Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

各務三郎編『クイーンの定員 III 傑作短編で読むミステリー史』

 (読了日:2017年6月24日)

デイモン・ラニアン「ドロレスと三人の野郎ども」

セントルイスで抗争を続けて互いに大きなダメージを受けてきた三人の大物ギャングが和平会議を開くことに。その道すがら、近年頭角を現しつつある若手ギャングのファロネを殺害。会議を控え、三人は揃ってとある美人ホステスに熱を上げてしまい… 『クイーンの定員 III』いきなり痛快な一篇でスタート。美人ホステスのドロレスが生まれ持った美貌に度胸と機転を合わせてあっぱれな行動をする様子にスカッとした。互いを出し抜くことで頭がいっぱいで無防備になる三バカギャングがどこか愛おしく思えてくるほどのおかしみに包まれた愉快な作品。

エラリー・クイーン「見えない恋人」

悪い噂などひとつも聞こえてこない好人物の法律家ロジャーが同じ下宿に寝泊まりしていた芸術家を殺した容疑で裁判にかけられようとしている理由をエラリーが探る。関係者に話を聞くうちに現れた下宿屋の娘アイリスの美しさに事件の動機を見出したエラリーは… 今まで読んだ短編の中ではどこかツンと澄ました印象が強くて正直あまり好きではなかったエラリーが美女の前で思わず動転して言葉を失ったり赤面したりする場面が妙に微笑ましく感じた。人間関係や謎解きがシンプルでわかりやすいのでクイーンに苦手意識がある人にオススメしたい。

C・デイリー・キング「釘と鎮魂曲

アパートの一室から鎮魂ミサ曲が繰り返し流れてくるが住人の応答がない。素人探偵タラントが天窓から様子を覗いてみると、寝椅子の上に若い娘の全裸死体が横たわっていた。ドアも窓もすべて内側から鍵がかけられた状態で犯人はどこへ消えたのだろうか…?不可能犯罪を得意とするタラントが執事兼相談役のヒドーとともに、犯人が部屋から脱出した方法を探る。本格黄金時代に人気のあった素人探偵とのことだが、これといったクセのない人物なのがイマイチ。読み終わったらすぐに思い出せなくなってしまうタイプのキャラクター。トリックには意外性があった。

マージェリー・アリンガム「綴られた名前」

夕食に呼ばれた知人宅から車で帰宅する途中、私立探偵キャンピオンは道端で横倒しになった車に気付く。付近に転がっていた見栄えのしない指輪に興味を持ち自分のコートのポケットに忍ばせる。しばらく現場を検分していると警官に呼び止められてしまい… 久しぶりのキャンピオンもの。以前読んだ盲目の門番を巡る謎解きの話が気に入ったのでワクワクしながら読み進めたけれどこれといったインパクトのないまま終わってしまった。世間知らずでわがままなお嬢さまだから、よく正体のわからない男に警戒もせずにガードを緩めてだまされるんだよ (イラッ)

カーター・ディクスン「銀のカーテン」

カジノで負けが込んたジェリーは同じテーブルで賭けをしていたデイヴォスから勇気さえあれば簡単に大金が手に入る仕事を手伝わないかと誘われて指定された日時にある場所へと足を運ぶが… マーチ大佐が挑む不可能犯罪。からくりにちょっと無理がある気も。

ウィリアム・マハーグ「ブロードウェイ殺人事件」

ギャングのノードゥン殺害容疑でスポーツ用品仕入れ係のデニンを逮捕したが有罪にするだけの証拠が揃わずオマリー警部が改めて担当することになり… 人物名や相関関係がちっとも頭に入らず苦労させられた。説明不足な点が気になって楽しめず。

ウィリアム・アイリッシュ「裏窓」
レイモンド・チャンドラー「ゆすり屋は撃たない」

単なる消化読書になってしまったから読了と言ってよいものかどうか。よほどの機会が巡ってこない限りチャンドラーは読まないと思う。血が腕を伝って指先から滴り落ちる… などの描写はわたしが読みたいミステリには必要ないのだと認識。

リリアン・デ・ラ・トーレ「蠟人形の死体」

友人ボズウェルに誘われて蠟人形館を訪れた辞書編纂者ジョンソンだったが、蠟細工師に作業場を案内してもらっていたところで持病の発作を起こして倒れ、近くにあった蠟人形を壊してしまう。もげた手首からはなんと人間の本物の骨が見えており… 調査に同伴させてもらえなかった時などにボズウェルがいちいちジョンソンに対して恨みがましいことを言うのが可愛くない。もっとユーモアや皮肉が効いていれば魅力の一つにもなるんだけど。無条件の愛に目が眩んでいる助手が好きだから彼らのコンビにはどうもピンとこない。犯人の動機と事後行動も雑。

