(読了日:2017年3月25日)
ウィリアム・J・コーニッツ「死にいたる時間」
経済界の大物フランクの妻アデルが夫と愛人関係にあったメアリー・アンを射殺した後でこめかみを撃ち抜いて自殺した事件をパーカー刑事が探る。作者がニューヨーク市警の警官だったこともあり真実味が。アイリッシュに似て洗練された都会派の短編。
キャロル・ヒギンズ・クラーク「誰がために発信音は鳴る」
ハリウッドでの活躍を夢見る人々が暮らすアパートが舞台。霊感師トニ=アンが相談者の恨みを買って首を絞められる事件が発生。犯人は彼女の留守電に残した声を消そうとアパートに侵入するが… 終始ドタバタした雰囲気が好きになれず。
メアリ・ヒギンズ・クラーク「激情としか言いようのない犯罪」
恋人殺しの容疑者として国中の注目を集める羽目になった元国務長官トミー。彼の無実を証明するため、弁護士経験のある前大統領夫妻が真犯人探しに奔走。一段ずつ階段を上るように着実に犯人へと近付いていく、わかりやすい推理小説。
ジェイムズ・クラムリー「ホット・スプリングズ」
作者の短編では最高の出来と編者がベタ褒めしている作品。元来ハードボイルドが苦手なため、どこにそこまでの魅力があるのかわからない。出てくる人がみな荒んでいて、暴力や拷問のシーンが多く、流し読みでも疲れてしまった。
ジョン・ガードナー「愛の値打ち」
諜報員操作官ゴッドフリーと監督対象である諜報員カレンは次第に惹かれ合っていく。KGB所属の大佐から情報を集める任務が続く中、徐々にカレンの様子がおかしくなってきたため、彼女を逃がすことに。カレンは作戦離脱に際して一つの条件を提示する。これはもうスパイものの宿命として仕方のないことで、また同時にそれが何よりの魅力でもあるのだけど、全編を通して刹那的で物哀しい空気が漂う。いつどこで誰が裏切るのか。ずっとピリピリした緊迫感の中で読み進めなければならない。「寒い国」という表現にはニヤリとした。最後はあまりにも悲しい。
フェイ・ケラーマン「ストーカー」
熱烈なアプローチと誰もが羨むようなプロポーズをされたデイナはジュリアンとの結婚を決める。しかし結婚後の彼は異常なまでに彼女を束縛・監視するように。そんな生活に耐えられなくなったデイナは逃げ出すが、どこへ行ってもジュリアンの視線が付きまとい… 終盤のシチュエーションが女性なら震え上がるほどに怖い。デイナの心情を表す短い文章が一行ずつ延々と続く部分の臨場感が強烈で恐怖が増幅される。最後のひとひねりが痛烈。
ジョナサン・ケラーマン「愛あればこそ」
旅先の寂れたレストランで幼い娘ゾーイと昼食をとるカレン。物騒な雰囲気の男性客が食事しているテーブルに向かってゾーイが投げ飛ばしたおもちゃを拾いに行ったカレンは彼らの会話を偶然耳にしてしまい、恐怖のあまりゾーイを抱えて外へ逃げ出すのだが… これは傑作。こんなに仲睦まじくて幸せ一杯のダグとカレンが… ね。見事なオチ。オチの後でイチャイチャしすぎてちょっと弛んでしまった感は否めないけれども、私生活の幸せが溢れ出てしまったのだと思えば、それもまたご愛嬌ということで。
エルモア・レナード「カレンが寝た男」
ソダーバーグ監督「アウト・オブ・サイト」でジェニファー・ロペスが演じた連邦保安官カレン・シスコーが主人公の短編。映画と同じく都会派で洗練された男女の会話が洒落ている。カレンと恋愛関係にある男が連続銀行強盗の容疑者で… というシンプルな話。
マイケル・マローン「赤粘土の町」
夫殺害の容疑で裁判にかけられた映画スターのステラは主人公バディーの父親が初めて恋した女性だった… 父親から聞かされた若かりし頃のステラの思い出をいつまでも記憶から消すことができないバディーの心境が理解できず。作品名もピンとこない。消化読書。
ボビー・アン・メイソン「ナンシー・ドルーの回想」
少女探偵ナンシー・ドルーというものをそもそも知らず、自分を主人公とする作品を彼女自身が読んでいるという設定にもついていけず、どうしても読み切ることができなかった。たまにはそういう作品があっても仕方ないということでスルー。
エド・マクベイン「レッグズから逃れて」
闇酒場で憧れの女性ドミニクとダンスを楽しんでいたところ、大物ギャングの友人レッグズが割り込んできて執拗にドミニクに嫌がらせをする。リチャードはレッグズを殴り倒してドミニクと列車で逃亡するが… 愛した女のために破滅の道を選ぶ男の哀しき姿。運命の女との将来を思うがあまり道を踏み外して破滅していく男の姿から、ウールリッチ『マンハッタン・ラブソング』の主人公ウェイドを思い浮かべずにはいられなかった。破滅の仕方は違えど、どちらも女に狂わされたものの愚かしさが哀愁を誘うノワール。
ジョイス・キャロル・オーツ「パラダイス・モーテルにて」
身体目当ての男コブに買われ安モーテルに連れて来られた“スター・ブライト”。クスリの力を借りて苦痛の時間を何とかやり過ごした後、悪夢から目覚めた彼女は男の寝ている間に逃げ出そうとするが… ハードボイルドな文体はやはり苦手。
サラ・パレツキー「傷心の家」
私生活で不幸になればなるほど筆が冴えるタイプの売れっ子作家ロクサーヌ。彼女が精神科医へ通い始めて以降の作品がパッとしないことに困り果てた出版社の社長がとった方策とは。中盤で物語の方向性が見えると急に面白くなる短編。ロクサーヌを操る編集者が傑作。
アン・ペリー「ゆすり屋」
身なりのよい青年ダーシィが数学者ヘンリーの家を突然訪れ、言われのない理由である男からゆすられて困っているので力を貸してほしいとの相談を持ちかける。今回のアンソロジーで最も謎解き要素が強い。十代で殺人を経験したという異色の過去を持つ作家による短編。
シェル・シルヴァスタイン「そのために女は殺される」
ある女を殺さねばならないが自分で手を下すことはできずにいるオムーは、今までに大勢の人を殺してきたと評判の男に殺害を依頼して女の外見などを説明するが、そんな女はたくさんいるからわからないと言われ、女にある物を持たせることに… 最後の一文で読者をゾワッ!とさせるショートショート。本当にこれがアレの起源だったらめちゃくちゃ怖い。
ドナ・タート「真実の犯罪」
全ての収録作は書き下ろしでなければならないというルールを破ってまで編み込まれた既出の短い詩だが、よく意味がわからなかった。