Aira's bookshelf

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Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

杉江松恋編『ミステリマガジン 700【海外篇】』

Aira 読書ログ

(読了日:2017年3月21日)

A・H・Z・カー「決定的なひとひねり」

冒頭で「妻はかつて三人の人間を殺した」と明かされてからのサスペンス。美術館主事を名乗る男が以前雑誌で紹介された骨董の家具を見せてほしいと主人公宅を訪ねてくる。金額に折り合いがつけば美術館に展示したいと言うが… 妻の無双ぶりが痛快な一編。

シャーロット・アームストロング「アリバイさがし」

街へ引っ越してきたばかりで知り合いの一人もいない上品な老婦人が洋品店強盗の容疑をかけられてしまう。ミラー刑事とともに自分のアリバイを証明してくれる人を求めて歩くが… これは何と解釈したらよいのか悩ましい一編。人間讃歌の一種か?

フレドリック・ブラウン「終列車」

今の暮らしを投げ出して人生をリセットしたいと願うアル中の弁護士ヘイグ。何度もそうしようと思いつつ逃してきた機会。今夜こそはと終列車を目指して駅へ駆け込むが… SF寄りの普通小説といった趣き。特に大きな出来事もないのに何とも落ち着かない読後感。オーロラなのか大火事なのかわからない赤く染まった空は何を象徴しているのだろう。ブラウンはこの辺りが本当に上手いと思う。

パトリシア・ハイスミス「憎悪の殺人」

家族に対する愛情や期待が消え去った後、世の中の人間すべてが憎悪の対象となってしまった郵便局員アーロンは手始めに同僚を殺した。次は局長、その次は局長の息子… 自分は正しいことをしているのだと信じたまま狂っていく人間の闇を淡々と描き切る短編。

ロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」

株に失敗して銀行から大金を着服した出納係のヘンリー。尾行中の探偵から現金を隠すためにとっさに選んだ場所は、とある住宅の庭で木を植えるために掘られた穴だった。三年の刑期を終えたヘンリーはその家の夫妻と親しくなり… じんわりと良い話。「これ、O・ヘンリーの作品なんですよ」と言われたらすんなり信じてしまいそう。

エドワード・D・ホック「二十五年目のクラス会」

レオポルド警部はクラス会を準備しているトレヴァーからの依頼で十三人の同級生への連絡役に。その過程で、かつてクラス会のピクニックでフィッシャーが溺死した件が思い出される。あれは本当に事故だったのか。人情と正義感の間で苦悩する警部。以前「一瞬の狂気」を読んだ時には特に何も感じなかったレオポルド警部。今回の短編ではとても素敵に見えた。余計なことをしているのではないか?と何度も自問しながらも、刑事としての正義感に従って今すべきことをする。たとえその先に辛い事実が待っているとしても。その実直な姿が魅力的だった。訳者によって台詞の言葉遣いが違うから、人物に対する印象も大きく変わるのだと思う。今回の訳者 (田口俊樹さん) でレオポルド警部シリーズを読んでみたいと思ったけれど、彼は二編しか訳されていないようで残念。

クリスチアナ・ブランド「拝啓、編集長様」

ブランド本人が某編集長に宛てた手紙という形式の短編。これ以上書くとネタバレしそうなのであらすじは省略。後味悪い作品は決して嫌いじゃないけどコレはちょっと微妙かも。過剰演出でわざとらしいドラマを観た後のような白けた印象を受けてしまった。

ボアローナルスジャック「すばらしき誘拐」

毛皮商人ベルトンの妻が誘拐され、犯人から高額の身代金を要求される。ベルトンはショックを受けるどころか内心で大喜びしていた。なぜなら彼には妻を二度も殺そうとして失敗した過去があるから。全編すっとぼけた風味で楽しいが結末はありきたり。

ルース・レンデル「子守り」

苦手です。いろいろとボロ◯ソに書いてしまいそうなので、感想は読書ノートだけに。それにしても、なんて気分が悪い短編を書くんだろう、この人は。

ジャック・フィニィ「リノで途中下車」

金欠寸前の夫婦が新天地で仕事を見つけて再出発しようと移動していたが、途中で疲労がピークに達してリノで一泊することに。夫はどうしてもカジノの誘惑に抗えずクラップスのテーブルへ向かうが… 実況中継のような文章が延々と続き、途中から流し読みに。