スチュアート・パーマー「医者と瓜ふたつの男」

パイパー警視と女教師ヒルデガードが夜道を歩いていると近くの家の二階の窓から警察を呼ぶ大声が聞こえた。二人が現場へ駆けつけるとウルツ氏が自宅の書斎で意識を失っていた。発作用の薬で一命は取り留めたものの、かかりつけ医が気になる一言を… パズル小説が得意な作家ということで、関係者みんなが怪しく見えて物語が混乱しそうなところを結末に向かってきれいにまとめていく。事件発覚から最後の一片がスッとはまってパズルが完成するまでの流れがスピーディかつスムースで気持ちよく読める。

ロイ・ヴィカーズ「ベッドに殺された男」

市会議員ベンテイクが所有する貸家でジゴロのスタンサがベッドのスプリングを調整する道具で後頭部を殴打され死亡、しかも女性がドレスの下に履くペティコートを頭に被せられた状態で発見された。容疑者がありつつ迷宮入りした本件にレイスン警部が挑む。迷宮入りが決まるまでの捜査が雑で視野が狭いし、準備に準備を重ねたくせに土壇場でなぜそんな余計なことをしたのか… という謎の行動をした犯人も情けないし、最後に脱力してしまった。以前読んだ怪盗フェリシティ・ダヴもの「聖ジョカスタの壁掛け」と同様、なぜか文章が読みにくくて大変苦労した。 

クイーンの定員〈3〉傑作短編で読むミステリー史 (光文社文庫)

クイーンの定員〈3〉傑作短編で読むミステリー史 (光文社文庫)

 

エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション 1』

(読了日:2017年6月4日)

レックス・スタウト「殺人鬼はどの子?」

探偵ネロ・ウルフ宅を約束もなく訪れた法律事務所の所長秘書バーサ・アーロンを助手のアーチーが迎えて事情を聞く。事務所の共同経営者の中に敵方の依頼人と通じている者がいるので調べてほしいと言う。だが、アーチーがネロを呼びに行っている間に… 相変わらず尻重なウルフのため、ブツクサ言いながらも身軽に動き回るアーチー・グッドウィンが典型的な「仕事のデキる」男でとにかくカッコいい。ハンサムであることを強みと自覚して仕事に活用する姿も飄々として楽しい。褒めたりはしないがアーチーの意見をきちんと聞くウルフのツンデレぶりもよい。

ジョン・D・マクドナルド「罠に落ちた男」

スーパーでの買い物を終えて車で帰路に着こうとするジョウ。助手席に見ず知らずの男が拳銃を手に乗り込んできたところで彼の運命が狂い始める。命じられるままモーテルまで運転していくと… ジョウのアイデアを楽しむ短い作品。悪事は割に合わない。

エドガー・ウォレス「ウォーム・アンド・ドライ」

ありとあらゆる方法で幅広い犯罪に手を染めている何でも屋のニッピイはタレコミ屋としての顔も持っている。彼が警察に教えた情報のせいで刑務所暮らしを強いられたキレ者の悪党ジャギイは、出所後に「簡単な仕事をしないか」とニッピイを誘い… warm and dry という表現を場面に合わせていろいろな意味で使う言葉遊びのために書かれたんじゃないかと思った。ミンター警部が選挙活動中の知人に聞かせた話という形式のため、活劇的な面白さが損なわれてもったいない気がした。ジャギイのキャラがもっととんがっていればなあ。惜しい。

パトリシア・ハイスミス「池」

夫を飛行機事故で亡くしたエリナーは幼い息子とともに郊外の家に引っ越したが、庭にある池の存在が気になって仕方がない。業者が水を抜いたり除草したりしてもなぜかすぐに水が満ちて蔦が生い茂ってしまい… 誰もが予想できる不幸なのにゾッとさせる筆力に敬礼。

ジェイムズ・ホールディング「やっぱり刑事」

拷問の末に殺された男のポケットに残されていたのは図書請求記号のメモだった。ランドール警部は元刑事で現図書館員のハルに連絡してその本を手に入れるように協力を依頼するが… ハルとランドールの絶妙な距離感と親しげな会話に微笑を禁じ得ない。大した期待もせずに (失礼) フラ〜ッとした気持ちで読み始めた短編に限って好みの作風だったりするのが楽しい。警察と探偵 (役を担う人物) の関係としてわたしの理想型にかなり近い二人だったので、シリーズものならよかったのに… と思った。

リチャード・レイモンジョーに復讐を」

ウェスがジョーから受け継いで経営する居酒屋に中年女が現れて「ジョーに用がある」と銃をちらつかせる。女はジョーの昔の恋人で自分以外の女と結婚した彼に復讐し、自分も今日車で事故を起こして死ぬと言うが… 読者を待ち構えるラストの衝撃がお見事。

