(読了日:2017年4月14日)
エラリイ・クイーン「気ちがいティー・パーティ」
ウイリアム・アイリッシュ「晩餐後の筋書」
ローレンス・G・ブロックマン「なまず物語」
魚類学者ジョナサン・スミス宅の階段に男の死体が転がっていた。ジョナサンは夢遊病者ゆえに自分の犯行に違いないと告白するが、リッター刑事が馴染みの病理学者とともに死体の調べを進めていくと… 平凡な事件の捜査に夫婦愛のスパイスを一振り。
ジョン・コリア「夢判断」
ビルの39階から毎晩一階分ずつ落下していく夢を見る青年チャールズ。昨夜は精神科医が入居する2階を通過した。その時チャールズの目に飛び込んできたのは自分の婚約者が精神科医の膝の上に座っている姿だった… 発想は独創的なものの、すぐにオチが読めてしまう。
フィリップ・マクドナルド「おそろしい愛」
劇作家シプリアンは舞台装置家アストリドを発作的に殺してしまう。その後、独房で過ごす彼を支えたのは親友チャールズが南米から帰国次第どうしかして彼を助けてくれるに違いないと信じる気持ちだったが… 作品名の意味が明かされる結末に驚愕する。ヒタヒタと怖い作品。シプリアンの内面がなぜ突如としてあんな風に崩壊してしまったのかがわからず、話がどういう方向性を持っているのかがなかなか見えてこなかった。常に頭の半分に疑問符が浮かんでいる状態で読み進めたけれど、そのせいでむしろ最後にガツンとくる衝撃が大きく感じられたのかも。
ロアルド・ダール「おとなしい凶器」
スタンリイ・エリン「パーティの夜」
舞台俳優のマイルスは週8回の主演舞台、愛情でがんじがらめにしてくる妻との暮らし、好きでもない仕事仲間を招いて日々開かれるパーティ… そういったものすべての繰り返しを憎み、愛人との逃避行を計画していたが… エリンにしては毒気が弱く感じられた。
フィリップ・マクドナルド「夢みるなかれ」
ジョンは大好きな国語教師ギャビンを連れて母が一人で暮らす家に帰る。息子だけ帰ってくると思っていた母は失望を隠せずギャビンに対して無礼な態度をとる。そんな母にジョンはいかにギャビンが大切な存在かを聞かせ… 不穏な三角関係の末路はいかに。マクドナルドは、男性二人の関係に (はっきりとは表現しないけれども) 同性愛を匂わせることが多かったのでしょうか。たまたま二作そういうものが続いてエドガー賞を獲っただけかしら。他にも読んでみたくなりました。
スタンリイ・エリン「ブレッシントン計画」
トリードウェル氏の事務所にバンスなる見知らぬ男が急に現れ「われわれ老齢学協会があなたの問題を解決します」と申し出る。初めはバンスを追い払おうとしていたトリードウェルだったが、話を聞くうちに彼の言う「問題」に思い当たる節が出てきて… 1956年に書かれたとは思えないほど現代の高齢化社会に蔓延る問題を鋭く言い当てているところがまずゾッとする。トリードウェル氏が終盤で覚える不安は残念ながらいつか現実のものとなるであろうという暗示が非常に前向きな言葉で表現されているところも不穏でよいが、いま一歩怖さが足りない印象。
ジェラルド・カーシュ「壜の中の謎の手記」
カーシュが数年前にメキシコで買った赤色の壜の中には細い葉巻のような文書が入っていた。近代文書研究家いわく、アメリカの作家アンブローズ・ビアスの絶筆に違いないとのこと。その文書にはビアスがある人の住まいで受けた恐るべき歓待の様子が… 実際に謎に包まれたままのアンブローズ・ビアスの消息を上手くフィクションに仕上げたが、たいていの日本人にはそれほど新鮮味のないオチで終わる。子どもにも馴染みのある有名な本で似たような結末のものがあるせい。
ウイリアム・オファレル「その向こうは——闇」
高級マンションに住む裕福な女性ミス・フォックスはエレベーター係のエディがお気に入り。愛犬の散歩を週5ドルで頼んでいた。しかしクリスマスに20ドルを弾んで以来、エディの態度に変化が現れる。ついには部屋まで押しかけてくるようになり… 他人の気持ちや生活を思いやる力に乏しく、ただ自分がよい気持ちを味わうために人に施しをする金持ち女性を待つ黒い運命。誰かに親切にするには大きな責任を覚悟する必要があるのだと痛感。悪意はなくとも中途半端な善意は残酷なものになりうるのであり、場合によっては相手の人生まで変えてしまう。いろいろと考えさせられました。
ロアルド・ダール「女主人」
ジョン・ダラム「虎よ」
高校生の娘の恋人リンクの撃ったライフルの弾が頭をかすめた出来事 (本人は標的撃ちの最中に足が滑ったと言い訳) 以来、彼を性格異常者であると睨んで目の敵にする高校教師のジョン。授業中の態度が悪かったリンクを注意したことで恨みを買い、またしても命を狙われ… 娘をめぐって父親と恋人が息詰まる対決を繰り広げる。父親の大人気のなさが少々気になるが、恋人の他人を喰ったような生意気な態度とエスカレートする殺意の不気味さがそれをカバーする。
エイヴラム・デイヴィッドスン「ラホーア兵営事件」
主人公が立ち寄った酒場で、年配の男が昔インドのラホーアに駐屯していた頃の思い出話を始める。一人の美しい女性をめぐる三人の軍人による駆け引きとその汚れた結末。そして、その思い出話と主人公との意外な関係。これと言った魅力は感じず。
デイヴィッド・イーリイ「ヨット・クラブ」
メンバーも活動内容も全くの謎に包まれているにもかかわらず、社会で大きな成功を収めた者たちがこぞって入会を希望する秘密めいた「ヨット・クラブ」に興味津々の事業家ゴーファス。クラブについて密かに情報収集を進めるうち、一人の老人と出会い… 以前「緑色の男」を読んだことのあるイーリイ。その時にも感じたように今回もまた何とも形容しがたい奇妙さがあった。これが乱歩のいう「奇妙な味」の最たるものなのだろうけれど、わたし自身が堪えられない類の「奇妙な味」からは外れていて、非道徳的なオチにもそれほどゾクッとはしなかった。
パトリック・クエンティン「不運な男」
ハリイは結婚当初より妻ノーマから受けた恩恵の数々をとうの昔に忘れ果て、今は彼女に対する憎悪と殺意で頭が一杯になっている。妻にはない魅力を備えたフランシスと結ばれるため、いよいよ妻の殺害計画を実行に移すが… 既読のパトQでは格別の面白さ。