ジェラルド・カーシュ「肝臓色の猫はいりませんか」

珈琲バーで出会った陰気な男から聞かされる肝臓色の猫の話。ある時はドアから追い出し、またある時は袋に詰めて遠くの家の前に置き去りにし… 何をしようとも男の家の暖炉の前に戻ってくる不気味な猫。短いながらしっかりと奇妙な味が効く。

ピーター・ラヴゼイ「十号船室の問題」

タイトルですぐピンとくる通りジャック・フットレルに捧ぐ物語。豪華客船に乗り合わせた小説家フットレル、元編集者ステッド、そして若者フィンチが退屈しのぎに完全犯罪を考えて発表し合おうという話に。フィンチだけは早くも計画を立て終わった様子で… フットレルの最期を知っている人には自明のことだが、そうでない人は中盤で明かされる事実にアッと驚くはず。歴史、実在した作家、ミステリという三要素の組み合わせ方が上手い。ラスト、こうなるとわかっていても胸が痛む。

イアン・ランキン「ソフト・スポット」

刑務所で手紙の検閲官として働くデニスは、大物受刑者ブレインと美人妻セライナの手紙に異常な関心を示し、自宅でコピーを取ったりしている。手紙や写真だけでは満足できなくなり、セライナの自宅周辺をうろついたり… 不気味な偏執狂と受刑者の駆け引き。

レジナルド・ヒル「犬のゲーム」

ペット同伴可能なパブで流行っている、火事になったら犬か人間かどっちを助けるかを言い合うおかしなゲーム。見捨てる候補の人間として嫁の母親をいつも挙げていたレニーの家が本当に火事になり… 犯人探しするなら白黒つけてほしかった。残念な「奇妙な味」に。

ジョイス・キャロル・オーツ「フルーツセラー」

昔、地元の公園で行方不明になったきり遺体も見つかっていない少女の新聞記事、幼い女の子たちの写真、そして謎の鍵を父の遺品の中から見つけてしまった兄妹。薄暗い地下室の冷たく湿った空気のようにヒタヒタと彼らに忍び寄る恐怖にゾーッとする。 

 

各務三郎編『クイーンの定員 I 傑作短編で読むミステリー史』

Aira 読書ログ

(読了日:2017年3月16日)

ヴォルテール「王妃の犬と国王の馬」
エドガー・A・ポー「盗まれた手紙」

さる貴人にとって世間に知られてはまずい内容の手紙をD大臣が堂々と本人の目の前で盗んだ事件。G警視総監が万策尽きてデュパンに手紙の捜索を依頼。ポーが基礎を築いた「探偵小説」なるものをそこそこ読んできたせいか、至極普通の面白みしか感じなかった。これを最初にサラッとやってのけたポーがどれだけ優れた人物だったのかを今さらながら実感することができたのは収穫でした。ドイルがどんなに強くポーの影響を受けたかについても痛いほど伝わってきて、無性にホームズを読みたくなってしまった。

ウィルキー・コリンズ「人を呪わば」

既読の物と訳者が違ったため再読。シャーピンの自信満々なドジっぷりが何度読んでも笑える。これは興味が乱歩全集から海外アンソロジーへ移って一番初めに読んだ思い出の一編。お気に入りとまではいかないけど一生忘れない作品だと思う。

トマス・B・オルドリッチ「舞姫

語り手の下宿の向かいに住む舞踊家が自室で首を切られて死亡する事件が発生。これといった証拠がなく捜索も行き詰まりかと思われた時、保安官のところへ自首しに来た人物があり… えっ!と驚くこと二回。まんまと乗せられてしまった。科学者が安定の奇人ぶり。

マーク・トウェイン「世にも名高きキャラヴェラス郡の跳び蛙」

ある人からの依頼でレオニダス・W・スマイリーなる人物を探すためサイモン・ウィーラーという老人から話を聞こうとするが、老人の口から出てくるのはジム・スマイリーという男の思い出ばかりで… 結局レオニダスはどうなったのよ。

エミール・ガボリオ「バチニョルの小男」

ゴオドユイル医師が向かいの部屋に住む職業不詳の男の正体を知るまでのプチミステリですっかり夢中に。その後はポーの流れを汲んだ本格的な探偵小説で何から何まで完璧。医師と例の男のバディぶりがたまらない。70ページ超えで読み応えは十二分。満足。ゴオドユイルとメシネのコンビがシリーズで短編集になっていたら最高なのになぁ。

