Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

オットー・ペンズラー編『魔術ミステリ傑作選』

(読了日:2019年3月29日)

01. クレイトン・ロースン「この世の外から」

「あの世から」として既読につき、読了ツイート省略。

02. ラドヤード・キプリング「スドゥーの邸で」

遠く離れて暮らす息子の容態が芳しくないことに心を痛める老家主スドゥーは魔術を使える貸借人に大金を払って息子の回復を祈祷してもらっているが、スドゥーの親友である主人公はその魔術がいかさまであることを見抜き、ある行動を起こすことに… 黒魔術の場面は部屋の暗さや小道具類の不気味さが相まって結構な迫力。恐怖のあまりその場で失神する登場人物の存在が読み手にえも言われぬ薄ら寒さを感じさせる。ウールリッチの「パパ・ベンジャミン」あたりを読んだことのある人には既視感があるかも。案外平凡なケリの付け方を匂わせて地味に終了。

03. ジョン・コリアー「登りつめれば」

大道芸や魔術の類を常に大声で笑い飛ばす人物として広く知られるヘンリーは、ある日自宅へやってきたインド人から天空の遥か彼方まで伸びていく魔訶不思議なロープ芸を見せられて考えを改めたが、その変わり身が周囲の人間の不興を買い… コリアー節が全開。奇術の中身にはグロさもあるが、不気味さと可笑しみのバランスがよい上、最後には艶っぽい皮肉も効いていて、幅の広い面白さを持った作品だと感じた。気になっていたもののずっと迷って買わずにいたコリアーの短編集をついに購入。そちらも楽しみ。

04. カーター・ディクスン「新透明人間」

既読につき読了ツイート省略。

05. フレデリック・アーヴィング・アンダスン「盲人の道楽」

盲目の魔術師マルヴィノから「数日後に芸を披露することになっているナイトクラブの内部がどういう構造なのか詳しく教えてほしい」と頼まれてその通りにした怪盗ゴダールだったが、当日は絶対にクラブへ顔を出さないことを約束させられて… マルヴィノが魔術師を騙った〇〇であることを早くに見抜いたゴダールが打つ一手を痛快と捉えられる読者にとっては出来のよい短編かもしれないが、彼の人を食ったような態度が鼻についてしまった場合にはひどい読後感が訪れるおそれあり。気になるキャラクターだったけれど本編で興を削がれてしまった。

06. ラファエル・サバチニ「時の主」

透視や予言といった謎の力によって国中の注目を集めるカリオストロ伯爵に心酔する伯父ローアン公の言動を快く思わないゲメネ公爵は、カリオストロが他国で逮捕された証拠を示し伯父の目を覚まさせようとするが… 本アンソロジーで最も謎めいた味わいのある作品。どこまでが現実でどこまでが幻想なのかを曖昧にすることで、ゲメネ公爵の戸惑いを読者が肌で感じられるように書かれたと思われるエンディングが憎い。小説でも何でも理論的に考えて白黒つけたいタイプだけど、たまにはこういった不思議な空気に身を任せるのも悪くないな。カリオストロ伯爵、恐るべし。

07. ウィリアム・アイリッシュ「パパ・ベンジャミン」

既読につき読了ツイート省略。

08. マニュエル・ペイロウ「ジュリエットと奇術師」

伯父の遺産を元手に中国人奇術師として身を立てたゴメスは別の手品師の助手をしていた美女ジュリエットと結婚するが、まもなく夫の経済力のなさに幻滅した彼女はさまざまな嫌がらせを繰り返して助手を全員辞めさせてしまった。困り果てたゴメスは… 読みながら「そんなに嫌ならさっさと別れればいいのに」と思わず呟いてしまうほどジュリエットの悪妻ぶりが強烈で、ゴメスが苦労の果てにようやく見つけた助手ベナンシオの忠実さと好対照をなす。不幸な事件の謎を解く探偵役のキャラクターが何とも薄いせいで満足度の低い終わり方になってしまった。

09. マクスウェル・グラント「気違い魔術師」

楽屋に侵入した何者かが小道具に細工をしたせいで興行が大失敗に終わった魔術師ノーギル。犯人と思われる男からの伝言に書かれた屋敷へ向かうとカラドックと名乗る老教授が待っていた。彼が収集した骨董の奇術道具の数々につい興奮するノーギルだったが… 秒刻みで緊張感が高まっていく展開にゾクゾク。美人助手ミリアムを救うために文字通りの体当たりを見せるノーギルが素敵。活字から匂い立ってきそうな男気にシビれてしまった。魔術師らしい機転の効いた小技も楽しい。シリーズで読んでみたいくらい好みの男性キャラクターだけど邦訳は本作のみで残念。

10. ウォルター・B・ギブスン「パリの一夜」

かつて母国のために反乱分子の撲滅活動をしていた奇術師ルブランが隠れ家として使っていた建物内で刺殺体となっているのを発見した魔術師ジェラードは、突如現れた偽ジェラードの巧みなアリバイ工作によってルブラン殺害の容疑者にされそうになり… 直前に読んだ奇術師ノーギルものと同じ作者によって生み出された人気魔術師キャラクター。頭の回転の速さと器用な身のこなしと (またもや) 美人助手を駆使して真犯人を暴き出す様子が生き生きと描かれていて楽しい一編。相手の弱みをいち早く見抜く才能は探偵役にぴったり。ノーギル同様の男気がよい。

11. ベン・ヘクト「影」

どさ回り先の村で出会った美しい盲目の少女アンナを妻にして各地で興行をしている魔術王ザラストロは、ある観客が異様なほどの熱意を持ってアンナを見つめていることに気付く。その男もまた著名な奇術師であり、アンナを盲目と見抜いた上で自分の助手にしたいと申し出た挙句… アンナが盲目であるがゆえに起こる事件が切ない。自分自身の中にある女性としての感性や経験からして少々疑問に思う節はあるけれど、そうか、奇術師にはこういう才もあるのだな… とジワジワくる怖さが上手く描かれている。大きな虚しさを感じる結末からは人間の運命についてじっと考えさせられる。

12. スタンリー・エリン「決断の時」

スタンリイ・エリン「決断の瞬間」として既読につき、読了ツイート省略。

13. E・S・ガードナー「抜く手も見せず」

東洋史権威サンソン邸で開かれた晩餐会にて、招待客の一人が所持していたネックレス (故宮博物院から紛失した収蔵品に酷似) が盗まれてしまう。その事件に興味を覚えた詐欺師リースは執事スカトル (実は警官) に情報収集を命じ、早々に事実解明に乗り出すが… 晩餐会に参加した人間たちの今後の動向を素早く推測して次々と具体的な行動を起こすリースの頭脳明晰ぶりは確かにすごいけれど、どこか一方的な感じがして時々ついていけず。警察の後手後手ぶりには苦笑。犯人を追い込むまでの間に行われるマジックなどの演出やがまわりくどくて途中で飽きてしまった。

魔術ミステリ傑作選 (創元推理文庫 170-1)

魔術ミステリ傑作選 (創元推理文庫 170-1)