マイクル・ギルバート「ちびっ子盗賊団」

少年二人組が空気銃を持って骨董品店に強盗に入った。店主の悲鳴を聞きつけたぺトレラ警部は店の方から駆けてきた少年たちの一人を捕まえた。しばらくすると、家賃が払えなくて困っている老婆のもとに二ヶ月分の家賃を賄えるほどの現金が匿名で届けられ… 義賊を気取って強盗を繰り返す少年四人組と彼らを追う警察の人間を描く短編だけど、子どもが犯罪に絡む話はどうにも気が滅入って苦手。

L・E・ビーニイ「村の物語 1 約束を守った男」

ケンドリックスは亡き母との約束を守るために田舎町へやってきた。その町は殺人を犯したとされる男の死刑執行を前に異様な熱気に包まれていた。ケンドリックスがここへやってきた目的とは何か。最後に明かされる約束の内容が切ない余韻を残す。

L・E・ビーニイ「村の物語 2 どうしてあたしが嫌いなの」

農場を一人で切り盛りする器量の悪い女性ラディを保安官が訪ね、女性を二人も殺した凶悪犯が脱獄したから十分気をつけるようにと告げる。翌日、ラディは農場の片隅に男の影を見つけて銃で威嚇するが… 久々に出会った「奇妙な味」。醜い容姿のせいで幼い頃から屈折した心理で無理して人と交わってきたラディの闇の深さは読みごたえがあった。そうきたか… という意外性とサイコな不気味さで読者を突き放すエンディングは好み。何か起きるぞ… 何かやらかすぞ… の黒雲が徐々に濃くなる感じがたまらない。

ダグラス・シー「おせっかい」

作家ゴアの書いた推理小説の内容に対して科学的に異議を唱える手紙をしつこく送り続けて本人の不興を買った大学助教授の運命やいかに。クイーンは「まぎれもない笑い話」と評しているが私には笑うに笑えないブラックなユーモアに思えた。インパクト弱めなのが残念。

パトリシア・マガー「ロシア式隠れ鬼」

20年も交流のなかった大学の同級生で今は病床にあるトリンカの夫から急に連絡が入り「妻が会いたがっている」と言われたセレナ。代理で校友会のロシア旅行に参加し、極秘である大事な物を持ち帰ってほしいと頼まれる。それは彼女の祖父が遺した詩で… 話を聞いた当初の予想以上に複雑な事情が絡み合っており、複数の組織から監視・妨害されるセレナだが、持ち前の頭の良さと機転をフルに発揮して状況を打破していく。その姿が何ともたくましい。終盤で伸るか反るかの賭けが始まると、彼女の心臓の音が今にも聞こえてきそうなスリルを感じた。

ジャック・P・ネルソン「イタチ」

自らの名声を高めるためなら事実を曲げてでも被告を無罪にする手腕と強欲を持つ刑事弁護士のベリー。今回の裁判ではフライ氏の妻子を殺したジャンソンを無罪放免に。事務所へ戻ると親友スパイクトから伝言が入っており、ベリーは待ち合わせの店へ向かうが… ゾーッとした。キャリアのためならどんな悪人も無罪にするという性根の腐り切った弁護士を呼び出した人間の正体が明らかになった時点で結末は予想できるが、その人の落ち着き払った態度が怖さを増幅させて読者を惹きつける。10ページにも満たない短さながら濃密な時間が流れており満足度が高い一篇。

アイザック・アシモフ「ロレーヌの十字架」

黒後家蜘蛛の会。マジシャンのラリが昔、待合室で知り合って一緒にバスに乗ったものの、知らぬ間に降車して行方がわからなくなってしまった女性のことを相談。同じバスに乗り合わせた少年は「ロレーヌの十字架のところで降りた」と証言したのだが… 初・黒後家蜘蛛の会でした。ラリの相談が始まるまで続く会員同士の他愛もない会話がまどろっこしかった。証言したフランス人少年にとってはアルファベットが記号にしか見えなかったという設定はさすがに無理があるのでは。他にも細かいところが引っかかってしまい、素直に話を楽しむことができず残念。黒後家蜘蛛の会安楽椅子探偵ものだとも、給仕ヘンリーが探偵の役割を果たすのだとも知らずに読んだので、彼があっさり謎を解いて終わる展開に戸惑ってしまった。これは単なる好みの問題であって何がよくて何が悪いという話ではないけれど、うむ、やっぱり探偵には手足を使って働いてほしい。

ジョン・L・ブリーン「白い出戻り女の会」

ゲストはロボット工学者のスーザ。人間を殺すことはできないとプログラムされているはずのロボットが開発関係者を撲殺してしまった。現場で何があったのか。そもそも本当にロボットが殺したのか。黒後家蜘蛛の会のパロディ。こてこてで胸焼けするほど。

デイナ・ライアン「破滅の訪れ」

空き部屋を他人に貸して老後の生活費の足しにしようと思い立つネルだったが気苦労が増えるばかりでうんざり。そこで年に一度だけ手紙で近況報告をし合う間柄の友人エマに間借りを持ちかける。彼女はすぐに引っ越してきたが… ジャクスンを思わせる後味の悪さ。まったく悪びれる様子もなく他人を自分のペースに巻き込み続けて生きる悪魔のような女を自らの手で人生に迎え入れるという大きな過ちを犯した主人公が徐々に狂っていく様子をどこかのんびりとした筆致で描いた。そのせいで結末が過剰に毒々しくならずに済んでいる。なぜかカラッとした風味のイヤミス

