Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション 2』

(読了日:2018年6月3日)

バーバラ・オウエンズ「軒の下の雲」

既読につき、読了ツイート省略。

トマス・ウォルシュ「いけにえの山羊」

ホテルのエレベーターで出会い、ほどなくのっぴきならに間柄となった男と女。彼らには障害となる一人の男の存在が。二人は男を殺す計画を練ると同時に、罪をかぶせるのにぴったりな相手を見つけ出し… 色恋に溺れて身勝手の限りを尽くす男女を待つ結末は。「いけにえ」にされた少年をいたぶる二人の男の言動がただただ不愉快だが、捜査が進むにつれて新たな人物による救いがあるから読んでいられる。出だしは都会派ロマンスの雰囲気が満点で、次に何が起きようとしているのかすごくワクワクさせられた。ちょっとだけウールリッチの短篇が恋しくなった。

ジョイス・ポーター「ドーヴァー、カレッジへ行く」

翌日から始まる市民公開講座に備えてカレッジで寝食した受講者のうち、州会議員アンドリュウズが浴室で絞殺体となって発見された。ドーヴァー警部が捜査を進めると、関係者全員がそれぞれ違った事情から議員に恨みを覚えていることがわかり…「史上最低の探偵役」とも言われるドーヴァー主任警部のクセがすごい。不愉快を通り越して一挙手一投足に笑いを禁じ得ない。彼から顎で使われる優秀な若手の部長刑事マグレガーが事件の解決にも小説の清涼化にも大貢献。毒気のあるユーモアでいっぱいの本格推理小説。この面白さは病みつきになりそう。いやはや。これは本当に面白かった。読書ノートに感想を書くにつれてジワジワと可笑しみが増してくる不思議な作品でした。

キャスリーン ・ゴッドリーブ「夢の家」

妻に先立たれて以来、狭い賃貸アパートで侘しい毎日を送っていた主人公 (警官) は知人の農場主が所有する土地の一部を購入して家を建てることにした。以前は暴力夫に悩まされていた美女との再婚がめでたく決まり、早速彼女に土地を見せる主人公だったが…作者が残した他の作品をすぐに調べずにはいられないほど魅せられてしまった。登場人物それぞれが持つ味わいと作品全体の雰囲気が物語の切なさを際立たせる。結末はわりと早い段階から想像がつくものの、それにどう主人公が対峙していくのか、最後の一行まで緊張感が途切れることはない。しびれる名作。

ブライアン・ガーフィールド「貝殻ゲーム」

石油産出国蔵相会議が開かれる都市へやってきた主人公チャーリーに与えられた任務は、二人の大臣の命を狙う一匹狼の殺し屋グリゴリアスの仕事を阻止すること。過去の因縁から自分がまず狙われてもおかしくないという緊張感の中で繰り広げられる心理戦。主人公のでっぷりした体型が災いしたのか、スパイ vs 殺し屋という構図にしてはどこかスリルと躍動感に乏しく、全体的にモッサリとした印象が否めないものの、大臣が今この瞬間に殺されるかもしれないという危機が秒刻みで迫る中、チャーリーがどう動くかの意思決定を下すまでの臨場感には息を飲んだ。もう少しシャープな面白さがあればよかった。ちょっぴり残念。

E・X・フェラーズ「忘れられた殺人」

未解決の殺人事件に関する記事を書くよう新聞社の依頼を受けた作家ハッスルは、事件の起きた街を訪れて情報収集にあたる。パブで知り合った男クラップはなぜか事件に詳しく、殺されたアーミジャーと近隣住民リドルとの間に何度も諍いがあったことがわかるが…このオチはどうしても受け入れられない… 最後まで真面目に読んだわたしはどうなるの?と思わずツッコみたくなった。特に面白い謎解きがあるわけでもない微妙な仕上がり。なぜこれがコレクションに入ったのかがわからない。モヤモヤ読後感。