ロバート・L・スティーヴンスン「クリーム・パイを持った若い男の話」

フロリゼル王子と腹心の部下ジェラルディーン大佐が変装してお忍び外出を。酒場でクリーム・パイを配って回る若い男に興味をそそられて食事を共にすることに。彼が所属する謎のクラブに興味本位で王子らも乗り込んでみたが… 「ジキル博士とハイド」の作者による一編。夢か現かわからなくなるような、でもしっかり勧善懲悪なおとぎ話。フロリゼル王子とジェラルディーン大佐の、身分差がありながらもがっちりと噛み合った真の友情が楽しい。王子は優男風ながらも芯が強い。でも大佐がいないと結局ダメなところが最高に魅力的。

アーサー・モリスン「サミー・スロケットの失踪」

賭けの対象になっている徒歩競争レースを控えて有力選手サミーが忽然と姿を消す。 彼の才能を見込んで今まで面倒を見てきた居酒屋店主ケンティッシュは探偵として有能な友人マーティン・ヒューイットに調査依頼。良くも悪くも失踪ものの王道。モリスンは「ドイルのエピゴーネンの評をけしさることはできなかった」との解説に納得。ヒューイットは平凡さこそが魅力という説もあるようだけど、ユーモアも毒気もないとなるとさすがに地味かな。惚れ惚れするような紳士ぶりや身のこなしを見せてくれるわけでもないので男性キャラとしてもイマイチ。

アーサー・コナン・ドイル「赤毛連盟」
メルヴィル・D・ポースト「罪の本体」

ニューヨークで資産家として名を馳せるウォルコットの人生は令嬢との結婚を控えて順風満帆かに見えたが、ある女性から送られてきた一通の手紙によって彼の暗い過去が明らかに。悪徳弁護士ランドルフ・メイスンの辣腕ぶりが光るも後味の悪いことこの上ない。アブナー伯父シリーズの作者がこんなに凄まじい悪徳弁護士ものを7編も書いていたという事実に驚いた。弁護士としての経験を最大限に活用して書き上げたせいか、書き手の自信が漲った作品だった。特に終盤の裁判シーンの論破はすごい。法改正を促すことになった話題作。後味は最悪だけど (まだ言う) 殺害後の行為が細かく描かれる場面は、おそらく現代の推理小説や映画・ドラマに慣れた人にとってもショッキングな残虐さと生々しさで満ちているのではないかと思う。とにかく読み応えはすごいけど後味が悪い (3回目)

グラント・アレン「ダイヤのカフスボタン

スイス随一の高級ホテルで休暇を楽しむヴァンドリフト夫妻の前に英国から来たという若い牧師が現れる。彼のカフスボタンには牧師の身分に不釣り合いなほど豪華なダイヤモンドがキラリと光る。それを見たヴァンドリフト夫妻の目の色が一瞬で変わり… 終盤で登場する某人物が指摘する通り、はたから見れば「どっちもどっち」の争い。決してつまらなくはないけれど、どの人物にも感情移入できないのが難。ダイヤを巡る騒動を遠くから野次馬として眺める距離感。大変そうだけど金持ちの道楽なんだから別にどうってことないでしょ、と若干しらける読後感。そもそも詐欺師というものにあまり興味がないので仕方ない。義賊の類なら別だけど。

M・マクダネル・ボドキン「代理殺人」

バークリー館の主人が自身の猟銃によって後頭部を吹き飛ばされて死亡する事件が発生。第一発見者である甥が前日に伯父と激しい口論をしていたことから容疑者として逮捕されたが… 普段は穏やかな経験型探偵ポール・ベックが鋭く真実を暴く場面は迫力大。あっさりとしながらも過不足のない脚本のような人物・風景描写が肌に合って、これは絶対に好きな話だな… と直感した。即、仕草や台詞を好きな俳優で脳内再生する。こういう興奮を味わえる短編はそう多くない。本作のように探偵による見分を細かく描く作品が大好物。既視感あるトリックは微妙だった。

ニコラス・カーター「ディキンスン夫人の謎」

何度も宝石を盗んでいく美女が取引先の骨董店主ディキンスンの妻とわかっているが、同業者同士の付き合いもあって対応に苦慮している宝石商フェリス。腕利き探偵のニックとともにディキンスンの事務所に乗り込んでみたが… クールな探偵に夢中です♡

E・W・ホーナング「ラッフルズと紫のダイヤ」

南アフリカでダイヤモンドを掘り当てて大金持ちに成り上がったならず者のローゼンタールが常に見せびらかしている二つの巨大ダイヤを五大義賊の一人ラッフルズが狙うが… 相棒バニーがやや面倒で信頼関係が弱い。バディものとはとても言えない。 

