Aira's bookshelf

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Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

各務三郎編『クイーンの定員 II 傑作短編で読むミステリー史』

(読了日:2017年4月11日)

クリフォード・アッシュダウン「外務省公文書」

カジノで負けが込んだレドマイルに軍資金を貸して親しくなった怪盗プリングルは自宅に招待され。酔いに任せて相手が見せてきた重要外交文書をヒントに一儲けする方法を思い付く。駆け引きとユーモアのバランスがよくて小気味よい。科学のおまけも。そこそこの長さがある短編の方がやはり肌に合う。楽しい。

アーノルド・ベネット「千金の炎」

会社が経営破綻しているにもかかわらず自分の懐だけは大金で潤っている実業家のボウリング氏。彼が国外逃亡を企てていることを知ったセシル・ソロルドは、ボウリング氏を懲らしめようとあの手この手で自らの部屋へ呼び寄せる。ソロルドの立場と目的がなかなかわからず、結末を読んでもポカーンとしてしまった。ソロルドは「歓びを求める億万長者」「犯罪学者と興行師とロビンフッドの結合」とクイーンが定義づけている一風変わった義賊のような存在。世界中で大金を浪費しながら悪人を懲らしめたり人助けをしたりするキャラクターと知り、ようやく腑に落ちる。今回の「千金の炎」だけ読んでもなかなかソロルドの正体はわからないと思う。彼の言動の本当の面白さがどこにあるのかがわからないまま終わってしまう気がした。ちょっともったいない作品選びかも。

ジャック・フットレル「緋色の糸」

アパートで一人暮らしの株式仲買人ヘンリーはガス灯愛用者。夜中に火が消えてガスが充満する事故が何度も続き、その後は公園で狙撃されて肩を負傷する始末。彼を殺そうとしているのは誰で動機は何なのか。思考機械ことヴァン・ドゥーゼン教授が謎解きに挑む。自分の脚で動き回ってズボンの裾を汚したりひざ小僧に穴を開けたりしながら (※個人のイメージです) あれこれ調べて推理を組み立てる探偵が好きなので、新聞記者に調べ物をさせて自分はロジックを頭の中で組み立てることに熱中するタイプのヴァン・ドゥーゼン教授には特に魅力を感じないのです。ホームズの高慢さや極端に偏った知識などは彼の大きな魅力だと思えるのに、ヴァン・ドゥーゼン教授の短気と尻の重さは単なる欠点にしか見えない。これもまたキャラクターへの愛着の問題か。

O・ヘンリー「当世田舎者気質」

詐欺師二人組が田舎の農場主をペテンにかける話。うーん?ミステリ?かな? 以上。

E・オルツィ男爵夫人「英国プロヴィデント銀行窃盗事件」

支配人室の金庫から5000ポンドも盗まれながら未解決のままになっている事件の謎を安楽椅子探偵「隅の老人」が解き明かす。犯行現場の状況がわかりやすく関係者も限られているので謎解きもいたってシンプル。スッキリとした読み心地。

R・オースティン・フリーマン「モアブの暗号」

ロシア皇太子によるパレードが行われる中、バジャー警部が監視していた男が不慮の事故で命を落とす。彼のポケットにはモアブ (ヘブライ語) の文字で書かれた暗号らしき手紙が入っていた。ソーンダイク博士が得意の科学で手紙の謎を解く。はぁー。やっぱりソーンダイク博士は大好き。ジャーヴィスや警察を決して小馬鹿にしないところがいい。科学者ならではの綿密な捜査も読んでいて楽しい。ジャーヴィスは「危険は二人で分かち持った方がいい」なんてカッコいいことをサラッと言えちゃうところがいい。お似合いのカップルですね (違)

G・K・チェスタートン「折れた剣の看板」

英雄として崇められているサー・アーサー・セント・クレア将軍の像を見物して回るブラウン神父とフランボー。なぜ木に吊るされた将軍の絞首死体には彼自身の折れた剣が添えられていたのか。彼は本当に愛国者だったのか。戦いに染まった軍人の闇と悲劇。恥ずかしながら今回の短編が初・チェスタートンでした。文章が重厚でさらさらっとは読めないですね。でも今回のような血塗られた系の話にはよく合っていました。ブラウン神父のおちゃめさは未体験。またいつかどこかのアンソロジーで。

ヴィクター・L・ホワイトチャーチ「ドイツ大使館文書送達箱事件」

英国外務省から盗まれた機密文書がドイツ宰相の手に渡る事態だけは避けねばならないので協力してほしいという外務次官の依頼を受けた探偵ソープ・ヘイズルが独特別送達史と同じ列車に乗り込み… 単純だがよく練られた奪還作戦。ただし、小道具を使ったトリックは活字だけではちょっとわかりにくかった。そこだけ残念。