スティーヴン・ワズリック「クロウテン・コーナーズ連続殺人」

平和な街のスーパーや雑貨店で次々と店主が殺される事件が発生。保安官ティントが検死官の助けを借りながら捜査を進める中で4人目の犠牲者が。ティントから容疑者の特徴を聞いた通報者ハッケンスタック夫人はなぜか顔面蒼白になり…「どのページからも笑いをさそわれる」とクイーンが解説するだけあって確かによく笑った。登場人物にではなく殺人事件の構造自体に強烈なユーモアあり。ここまで完全に殺意なく殺人を誘発するハメになった人間が他にいるだろうか。彼が飄々と保安官に事情を述べる場面にはクスクス笑いを堪えられない。

ハロルド・Q・マスア「思いがけぬ結末」

妻に離婚裁判を起こされた作家ジョージは同業者の愛人リリー宅で生活するが、しばらくして近くの川で溺死体となって発見。担当弁護士スコットがジョージの身辺を調べるうち、ある人物の存在が浮かび上がり… 登場人物も展開も地味な印象。思いがける結末。

アン・マッケンジー「さよならをいわなくちゃ」

さよならを告げた相手は悉く命を落としてしまうという不思議な少女カレンが主人公。彼女の目線と言葉で綴られている超短編。クイーンが「恐怖の戦慄」と絶賛したようだけど、何がそんなに恐怖なのかよくわからないままに終わってしまって、あらら。

エドワード・D・ホック「スパイとローマの猫」

元秘密伝達局長ランドは友人でもある英情報部ヘイスティングズから呼び出され、過去の任務から因縁が生じたネルソン大佐の不穏な動きを牽制するためローマへ飛ぶよう頼まれる。早速大佐宅を訪れるが、出てきたのは召使と思われる老人と複数の猫で…人生で一度でもスパイを経験した人間は常にこういった因縁や疑心に晒され続けるのだろうと思わされる内容。ピリピリした緊迫感よりもランドの内面の揺らぎの描写に焦点が当てられていて、全体的に落ち着いた雰囲気。猫の存在の利かせ方が小粋で気に入った分、締めの台詞でトーンが緩んだ点だけが残念。

アーネスト・サヴェージ「巻きぞえはごめん」

元警官で私立探偵のサムは休暇で釣りを楽しむために山地へ出かけ、十年来の友人バッキーが暮らす小屋へ出向いたものの、彼を出迎えたのは見ず知らずの不潔な若い女で… 硬派と人情と正義のバランスが悪くて中途半端なところが引っかかる。消化読書。

リリアン・デ・ラ・トーレ「重婚夫人」

サミュエル・ジョンソン博士 & ボズウェルもの。非の打ちどころがない美女として有名なキングスフォード夫人が甥から重婚罪で訴えられた件を探る内容。これで三篇目だが相変わらず何が面白いのか全くわからず、デ・ラ・トーレが苦手作家の筆頭に。

パトリシア・マガー「壁に書かれた暗号」

米情報局員夫婦のセリーナとヒューはロンドンで二週間の休暇旅行中だったが、米国人テロリストが殺害されたホテルの部屋で発見され未だ解読されていない数字の暗号に関する情報をヒューが支局で入手してきて… 解読キーが何であるかの気付きがポイント。つまり、その見事な気付き以外には特にコレといったポイントがなく、全体的にこじんまりとした仕上がり。セリーナが主人公の短篇はいくつか読んだけれど、毎回「もう一捻りあったらな…」という物足りなさが残る。わたしにとってのマガーは強く印象に残るタイプの作家にはならなさそう。

ルース・レンデル「運命の皮肉」

妻ローラが親しくなった相手ブレンダは口を開けば男性遍歴自慢ばかりなのに周囲には男性の気配がまるでないことに気付く主人公。夫婦だけの静かな時間も持てないほど家庭に割り込んでくるブレンダの存在が徐々に疎ましくなった彼は、ある行動を起こす決意をする。女性のまつわるネチネチ・ジメジメ・ドロドロを書かせたら右に出る者はいないだろうと思われるルース・レンデルだが、本作は行動力のある男性が主人公で終始サラッとドライな雰囲気。冒頭の一文で引き込まれないミステリ好きはいないはず。オチのキレも良好。レンデルが苦手な人にもぜひ読んでほしい。

