Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

杉江松恋編『ミステリマガジン 700【海外篇】』

(読了日:2017年3月21日)

A・H・Z・カー「決定的なひとひねり」

冒頭で「妻はかつて三人の人間を殺した」と明かされてからのサスペンス。美術館主事を名乗る男が以前雑誌で紹介された骨董の家具を見せてほしいと主人公宅を訪ねてくる。金額に折り合いがつけば美術館に展示したいと言うが… 妻の無双ぶりが痛快な一編。

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The Girl in the Moon (1931)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公マーティはミュージカル・コメディ女優ゼルダに恋をする。彼の一途な気持ちに心を打たれたゼルダは女優を引退して結婚し、演技を求められずに済む平凡な暮らしに満足するが…

Aira's View

惚れ込んだ相手が平凡な姿を見せるようになると「こんなはずじゃなかった」と幻滅するタイプの男性像は、ウールリッチ初期作品に多く見られる。女性に対して過度で一方的な理想を描くが、その像にぴったりな女性を手に入れた途端、物足りなさを覚えて夢破れる。相手がどう感じているかには興味がなく、何かを求められたり失望させられたりしたらすぐに捨てる。女性を生身の人間ではなく偶像としてしか見られない男性キャラクターが多いのは、ウールリッチが女性の精神性を尊ぶ術を知らなかったたことと無関係ではないのかもしれず、女としてはちょっと寂しい気持ちになる。