プロンジーニ&マルツバーグ「不幸にお別れ」

身の上相談室 (書簡限定) の担当者ハロルドは殺人を妄想してしまうことに悩むグレイ氏から相談を受けて対応するが、相手は返答に満足しないどころか徐々に脅迫じみた手紙を送りつけてくるようになり… なるほど!と膝を打つ見事なオチが楽しい。どちらかが一方的の別れたがっている夫婦の駆け引きを含む短編って面白いものが多くて好きです。

シリア・フレムリン「魔法のカーペット」

幼い双子が部屋で遊び回ることによる騒音に対して隣近所から毎日のように苦情を申し立てられているヒルダはある日カーペットを購入。子どもたちはそれに乗ってあちこちの国を飛び回る空想の遊びを覚えてくれたため騒音は減ったかに思われたのだが… 「転」の部分を除いては非常に現代的かつ現実的な設定で、ヒルダと同じように追い詰められていくことはいつどこで誰の身に起きても不思議はなく思える。イヤな後味。追い詰めた側のケロッとした態度が不気味。

ジョン・ボール「閉じた環」

自分より仕事ができて頭がよく遊びも上手な隣人フレッドに対してウォルターが抱いてきた嫉妬と憎しみはいよいよ殺意へと発展する。だが、真意を誰にも悟られることのないよう慎重に慎重を期して付き合いを続けていた。やがてフレッドと二人で猟に出る機会が訪れて… 自分よりも常に優位に立つフレッドによって抑圧されていた自我が解き放たれて以来、ものの考え方がどんどん独りよがりになっていくウォルターの行く末に待つものとは。淡々と静かに語られる結末が哀愁を誘う。

エラリイ・クイーン「仲間はずれ」

石油王サイアーズ邸にパズル・クラブの会員が集う。今回の謎解き担当は私立探偵エラリイ。麻薬供給者によって殺された秘密調査員が残した odd man という言葉を手がかりに犯人を当てる。エラリイは持ち前の推理力を活かして3通りもの解答を用意する。ちょっとした言葉遊びのようなものですな。軽い気分でサラサラッと楽しむ一篇。

ロバート・L・フィッシュ「秘密のカバン」

腕利きの金庫破りクロードは今日も留守宅に忍び込んで持参人払い有価証券を入手。戦利品を学生風のカバンに入れて歩いて現場を離れる。しかし、途中から同じ方向へと歩き続ける警官らしき男の足音に悩まされ… 最後まで読むと冒頭の一文が理解できる。「月下の庭師」では良質なほのめかし技術を披露したフィッシュだが、本作は解釈に迷う要素が全くないほどにシンプルでユーモラスな小品に仕上げた。警官のちょっととぼけた味が主人公を惑わす流れでニヤリとする。

イリアム・バンキア「危険な報酬」

10年連れ添ったものの子宝に恵まれずに不仲となった妻から他の男の子を妊娠した事実とともに別れを告げられた元プロ野球選手のミリガンは、酒場で人目を引く男女と知り合い、ほんの数日で大金が手に入る仕事に誘われる。過去に囚われ続けた男の哀しい末路。 

クイーンズ・コレクション 1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-35)

クイーンズ・コレクション 1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-35)

 

エラリー・クイーン編『完全犯罪大百科 (上) 悪党見本市』

(読了日:2017年5月5日)

ハワード・スプリング「郵便殺人」

新聞社でメッセンジャー・ボーイとして働いていた頃から同僚のシャスターに何かにつけて先を越されてきた新聞記者のミルナー。日々鬱屈をもたらす存在であるシャスターに対して殺意を覚えるようになったミルナーは休暇中に完璧な殺害方法を思い付き… シンプルだけれどなるほどと思わせるアイデア。文芸批評家出身の作者ということで、どことなくシニカルな雰囲気のある筆致が気に入った。

H・C・ベイリー「ミスター・ボウリーの日曜の晩」

信心深くて賛美歌が大好きなボウリー氏のところへ知人女性シーリアが訪ねてきた。夫の浮気や暴力から逃れるために離れた土地で暮らし始めたが、夫が追ってきて家に居座ろうとしていて怖い、助けてほしいと言う。ボウリー氏は彼に会いに行き… 良心の塊のような顔をして悪魔のような所業をサラリとこなすボウリー氏に戦慄。善と悪の境界線はどこにあるのか。宗教哲学のような一篇。初めてベイリーの作品を面白いと感じた。