ロバート・トゥーイ「支払い期日が過ぎて」

クイーンが「不条理ミステリ」と紹介していたのでワクワクしながら読み始めたけど… ウーム。ローン返済から逃れようとする男が重ねる、センスのない嘘嘘嘘… 面白いどころか無性に腹が立ってくる。読んだ時間を返してほしいと真剣に思った作品の一つ。

ジャック・リッチー「白銅貨ぐらいの大きさ」

殺人班の刑事ヘンリーと相棒ラルフは、押し込み強盗シャーキーが自宅アパート内で殺された事件を捜査。不透明の薬壜が割られていたことから犯人は小さな物を探していたと思われ、つい最近高価な宝石を盗まれた女性から話を聞くことになったのだが…久しぶりに胸がときめく男性二人組に出会った。ヘンリーとラルフの関係が最高に微笑ましくてよい。ヘンリーの超人的推理力 (でもたまにポンコツ) が何より素敵。ラルフはそんなヘンリーを絶妙な位置から見守ってサポートする姿がカッコいい。ヘンリーの愛ある柔らかめの毒舌を受け流すラルフに萌えた。

パトリシア・ハイスミス「ローマにて」

二人の男による痴漢行為に悩まされ続けている美女イザベラは将来有望な官吏の妻として接待に同席して愛想を振りまくだけの退屈な暮らしにも辟易している。そこで痴漢の一人であるウーゴを利用して大金を手に入れようとするが… ハイスミスにしては毒弱め。登場人物全員がどこか人間味を欠いているため、全編を通して不穏で不愉快な空気が漂う。人間の業や欲の醜さがたどり着く先を知りたくて読み進めるも、文庫で40ページという長さが災いして途中でダレる印象。もう少し締めるところがあってもよかった気がする。歯車の狂った人間関係が後味の悪さを残す。

ジョン・ラッツ「もう一人の走者」

湖畔のコテージで一人静かに暮らすクライドンはランニングが日課。近くに住むマルヘイニーも毎日欠かさず走っているが、彼はいつも何かに追いかけられてでもいるかような不安な表情を浮かべていて… 背後から不気味なものがヒタヒタと迫りくる恐怖感がよい。マルヘイニーに付きまとう不気味でぼんやりした謎の存在と好対照をなすのが、彼から事情を聞いて手助けを申し出たせいで厄介な立場に追い込まれてしまうクライドンが味わうことになるジリジリとした焦り。こちらの描写はリアルで臨場感があり、彼の心臓の音や冷や汗の感触が伝わってくるかのよう。

デイヴィッド・イーリイ「昔にかえれ」

人里離れた山小屋で昔ながらの自給自足の生活を送ることにした若手の職人 7 名の平穏で満ち足りた日々が、ある新聞記者の取材を受け入れたことをきっかけに崩壊の一途を辿る。どこにでも起こりうる社会問題の根源には何があるのか。読者に強く問いかける。

ドナルド・E・ウェストレイク「これが死だ」

既読につき、読了ツイート省略。

ビル・プロンジーニ「現行犯」

自宅から見知らぬ男が出てくるところに鉢合わせしたルーミス。男の持ち物や家の中を調べ回ったが何一つ盗まれてはいなかった。しかし翌朝になってみると… そうきたか!そうか!これこそがショートショートの醍醐味よ!と膝を打ちたくなる見事な一篇。

スタンリイ・エリン「不可解な理由」

「ゆえ知らぬ暴発」として既読につき、読了ツイート省略。

 

 

 

 

 

 

スクリーンの中の女 (1934)

Story

脅迫状を頻繁に受け取るようになった女優マーサ・メドウズの身辺警護を命じられたガルブレイズ刑事は早速撮影所へと足を運ぶ。撮影中も彼女から目を離さなくて済むようにメドウズ主演作の監督に協力を依頼するが、ガルブレイズの隙をついて監督がスタジオを閉め切って撮影を始めてしまい…

