Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

The Girl in the Moon (1931)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公マーティはミュージカル・コメディ女優ゼルダに恋をする。彼の一途な気持ちに心を打たれたゼルダは女優を引退して結婚し、演技を求められずに済む平凡な暮らしに満足するが…

Aira's View

惚れ込んだ相手が平凡な姿を見せるようになると「こんなはずじゃなかった」と幻滅するタイプの男性像は、ウールリッチ初期作品に多く見られる。女性に対して過度で一方的な理想を描くが、その像にぴったりな女性を手に入れた途端、物足りなさを覚えて夢破れる。相手がどう感じているかには興味がなく、何かを求められたり失望させられたりしたらすぐに捨てる。女性を生身の人間ではなく偶像としてしか見られない男性キャラクターが多いのは、ウールリッチが女性の精神性を尊ぶ術を知らなかったたことと無関係ではないのかもしれず、女としてはちょっと寂しい気持ちになる。

中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』

(読了日:2017年3月9日)

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」

夫の肥満ぶりを競うという異様な趣旨のコンテストで優勝を狙うグラディスは運動好きで身体の引き締まった夫を太らせるべく奮闘する。驚きの速さで巨大化に成功した夫はライバルたちからやっかまれながらも優勝を果たしたのだが… カラッとした明るい文体には不釣り合いに思える不穏な空気に期待が高まったが、コンテストの意図の明かされ方に衝撃がなかった。これで終わり?本当に?と肩透かしを食らった印象。思わずゾクッとして読者の身動きが数秒は止まってしまうような、ピリッと気の利いた締めの一行が欲しかった。

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