ドロシー・L・セイヤーズ「血の犠牲」

小説家スケールズは初作が俳優兼興行主ドルーリーに買われ舞台化契約を交わすが、興行的成功のために大幅に内容を書き換えられたことに大きな不満を持ち、やがてドルーリーに対して殺意を感じるまでになる。そんなある日、ドルーリーが事故で大ケガをして… スケールズの視点で物語が進行するようになる後半、秒針の音がコツコツと心の中で響き渡るような緊迫感がたまらない。態度はあくまで消極的でありながら完全なる殺人を犯す方法。お見事。

ジョン・ディクスン・カー「骨董商ミスター・マーカム」

骨董商チャールズ・マーカムはジューディスという女が隠しておきたい過去を調べ上げ、恋人やその親にそれを知られたくなかったら2000ポンドを支払うよう強請る。そこへジューディスの恋人ロンが現れ… ラジオドラマ。くねくね忙しい。

アーノルド・ベネット「殺人!」

拳銃鍛冶屋で銃を買い求めた男と、彼の後を追って店に入り同じ銃をポケットに隠して持ち帰った男。彼らはある一人の女性を苦しめる男と彼女を救いたい男だった。とあるホテルのビリヤード場で話し合うも呆気なく決裂し… 警察と素人探偵のポンコツぶりに笑う。

グラント・アレン「ダイヤのカフスボタン

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E・W・ホーナング「ラッフルズ罠にはまる」

以前招かれた拳闘家マグワイア宅で目にした宝石入りのベルトなどを盗みに入った怪盗ラッフルズから「罠にはまった。すぐ来てほしい」と電話を受けた相棒バニーは直ちに現場へ向かうが、運の悪いことに玄関先でマグワイア本人と鉢合わせしてしまい… 昨日も書いた通り、ラッフルズとバニーの関係性に大いに不満がある。作者の義兄弟にあたるドイルも賛辞を送るほどのラッフルズシリーズ。いまいち面白さがわからなくて困る。

フレデリック・アーヴィング・アンダスン「不敗のゴダール

「怪盗ゴダール」シリーズで人気の小説家アーミストンはスリに遭って困り果てていたところをベンスンという男に助けられて目的の列車に乗ることに。ベンスンは先ほど助けた男が作者だとも知らず夢中でゴダールの最新作を読んでおり… 非常にうまく組み立てられた一篇。ときどき入れ子式の世界に迷い込んだ感覚に陥りそうになるが、内容が理路整然としているので混乱することはない。ほほぅ、そうきたか!と感心することしきり。エンターテインメント性が非常に高く優れた作品。

エドガー・ウォーレス「七十四番目のダイヤ」

オランダ王侯ラジャは首飾りの七十四番目のダイヤを求めてロンドンへやってきた。警部が警告したとおり、早速詐欺師ペニー・ラムがラジャの部屋を訪問してダイヤを偽物とすり替えて持ち帰る。ところが故買屋はラムが持ってきたものこそ偽物だと言い… 〈調整屋〉アンソニー・スミスの飄々とした仕事ぶり。軽く楽しめるのが魅力だけど少々あっさりしすぎ。調整屋という日本語がどうもしっくりこないと感じたのはわたしだけでしょうか。

ロイ・ヴィカーズ「聖ジョカスタの壁掛け」

怪盗フィデリティ・ダヴが知人から窒化沃素の話を聞いて閃いた奇想天外な方法で美術品収集家なら知らぬ者がいないほど有名な壁掛けを盗む。盗み方に芝居がかっているところがあって、見事というよりは何となく鼻につく印象。いまいち話に乗れず。

O・ヘンリー「催眠術」

偽の薬用酒で一儲けしている詐欺師ピーターズは街で出会った大道商人タッカーとコンビを組むことに。市長が体調を崩したがかかりつけ医が不在で困っていると聞き、早速押しかけて例の酒を飲ませてみたところ… 詐欺師コンビにもっと個性とユーモアがあるとよかったな。

ジョージ・ランドルフ・チェスター「強力無比座骨神経痛剤製薬会社」

以前ある街で親しくなったの大道商人がニセ薬で稼いでいるのを見かけた詐欺師ウォリンフォードは、その薬の株式会社を作って大儲けすることを思い付き… 株などの細かい数字が何度も出てきて辟易。流し読みして何とか消化。

エヴァレット・ロード・カースル「大佐のお別れパーティ」

翌日に海兵隊に入ることになっている知人コールダー大尉に「餞別」を送るため、ボクシングのラジオ放送を使って一芝居打つことに決めたフラック大佐。さて、その策とはいかに。詐欺師ものは三篇目にして早くも飽きてしまった (欠伸) 

完全犯罪大百科―悪党見本市〈上〉 (創元推理文庫)

完全犯罪大百科―悪党見本市〈上〉 (創元推理文庫)

 

 

マーティン・H・グリーンバーグ編『新エドガー賞全集 アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (14) 』

(読了日:2017年4月25日)