 

The Girl in the Moon (1931)

作品紹介 短編 未邦訳

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公マーティはミュージカル・コメディ女優ゼルダに恋をする。彼の一途な気持ちに心を打たれたゼルダは女優を引退して結婚し、演技を求められずに済む平凡な暮らしに満足するが…

Aira's View

惚れ込んだ相手が平凡な姿を見せるようになると「こんなはずじゃなかった」と幻滅するタイプの男性像は、ウールリッチ初期作品に多く見られる。女性に対して過度で一方的な理想を描き、その絵に当てはまる女性を手に入れた途端に物足りなくなって夢破れる。相手がどう感じているかには興味がなく、何かを求められたり失望させられたりしたらすぐに捨てる。女性を生身の人間ではなく偶像としてしか見られない男性キャラクターが多いのは、ウールリッチが女性の精神性を尊ぶ術を知らなかったたことと無関係ではないのかもしれず、女としてはちょっと寂しい気持ちになる。

中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』

Aira 読書ログ

(読了日:2017年3月9日)

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」

夫の肥満ぶりを競うという異様な趣旨のコンテストで優勝を狙うグラディスは運動好きで身体の引き締まった夫を太らせるべく奮闘する。驚きの速さで巨大化に成功した夫はライバルたちからやっかまれながらも優勝を果たしたのだが… カラッとした明るい文体には不釣り合いに思える不穏な空気に期待が高まったが、コンテストの意図の明かされ方に衝撃がなかった。これで終わり?本当に?と肩透かしを食らった印象。思わずゾクッとして読者の身動きが数秒は止まってしまうような、ピリッと気の利いた締めの一行が欲しかった。

イーヴリン・ウォーディケンズを愛した男」

アマゾネス探検隊に同行して一人生き残った資産家ヘンティーは現地の老人に助けられる。字が読めない老人にとって何よりの楽しみはディケンズの朗読を聞くことだという。恩返しに朗読役を快諾したヘンティーだったが… 底なしの恐怖沼へようこそ。

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」

臨時収入で家族に贈り物を買おうと思いメモを片手に出かけたおばあちゃん。頑固で恩着せがましい母親のせいで恋人からの求婚に三年間も返答できず遂に衝動的に家を飛び出した女性。二人の女性が直接顔を合わせることなく運命を交差させていく。ほのぼの短編。ジャクスンがこんなにほんわかと和む話を書いていたとは。今年一番の驚きです。

ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」

黒い皮肉の効いた一編。ラストで180度方向転換。登場人物と読者を宙に放り出す。生命の危機に陥った人間に芽生えるどす黒い欲求を容赦なく描いた。

ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」

骨董品店のショーウィンドウに自分が子供の頃に遊んでいたトラックが飾られていることに気付いたハリーがそのトラックを買い求めようと店内へ入ってみたところ… 夢の覗き見のようなふわふわする感覚と足元ぐらついて背中がゾワッとする感覚のせめぎ合い。

ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」

途中から何度もヒュー・ウォルポール「銀の仮面」の結末が頭に浮かぶ不気味な作品。息子が連れてきた知人をほんの一晩のつもりで家に迎え入れた女とその家族が味わうことになる恐怖。「奇妙な味」ならばこれくらい不穏な空気が漂わないとね。

ロナルド・ダンカン「姉の夫」

ドイツ軍による攻撃で大幅に運行が遅れた列車で同じ車室に乗り合わせたアレックスとバックル少佐。少佐は駅で弟の到着を待ちわびていたアンジェラに好意を持った様子で… 予想通りの展開だがアンジェラとアレックスが核心に迫っていく過程で息が詰まりそうになる。

ケイト・ウィルヘルム「遭遇」

予想外の豪雪によりバスを乗り継げなくなりターミナルの待合室で一夜を明かす羽目になったクレイン。室内では見知らぬ一人の女性が寒そうな格好で腰かけており… 編者解説によるとSF的解釈ができるとのことだが、クレインと女の関係も正体もよくわからなかった。

カート・クラーク「ナックルズ」

フットボール選手の道を諦めて保険セールスマンになったフランクはひどい癇癪持ち。クリスマスを控えて興奮気味の子供たちを大人しくさせておくため、彼はサンタクロースと対をなす悪神ナックルズの存在をでっち上げ… 気味の悪さよりもユーモアが勝る一編。カート・クラークは以前「これが死だ」で衝撃を受けた作家ドナルド・E・ウェストレイクの別名と知る。