アーネスト・ブラマ「ナイツ・クロス信号事件」

ナイツ・クロス駅で蒸気機関車が電車に衝突し30名近くの死者を出す大惨事が発生した。事故当時の信号について機関士は「進行」で信号手は「停止」だったと主張して真っ向から対立する。不可解な事故の真相に盲人探偵マックス・カラドスが迫る。カラドスが視覚を失ったことで手にした超人的な記憶力や触覚に関するエピソードが物語を彩る。何でも言い合える間柄の私立探偵カーライルと繰り広げる気の置けない会話も楽しい。カラドスに全幅の信頼と崇敬の念を抱く秘書パーキンスンによる献身的なサポートもまたよいアクセントになっている。好き。

トマス・バーク「シナ人と子供」

好色家のボクサーによって育てられた少女ルーシーは日々繰り返される鞭の暴力にじっと耐えていた。そんな彼女を街で見かけて以来ずっと気にかけているチェンは、ある晩阿片窟の中で彼女を発見する。家に連れ帰って宝物のように手厚く世話をするチェンだったが… 暴力と人種差別の描写にうんざりする面もあるが、チェンの (少々フェチじみた不気味さはあれど) 純愛が胸に迫る。中国の風習に従った◯◯は一読の価値あり。

メルヴィル・D・ポースト「ナボテの葡萄園」

自宅で老人が射殺された。殺人に使われたとは知らずに猟銃を持ち出して土地を離れようとしていた作男が逮捕され絞首刑を告げられそうになったところで男の恋人が唐突に自供を始め… アブナー伯父の魅力、なぜかわたしにはどうしても理解できません。

J・ストーラー・クラウストン「偶然の一致」

お互いに相手を殺したと思っていたのに翌日その当の相手に遭遇して仰天したと語る二人の男それぞれから、現場にあった死体が一体誰のものだったのかを調べてほしいと依頼を受けたキャリントン探偵は、もう一人の関係者から話を聞いて真実を見抜く。関係者から話を聞くだけで特に捜査は何もしないため、わたしにとっては安楽椅子探偵のように感じられて物足りなかった。やはり探偵には足を使って調査をしてほしい。途中で結末がわかってしまったのも残念。それでも面白いと言うには探偵役の印象が薄すぎた。

アガサ・クリスティー「チョコレートの箱」

次期大臣は堅いと目されていた反カトリック派の代議士デルラール氏が自宅で晩餐後に頓死した。その死には何かあると感じた故デルラール夫人のいとこヴィルジニー嬢から調査を依頼されるポアロだったが… すぐにいい気になっちゃうポアロさん可愛い。ヘイスティングズさんはツンデレなところがあるのかしら。二人の力関係を知るべく他の作品も読んでみたい。

ドロシー・L・セイヤーズ「文法の問題」

娘の結婚式準備でごった返すメドウェイ公爵夫人邸にて。花嫁が身に付ける予定だった最高級のダイヤモンドが邸内の厳戒警備にもかかわらず盗まれた。だがウィムジー卿にはすでに犯人がわかっており… 変な質問で兄姉を困らせるピーターの前日譚を希望。ウィムジー卿 (今読んでいる文庫の表記) のキャラクターも悪くはないけど「疑惑」のような不穏全開のセイヤーズの方が断然好き。

G・D・H & M・I・コール「ウィルスン警視の休日」

ろくに休みを取らないウィルスン警視が心配なマイクルは彼をノーフォークへと連れ出す。海辺を散歩していると人気のないテントが立っていた。中は水浸しで血を拭った跡のあるシーツまで見つかり… お仕事大好きウィルスン警視が大活躍。犯罪現場の発見から検証、関係者への事情聴取、推測を裏付ける証拠を求めてさらなる捜査… すべて読者の目の前で進行する。こういうタイプの作品は登場人物と読者が同じ時間軸で前へ進むことができて臨場感があるところが好み。

T・S・ストリブリング「ベナレスへの道」

心理学者ポジオリがヒンドゥー教寺院の醸し出す不思議な雰囲気に魅せられて宿なしの現地民たちとともに一泊したところ、なぜか全員が似たような悪夢に苦しめられた。翌朝、寺院内で前日に結婚式を挙げたばかりの花嫁が変わり果てた姿で見つかり… こっ、これは… まさかの結末。後味の悪さは随一。他に何を書いたらいいのかわからない。

フレドリック・アーヴィング・アンダースン「ドアの鍵」

探偵作家アーミストンと警察副本部長パーのコンビが、崖から車を転落させて女性を殺しておきながら軽業師のごとく姿を消した男の正体をつかみ、女性殺しの自白を迫る。ハッタリで自白を引き出す手法はフェアじゃない気がして好きになれず。