ジャック・リッチー「エミリーがいない」

妻エミリーからの電話に顔色を失い、エミリーを街で見かけたという知人には「サンフランシスコへ行っている」と答えて手を震わせ、エミリーからの手紙を隠し、音楽室から聴こえるエミリーのピアノの音に驚く。そんなアルバートを怪しむ人物が… 妻殺しで自責の念に駆られて頭がおかしくなった夫を描いた作品かと思いきや… うふふ、そういうことか。ジャック・リッチーは初めて読んだのでまんまと引っかかりました。いきなり楽しい一篇で始まった『新エドガー賞全集』です。

フレデリック・フォーサイスアイルランドに蛇はいない」

お金に困ったインド人医学生ラム・ラルはもぐりの解体業者でアルバイトを始めるが、人夫頭キャメロンから「異教徒」「黒んぼ」などと目の敵にされて屈辱を味わう。ヒンドゥー教の女神のお告げに従ってキャメロンへの復讐を実行するが… 何度もハラハラ、そしてついにホッ…… とはさせてくれないフォーサイス先生にぐるぐると弄ばれることを楽しむための一篇でした。

ルース・レンデル「女ともだち」

クリスティーンの習慣は毎週木曜に友人アンジーの家を訪れること。ある日たまたまアンジーが不在なのを知らずに家へ入ってみると、彼女の夫デーヴィッドが一人で「あれ」を楽しんでいるところに出くわしてしまい… レンデルを初めて面白いと思った。これは好き。「あれ」が何なのかをなかなか明かさずに引っ張っておいてようやく真相を明かすまでの流れが絶妙。グイグイと引き込まれてしまった。フランソワ・オゾン監督がこれを原作として映画を作ったとのこと。どう着地させるのかを楽しみに観てみたい。映画のタイトルはネタバレにつき省略。

ローレンス・ブロック「夜明けの光の中に」

私立探偵マット・スカダーが通うバーの常連客ティラリーの家に強盗二人組が押し入り妻が殺された。犯人は盗みは認めたものの妻殺しはティラリーの依頼だったと証言。ティラリーが無実であることを示す証拠を探すよう頼まれて調査を始めたスカダーは… スカダー渋い。訳ありで涙目になっている知人女性 (一度だけ寝た相手) に気付いても相手から合図されるまでは隣のスツールには座らずに距離を置くとか、彼なりの男くさい美学にしびれた。真犯人を追い詰めるための細工の仕方がハードボイルドなところもしびれた。スカダー渋い (二度言った) 。

ジョン・ラッツ「稲妻に乗れ」

私立探偵ナジャーはトレーラー暮らしをしている女性ホリー・アンから「来週処刑される予定のカーティス・コルトは無罪。有罪を決定づけた四人の証人にもう一度話を聞いて、彼らが見たのはコルトではないかもしれないと言わせてほしい」と頼まれたが… ホリー・アンの卑怯さに気分が悪くなるだけの作品だった。後ろ暗いところがある人間は誰のことも信じることができないのだ。なんと虚しいことか。それが生きていく上での最大の罰になるというのに、必死で法の下における罰から逃れようとする愚かさ。同じタイトルで長編も書かれた。私は短編で十分。

ロバート・サンプスン「ピントン群の雨」

保安官特別補佐エドの妹スーが自宅で殺された。近くの道路に停まった車の中からは保安官助手フレミングの射殺体も見つかった。スーと交際していた良家の息子トミーをエドが訪ねると、彼は二件の殺人を告白する手紙を書いていた… 救いのない荒んだ一篇。

ハーラン・エリスン「ソフト・モンキー」

大昔に亡くした赤ん坊の代わりにぬいぐるみを偏愛して生きるホームレス老女のアニーは、四人の男による残忍な殺人の一部始終を目撃してしまい彼らから命を狙われることに。暴力描写が多く思わず目を背けたくなるがアニーと追っ手による攻防はスリル満点。

ビル・クレンショウ「映画館」

ホラー作品上映中の劇場で観客の一人が喉を搔き切られて死亡する事件が発生。異様な事件に街は盛り上がり模倣犯まで現れる騒ぎに。コーリー警部補はきっと犯人はまた同じことを繰り返すと信じて夜な夜な劇場へ通うが… 犯行現場がわたしにはホラーでした。うっぷ。

新エドガー賞全集 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(14)

新エドガー賞全集 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(14)

 

 

ビル・プロンジーニ編『エドガー賞全集 (下) アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (6) 』

(読了日:2017年4月21日)

ローレンス・トリート「殺人のH」

車での長距離移動に同乗者を求める新聞広告がきっかけで意気投合したタンシイとギルフォードの女性二人組。誰かと電話で話した後、タンシイは一人でモーテルから姿を消す。ギルフォードから相談を受けた警察が調べると、タンシイの絞殺体が車内から見つかり… 刑事ミッチ・テーラー、警部ビル・デッカー、科研ジャブ・フリーマンの三人が役割分担をして淡々と調べを進める様子を描いているだけだが、どこかとぼけたような愉快な雰囲気があって明るく楽しめる作品。警察小説の父と呼ばれたトリートの明かす警察の捜査手法がわかりやすいため、初心者におすすめ。

シャーリイ・ジャクスン「悪の可能性」

最も古くからその街に住んでいる老婦人ストレンジワースは街全体が自分の物であるかのように錯覚しており、住人に対して一風変わった方法で正義感を発揮し始めるが… 限られた世界で生きてきた人間による独善的行為がもたらす不愉快さといったらもう…!