テリー・カー「試金石」

謎めいた書店で5ドルで購入した黒くてすべすべした試金石を偏愛し始めて以来、日常のあらゆることから興味を失っていくランドルフを描く。何か魔術めいた物の魅力に取り憑かれて日常から逸脱していく人間を描いた作品は好み。ランドルフの内省ぶりが村上春樹に似ている。

チャド・オリヴァー「お隣の男の子」

ラジオの生番組のゲストとして登場したジミーは人殺しに興味があるなどと物騒なことばかりを口にして司会者ハリーをたじろがせる。何とか上手く話を逸らして放送を終えて一息つくはずだったハリーがスタジオで目にした恐ろしいものとは。面白みがわからず。

フレドリック・ブラウン「古屋敷」

古ぼけた屋敷の中で埃にまみれた廊下を進む一人の男性。途中にはシャンデリアから腐乱死体がぶら下がった部屋などがあるが男は落ち着き払っている。自分の名前のプレートが付いた扉を開けると、そこには子供時代を過ごした懐かしい部屋があり… ラストが怖い。

ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」

米国文化に染まってチューインガムの虜となった末っ子ジョンの口がいつしかガムから操られるようになってしまう。父親が必死に知恵を絞ってガムを追い払おうとするが… ノーベル賞作家がまさかこんなに笑える「奇妙な味」を残していたとは。傑作。

ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」

死の迫った人間と契約を結んで身体の一部を手に入れては売り歩く行商人からチェーザレ・ボルジアの右手を譲り受けようとする怖れ知らずの少年。彼の野望と正体とは。本編より前に置かれた作者紹介ページにネタバレ気味の解説を載せてしまったことが残念。

フリッツ・ライバー「アダムス氏の邪悪の園」

プレイボーイ誌創始者ヒュー・ヘフナーをイメージしたキャラクターが親類から受け継いだ魔術を用いて女性の毛髪から擬態植物を育てるという物語。読み始めてすぐから苦痛になってきて残りは流し読み。設定も展開もオチも何ひとつピンとこなかった。

ハリー・ハリソン「大瀑布」

瀑布のすぐ側に立つ頑丈な石造りの小屋へ取材に訪れたカーター。小屋で暮らす老人の手作りだという小窓から瀑布を覗いていると犬や客船などが次々と上から落ちてきて… 異界との繋がりとして描かれる迫力の大瀑布に読み手も圧倒される。わたしたちはどちら側なのか。

ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」

強風に煽られて旅人の胴体からもげてしまった頭が元の位置へ戻ろうと奮闘するだけの物語。顎を使って一生懸命よじ登る。シュール極まりない超短編。途中から「パイレーツ・オブ・カリビアン」に出てくる巻貝の頭の人しか思い浮かばなくなって困った。

ネルソン・ボンド「街角の書店」

猛暑のせいで筆が一向に進まなくなった作家のマーストン。風を求めて散歩に出たついでに最近まで存在を忘れていた小さな書店を目指す。中の書棚にはシェイクスピアアガメムノン」など聞き覚えのない本ばかりが並んでおり… アンソロジーを締めくくる表題作。 

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

 

 

レイモンド・T・ボンド編『暗号ミステリ傑作選』

Aira 読書ログ

(読了日:2017年3月5日)

R・オースチン・フリーマン「文字合わせ錠」

みんな大好きソーンダイク博士による懇切丁寧な暗号解読講義だよ!科学者ならではの緻密な謎解きを惜しげもなく披露するよ!才能を全く鼻にかけない上に相手がどんなに鈍くても決して見下さない博士の人徳にも注目だよ!

M・D・ポースト「大暗号」

宝探しの冒険旅行に出かけたまま帰らぬ人となった考古学者ショーヴァンヌの日記には、死の間際に彼が狂気の沙汰に陥っていたかのような記述が多く見られるが、内容を詳しく検討してみると… 編者がポー「黄金虫」に次ぐ面白さと言うわりにどうもオチがわかりにくい。

E・C・ベントリー「救いの天使」

結婚してまもなく悪妻と化した若夫人から何年も苦しめられ続けた男。病で先が長くないことを悟った彼が弁護士の手を借りてどうしてもやり遂げたかったこととは。弁護士から相談を受けた探偵フィリップ・トレントが暗号の解読に貢献する。最後は清々しい気分に。

