Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

The Time of Her Life (1931)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

友人と一緒に出かけたパーティーで、うんと歳の離れた裕福な作曲家ウィルビーから気に入られたポーリーンは、花束・本・衣服・手紙といった熱烈な愛情表現を受けるが、二人の関係がプラトニックなもの以上に発展することはなかった。なぜなら、ポーリーンはウィルビーの愛情とお金がもたらす副産物だけを愛していたからであり…

Aira's View

自分の虜になっている男に対して自分が持っている影響力の大きさに酔いしれるポーリーンのサディストぶりが目に余る。評伝著者によると「初期の作品群の中ではあらゆる意味で最低の作品」とのこと。あらすじを読んだだけでも筋立ての不味さや設定の無滑稽さが伝わってくる。

この小説の不恰好さの示すもの。それはウールリッチが自身の人生と向き合う時の不恰好さなのではないかと、ふと思った。ウールリッチが人生に対して覚えていた居心地の悪さが本作に溢れているからこそ、読んでいて辛く重苦しい気持ちになったのかもしれない。そんな気がした。

A Young Man's Heart (1930)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公ブレアは、父の浮気が原因で母親と離ればなれの生活に。父はパーティー三昧の堕落した生活を送り、次から次に新しい恋人を作っては別れる始末。ブレアは家のお抱えコックの娘マリキータと相思相愛となるが、父の恋人の入れ知恵で欧州へ送られることになってしまう。マリキータに「必ず戻ってくる」と約束して出発したブレアだったが、急きょ行先変更して向かったニューヨークで地元名士の娘と知り合い…

Aira's View

作品後半で舞台が南米へとシフトし、主人公らが革命に巻き込まれるという異色作。反乱軍に占拠されたホテルでの緊迫した状況が描かれており、あらすじを読むだけでも手に汗握る出来である。この革命が主人公にもたらす偶然と、その偶然こそが運命だったのかと思わせる不条理さが読む者の胸を突くことだろう。

ところで、似たような短編をどこかで読んだことがある気がして読書ノートを一生懸命遡ってみました。革命が起きるその瞬間に居合わせてしまう主人公が出てきたのは、アイリッシュ名義で書かれた短編「日暮れに処刑の太鼓が鳴る」しか見当たらず。結末は似ても似つかないものだった。やれやれ、記憶なんて当てにならないものですね… 

Cinderella Magic (1930)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公パティはひょんなことから出席することになったピアス家の社交舞踏会で令息ラリーに見初められる。二人はお互いに夢中になり、ついにはピアス家の方から結婚話が持ち上がったため、パティは以前から真剣交際していた恋人に別れを告げるが…

Aira's View

家柄の違いが若い二人の障壁となる設定はいつの時代においても鉄板 (悪く言えばありきたり) だが、ウールリッチは三者三様に切ない結末を用意して、後々の自分を支える特徴そして強力な武器となる「哀愁」をしっかり漂わせている。ウールリッチ特有の湿っぽさが感じられ、ついつい胸が高鳴る。