リース・デイヴィス「選ばれたもの」

偏屈な老婆が所有する土地にあるコテージを借りて先祖代々暮らしてきた一族の青年ルフスは恋人との結婚を控える身だったが、突然老婆から賃貸契約を打ち切ると手紙で告げられる。住む家がなくなっては結婚も危うくなるため、青年は交渉をしに老婆を訪ねるが… 老婆による青年への異常な執着が不気味なのはよいが、その根拠や意味がわからないまま終わってモヤモヤする。「奇妙な味」に属することは理解できるが、自分好みの「奇妙な味」とは一致せず、特に心を揺さぶられることはなかった。どこを宙ぶらりんにするかの基準が作者のそれと合わないのだと思う。

エドワード・D・ホック「長方形の部屋」

大学構内にある学生寮の部屋でローリングスという学生が心臓を刃物で刺されて死亡した。容疑者はルームメイトのマクバーン。彼は20時間以上もの間ローリングスの死体とともに部屋に閉じこもっていたという。レオポルド警部がマクバーンの意図を探る。レオポルド警部は好きなキャラクター。さてさて今回はどんな捜査をするのか?と思っていたら拍子抜けするほどに短い一編だった。関係者の証言を丁寧に聞く以外には「何かあるぞ」と知らせてくる自分の勘だけを頼りに地道に事件に取り組む。レオポルド警部の場合は意外性のなさが好ましく感じられる。

ウォーナー・ロウ「世界を騙った男」

ウォーナーの家に突然大叔父フランクがやってきて、もう自分は先が長くなく他に行くところもないのでしばらく住まわせて欲しいと願い出る。彼が亡くなった後、ウォーナーが遺品整理をしてみると大叔父の波乱万丈の人生を明かす手記が見つかり… これは傑作。ちょっとでも手記の内容を書くと面白さを損なう気がするので何も書かないでおくけれど、あはは (思い出し笑い) 、あーおかしい、こんなにクスクスと笑える短編はめったにお目にかかれないと思う。映画やテレビの世界で活躍していた作者だけあってプロットが見事だし、場面の切り替えも上手い。文庫で50ページを超えてくる長さなのに一ヶ所もダレるところがなく、読み始めたら途中では絶対に手を止められない面白さ。どうやって世界を騙ったのかは読んでのお楽しみ。

ジョー・ゴアズ「さらば故郷」

父親の容態が芳しくないと知らせる母親からの手紙を受け取ったクリスは脱獄に成功して実家へ戻る。ほとんど眠らずに父親のそばに付き添い、臨終の瞬間にも立ち会った。追っ手が迫っていることを感じつつも未だ立ち去りがたく、葬儀にまで参加したクリスだったが… 自分以外の家族が知らない父親の側面を子どもの頃に見てきたクリスなりの弔いを捧げる場面が胸に迫る。ゴアズを読むのは2回目。ハードボイルドな要素が少なめなせいか、前回よりも好感触だった。

M・F・ブラウン「リガの森では、けものはひときわ荒々しい」

8ヶ月前に心臓発作を起こして以来、週一度の血液検査と抗凝血剤の服用が欠かせなくなったキャサリン。彼女の頭の中で繰り広げられるとめどない回想と精神崩壊の様子を描く。なぜこれがエドガー賞を獲ったのかが不思議でなりません。

ロバート・L・フィッシュ「月下の庭師」

巡査部長はウィリアムズ夫人からの「隣家に住む女性が消えた」との訴えを受けてしぶしぶながら捜査を始める。チャーリイという男に会い、妻はシカゴにいる弟のところへ行ったとの証言を得るが、血のついた斧や地下室のコンクリートなど怪しいものがあり… ほのめかしが散りばめられた大人向けの作品。ある意図を持って警察の目を眩まそうと実行される作戦の数々が巧みで、最後は「そういうことか!」と膝を叩きたくなること請け合い。まだまだ勉強不足なわたしはオチがわからず、Kさんに解説をお願いしてようやく面白さを理解しました。もっと成長したい。

ジョイス・ハリントン「紫色の屍衣」

毎年夏になると芸術村へ出かけて休暇を過ごすムーン夫妻。夫は学生たちに絵画を教え、妻は機織りに没頭するのが習慣。夫は今年もまた若い女学生とひと夏の戯れを楽しんでいることを知っている妻は… 妻の鼻歌でも聴こえてきそうなラストに背中が涼しくなる。

