Aira's bookshelf

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Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』

(読了日:2017年3月9日)

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」

夫の肥満ぶりを競うという異様な趣旨のコンテストで優勝を狙うグラディスは運動好きで身体の引き締まった夫を太らせるべく奮闘する。驚きの速さで巨大化に成功した夫はライバルたちからやっかまれながらも優勝を果たしたのだが… カラッとした明るい文体には不釣り合いに思える不穏な空気に期待が高まったが、コンテストの意図の明かされ方に衝撃がなかった。これで終わり?本当に?と肩透かしを食らった印象。思わずゾクッとして読者の身動きが数秒は止まってしまうような、ピリッと気の利いた締めの一行が欲しかった。

イーヴリン・ウォーディケンズを愛した男」

アマゾネス探検隊に同行して一人生き残った資産家ヘンティーは現地の老人に助けられる。字が読めない老人にとって何よりの楽しみはディケンズの朗読を聞くことだという。恩返しに朗読役を快諾したヘンティーだったが… 底なしの恐怖沼へようこそ。

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」

臨時収入で家族に贈り物を買おうと思いメモを片手に出かけたおばあちゃん。頑固で恩着せがましい母親のせいで恋人からの求婚に三年間も返答できず遂に衝動的に家を飛び出した女性。二人の女性が直接顔を合わせることなく運命を交差させていく。ほのぼの短編。ジャクスンがこんなにほんわかと和む話を書いていたとは。今年一番の驚きです。

ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」

黒い皮肉の効いた一編。ラストで180度方向転換。登場人物と読者を宙に放り出す。生命の危機に陥った人間に芽生えるどす黒い欲求を容赦なく描いた。

ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」

骨董品店のショーウィンドウに自分が子供の頃に遊んでいたトラックが飾られていることに気付いたハリーがそのトラックを買い求めようと店内へ入ってみたところ… 夢の覗き見のようなふわふわする感覚と足元ぐらついて背中がゾワッとする感覚のせめぎ合い。

ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」

途中から何度もヒュー・ウォルポール「銀の仮面」の結末が頭に浮かぶ不気味な作品。息子が連れてきた知人をほんの一晩のつもりで家に迎え入れた女とその家族が味わうことになる恐怖。「奇妙な味」ならばこれくらい不穏な空気が漂わないとね。

ロナルド・ダンカン「姉の夫」

ドイツ軍による攻撃で大幅に運行が遅れた列車で同じ車室に乗り合わせたアレックスとバックル少佐。少佐は駅で弟の到着を待ちわびていたアンジェラに好意を持った様子で… 予想通りの展開だがアンジェラとアレックスが核心に迫っていく過程で息が詰まりそうになる。

ケイト・ウィルヘルム「遭遇」

予想外の豪雪によりバスを乗り継げなくなりターミナルの待合室で一夜を明かす羽目になったクレイン。室内では見知らぬ一人の女性が寒そうな格好で腰かけており… 編者解説によるとSF的解釈ができるとのことだが、クレインと女の関係も正体もよくわからなかった。

カート・クラーク「ナックルズ」

フットボール選手の道を諦めて保険セールスマンになったフランクはひどい癇癪持ち。クリスマスを控えて興奮気味の子供たちを大人しくさせておくため、彼はサンタクロースと対をなす悪神ナックルズの存在をでっち上げ… 気味の悪さよりもユーモアが勝る一編。カート・クラークは以前「これが死だ」で衝撃を受けた作家ドナルド・E・ウェストレイクの別名と知る。

テリー・カー「試金石」

謎めいた書店で5ドルで購入した黒くてすべすべした試金石を偏愛し始めて以来、日常のあらゆることから興味を失っていくランドルフを描く。何か魔術めいた物の魅力に取り憑かれて日常から逸脱していく人間を描いた作品は好み。ランドルフの内省ぶりが村上春樹に似ている。

チャド・オリヴァー「お隣の男の子」

ラジオの生番組のゲストとして登場したジミーは人殺しに興味があるなどと物騒なことばかりを口にして司会者ハリーをたじろがせる。何とか上手く話を逸らして放送を終えて一息つくはずだったハリーがスタジオで目にした恐ろしいものとは。面白みがわからず。

フレドリック・ブラウン「古屋敷」

古ぼけた屋敷の中で埃にまみれた廊下を進む一人の男性。途中にはシャンデリアから腐乱死体がぶら下がった部屋などがあるが男は落ち着き払っている。自分の名前のプレートが付いた扉を開けると、そこには子供時代を過ごした懐かしい部屋があり… ラストが怖い。

ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」

米国文化に染まってチューインガムの虜となった末っ子ジョンの口がいつしかガムから操られるようになってしまう。父親が必死に知恵を絞ってガムを追い払おうとするが… ノーベル賞作家がまさかこんなに笑える「奇妙な味」を残していたとは。傑作。

ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」

死の迫った人間と契約を結んで身体の一部を手に入れては売り歩く行商人からチェーザレ・ボルジアの右手を譲り受けようとする怖れ知らずの少年。彼の野望と正体とは。本編より前に置かれた作者紹介ページにネタバレ気味の解説を載せてしまったことが残念。

フリッツ・ライバー「アダムス氏の邪悪の園」

プレイボーイ誌創始者ヒュー・ヘフナーをイメージしたキャラクターが親類から受け継いだ魔術を用いて女性の毛髪から擬態植物を育てるという物語。読み始めてすぐから苦痛になってきて残りは流し読み。設定も展開もオチも何ひとつピンとこなかった。

ハリー・ハリソン「大瀑布」

瀑布のすぐ側に立つ頑丈な石造りの小屋へ取材に訪れたカーター。小屋で暮らす老人の手作りだという小窓から瀑布を覗いていると犬や客船などが次々と上から落ちてきて… 異界との繋がりとして描かれる迫力の大瀑布に読み手も圧倒される。わたしたちはどちら側なのか。

ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」

強風に煽られて旅人の胴体からもげてしまった頭が元の位置へ戻ろうと奮闘するだけの物語。顎を使って一生懸命よじ登る。シュール極まりない超短編。途中から「パイレーツ・オブ・カリビアン」に出てくる巻貝の頭の人しか思い浮かばなくなって困った。

ネルソン・ボンド「街角の書店」

猛暑のせいで筆が一向に進まなくなった作家のマーストン。風を求めて散歩に出たついでに最近まで存在を忘れていた小さな書店を目指す。中の書棚にはシェイクスピアアガメムノン」など聞き覚えのない本ばかりが並んでおり… アンソロジーを締めくくる表題作。 

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)