M・R・ジェイムズ「トマス僧院長の宝」

僧院長が残した暗号を解き明かし、ついに宝の眠る井戸へと辿り着いた古文書研究家サマトンと召使ブラウンだったが、そこには恐ろしい「守護の者」が… 暗号解読ミステリというより怪奇小説に近い。暗号が宗教がかっていて複雑。異文化人には少々難しい。

アントニー・バウチャー「QL 696・C9」

職場で何者かによって殺された主任司書ベンソンは息絶える直前にタイプライターで謎の文字列を残していた。新米警部補マクドナルドがノーブル元警部補 (引退して酒浸り) の助けを借りて暗号解読に奔走。ノーブルの超人的高速推理に鳥肌が立つ。

エルザ・バーカー「ミカエルの鍵」

ロシアから亡命したヴォロンツォフ老王女が旅先で急死する。孫ボリスに託された謎の言葉が意味するものとは。一家と旧知の間柄にある美男子探偵デクスター・ドレイクが王女の想いに応えるべく情熱的に暗号解読に挑む。王女の高い知性と孫への深い愛情に涙する。デクスター・ドレイクがとにかくイイ男。見目麗しい上にロマンを理解できる稀有な探偵かと。短編集があったら家宝にするのに。

O・ヘンリー「キャロウェイの暗号」

日露戦争を取材中のキャロウェイは日本軍による奇襲攻撃の詳細を入手。検閲を逃れるため巧みに暗号化された電信文。新聞社の精鋭チームが解読に当たるが糸口が見えず。そこへ最年少記者ヴェシーがやってきて… O・ヘンリーの意外な一面に興奮できる傑作。優等生的な雰囲気が苦手だったO・ヘンリー。まさかこんなにスリリングな暗号解読ものを書いていたとは。思わず吹き出してしまうユーモアもあり。大活躍のヴェシーはもちろんだけど、一番カッコよかったのはリライターのエイムス。わずかな文字数の事実を一面いっぱいの記事に膨らます職人技に脱帽。

F・A・M・ウェブスター「比類なき暗号の秘密」

アパートの一室でクリスティエルンソンという名刺を持つ男の刺殺体が見つかった。アパート管理人によれば、この男は一週間前に向かいの部屋でショットガンを使って自殺したはずのハンフリーズであるらしく… 無理ゲー顔負けの暗号でしらけた。

ドロシー・L・セイヤーズ「龍頭の秘密の学術的解明」

ピーター・ウィムジー卿の甥が惚れ込んで買い求めた古書を倍の値段で引き取りたいという男が急に会いにきた。取引を断ると男に雇われた泥棒に侵入され… 家族向け娯楽短編の趣き。古書蒐集に目覚めたばかりの甥を見守る卿の包容力が素敵。

ハーヴィ・オヒギンズ「恐喝団の暗号書」

電報配達員として働くバーニーは憧れの探偵事務所から預かった電報 (求人広告) を覗き見して採用面接へ。そこに現れた探偵バビングの鞄を持つなどして必死に自己アピールした結果、ある仕事を手伝うことに。狡賢い少年への不快感しかない作品だった。

マージェリー・アリンガム「屑屋のお払い」

裕福な家庭の高級宝飾品ばかりを狙う連続空巣事件のカラクリに "万人の叔父" ことキャンピオン探偵が挑む。挑むといってもガツガツしたところはなく、知的な娯楽として悠然と調査に取り組むキャンピオン。読んでいて肩が凝らないのがお気に入り。原題 The White Elephant が「屑屋のお払い」と訳されていたのがよくわからなかった。

ルフレッド・ノイズ「ヒヤシンス伯父さん」

バルセロナ行きヒスパニオラ号に偽名で乗船するドイツ諜報部員のクラウス。暗号で書かれた国からの手紙を出発直前に受け取るが、解読に必要な書物はすでに船に搭載されていた。出港後に解読を始めたところ、クラウスの顔色が… ドイツ人に同情する。

リリアン・デ・ラ・トーレ「盗まれたクリスマス・プレゼント」

英語辞典編纂で知られるサミュエル・ジョンソンが助手ボズウェルとともに探偵役となり、突然部屋から消えた高級ダイヤの行方を追う。犯人の考えがあまりに幼稚でバカバカしくなってしまった。今回のアンソロジーを締めくくる一編。 

暗号ミステリ傑作選 (創元推理文庫 169-2)

暗号ミステリ傑作選 (創元推理文庫 169-2)