ハーラン・エリスン「鞭打たれた犬たちのうめき」

ある夜、ベスは窓を開けようとしてアパートの中庭に腕から血を流してフラフラと歩く女の姿を見つける。追ってきた男がナイフを執拗に突き立てて彼女を殺すまでの一部始終を目撃したベスは恐怖に震える。ふと異様な霧に気付いて頭上を見上げると… 陰惨な事件に立ち会うかのようにじっと中空に浮かんでいた得体の知れない巨大な二つの目は一体何なのか。都会で信仰を知らずに生きてきたベスが大いなる力の存在に気付き、戸惑い、恐れおののき、そして目覚めるまでの姿を描いた異色作。宗教と幻想の要素が強いため、読者を選ぶかもしれない。

ルース・レンデル「カーテンが降りて」

母親がことあるごとに口にする「あのぞっとする晩」に自分の身に一体何が起きたのか。リチャードは全く思い出せないまま大人になった。ある日、昔祖母が住んでいた家の近くへ車で行ったリチャードは、あの頃の自分のように一人で遊んでいる少年を見つけ… レンデルはいくつか短編を読んだけど毎回ハズレなく後味が悪い。特に母親と息子が出てくる話は屈折ぶりが病的で、こちらの頭がどうかなりそうになる。今回も息子を束縛し続けた母親だけは常に「母親」であって名前が決して明らかにされないところにリチャードの深い闇 (もしくは病み) を感じた。レンデルの後味の悪さは、ジャクスンやブランドあたりとはちょっと違うんですよね。小説として割り切れないイヤらしさというか何というか… グジュグジュとした膿のような感じがあります。

ジェシ・ヒル・フォード「留置所」

知人に譲る農機具を探しに祖母の農場を久々に訪れたジムは、納屋の奥に隠すようにしまわれている埃を被った赤い車を見つける。ジムを巻き込むことを嫌がってなかなか事情を話そうとしない召使いのヘンリーだったが、ようやく車の主ルーベンについて語り始め… 素晴らしき不可解さを持った一編。わたしが好きなのはこういう怖さなのです。根本から何かが完全に狂っている閉鎖的な環境で生まれる狂気。まったく無害なつもりでとんでもないことを長年続けている人間。あぁ面白かった。5点満点のところ10点をつけました。

エタ・リーヴェス「恐ろしい叫びのような」

ぺピートは優しい姉のリタが大好き。家計を支えるため彼女が夜の仕事を始めた時には子どもながらにショックを受けた。嘘だと信じたかったが、街でリタのことを噂する男の声を聞いてついに現実を受け入れざるを得なくなったぺピートは… 愛する人が (いくらやむを得ない事情からとはいえ) 汚されていくのを見るのが辛いというぺピートの姉に対する純粋な愛情とその表現方法が切ない。

トマス・ウォルシュ「最後のチャンス」

神父という職業を捨ててからは飲んだくれの中年男に成り下がったパードレは、酒場で顔なじみになったジャックからある事を頼まれる。強盗を働いて大金を独り占めした元服役囚が死にかけているため、告解を聞いて金の在り処を探って欲しいというのだが… 以前読んだ作品でも、職業人としての誇りを捨てて道を踏み外した人間の悲哀を描いていたウォルシュ。今回も神父としての誇りを取り戻せるかどうかの瀬戸際に追い込まれた男が主人公だった。何かよほど人間と職業の関係というものに思うところがあるのかしら。作品が似たような雰囲気になりがち。

バーバラ・オウエンズ「軒の下の雲」

過去から逃れて新しい暮らしを始めたアリスによる日記。アパートの住人との付き合いやドラッグストアで見つけた仕事も順調で、このまま何もかも上手くいくかに見えた新生活だったが、徐々にアリスは不安定になっていき… 文章が壊れだす終盤〜最終行の衝撃。

ジェフリイ・ノーマン「拳銃所持につき危険」

求人広告を見て面接に行った主婦サンドラが求人主に強姦された。被告弁護士が「女の方から誘った」と陪審員に誤解させる弁論のせいで犯人は無罪に。サンドラはうつ状態にあったが、ある日急に清々しい表情が戻り、夫に射撃の指導を頼むのだった… 警官にも検事にも親身になってもらえず日々憔悴していくサンドラの姿は女としては辛いものがある。事件が事件だけに夫の戸惑いも、妻のためを思ってすることが空振りになる虚しさもよくわかる。ある目的が見つかってからのサンドラの復活が見事。みるみる逞しくなっていく彼女は見ていてスカッとする。

クラーク・ハワード「ホーン・マン」

惚れた女の犯した殺人の罪をかぶって16年の刑期を務め上げたディクスを待っていたのは、彼の祖母や母に長年仕えていたレイニー老人。ディクスは再会を約束した例の女に会いに行こうとするが… 渋味のある名作。ディクスを優しく見守る人たちの愛情に胸熱。