ… 詐欺師コンビにもっと個性とユーモアがあるとよかったな。
ジョージ・ランドルフ・チェスター「強力無比座骨神経痛剤製薬会社」
以前ある街で親しくなったの大道商人がニセ薬で稼いでいるのを見かけた詐欺師ウォリンフォードは、その薬の株式会社を作って大儲けすることを思い付き… 株などの細かい数字が何度も出てきて辟易。流し読みして何とか消化。
エヴァレット・ロード・カースル「大佐のお別れパーティ」
翌日に海兵隊に入ることになっている知人コールダー大尉に「餞別」を送るため、ボクシングのラジオ放送を使って一芝居打つことに決めたフラック大佐。さて、その策とはいかに。詐欺師ものは三篇目にして早くも飽きてしまった (欠伸)