Background

1923年11月29日、米テキサス州サンアントニオのロケ地にて "The Warrens of Virginia" (1924年公開、サイレント作品、邦題「自由の旗風」) の撮影作業が進む中、女優マーサ・マンスフィールドが自ら所有する車へ戻ろうとした際、衣装のフープスカートにマッチの火が燃え広がって火だるまとなった。共演者ウィルフレッド・ライテルがとっさに自分の着ていたコートで彼女の頭部を包んだため、顔と首は焼けずに済んだものの、それ以外の部分に重度のやけどを負ったマーサは、翌30日に24歳という若さで亡くなった。別の共演者フィリップ・ショーリーに付き添われ、マーサはニューヨークの自宅へ無言の帰宅をしたという。問題のマッチはマーサの車へ投げ込まれたとの証言がある一方、マーサが撮影中の緊張をほぐすためにタバコを吸おうとしたのではないかという説もあるが、後者についてはマーサの母親が「マーサはタバコの煙が嫌いだった」と否定しており、真相は謎に包まれたままである。(Wikipedia などを参考に Aira がまとめました)

Aira's View

台本のことで頭がいっぱいで事件を受け止める気配のまったくないロボットのような台本係や、弱点を握られた途端に態度を180度変えて自分よりも有利な立場にある人間に追従する映画監督など、ウールリッチが1928~31年を過ごしたハリウッドでこういう人間を実際に見てきたのだろうと思わせるような現実味とクセを備えた登場人物が物語を味付けする。

刑事が権力や暴力の象徴として描かれることの多いウールリッチ作品にしては珍しく、人間味の感じられる刑事を主人公にしている。女優という職業に対して偏見で凝り固まっていたガルブレイズが出会ってすぐに二言三言の会話を交わしてマーサと打ち解け、彼女を生身の人間として扱い始める過程を描いた部分が特に気に入った。ガルブレイズと上司のサバサバとした何でも言い合えるドライな関係の描写もよい。

原作者・脚色家として何度か映画製作に関わったのに一度もクレジットされることのなかったウールリッチ (字幕製作者としてアイリッシュという人間がクレジットされたことはあるが、それがウールリッチであるという確かな証拠はない) がハリウッドという世界に抱いた恨み辛みがちらりと見える部分も。

原題:Screen Test
訳者:高橋 豊 

悪夢 (ハヤカワ・ミステリ 776)
 

 

Walls That Hear You (1934)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公は、街で小さな店を営む電気工の男性。ある日、警官が店を訪れ、主人公の弟エディが見るも無残な死体となって路地裏で発見されたことを告げると…

死の治療椅子 (1934)

Story

歯痛に悩むロッジは腕のよい歯科医である友人スティーヴの元を訪れるが、先に来院していた貧しい身なりの患者が治療中におかしな唸り声を上げたあと急死してしまう。調べによると死因は致死量ちょうどの青酸カリ。スティーヴが容疑者として警察に連行されるのを目の当たりにしたロッジは、その友人の潔白を証明するために警察をも巻き込んだ大きな賭けに出るのだった…

Aira's View

邦題の字面が醸し出すおどろおどろしい雰囲気はどこにもなく、男二人の絆を楽しめるわかりやすい人間ドラマ。親友スティーヴを救いたい一心のロッジが身体を張って真実を求める姿に胸が熱くなる。向こう見ずとも言えるロッジの勇気をしっかり受け止めるスティーヴもまた魅力的。警察が頼りない (アイリッシュ作品ではおなじみ) おかげで、何の規則にも縛られず自由に行動する素人探偵の冒険を楽しむことができる。願わくば、敵役の内面描写がもう少し欲しかった。結末はあとひとひねりあってもよい気がするが、解決直前の緊迫感はなかなかのもの。

Aira's View 再び (ややバレ)

コーネル・ウールリッチ初の犯罪小説であるとの認識を持った今、改めて読了した。手慣れた様子で書かれているように感じた。臨場感いっぱいのスリルが出色。素人探偵ながら非常に機転が利くロッジが自分にできうる最高のパフォーマンスを発揮して歯科医の友人を救う。友のために命も張れるけど… のオチで一気に和む。最初はやたらと暴力的だった刑事がロッジに徐々に信頼を寄せていく過程にも味がある。バディものが好きな読者におすすめしたい一編。

 

原題 : Death Sits in the Dentist's Chair
訳者 : 村上博基

 

The Very First Breakfast (1934)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

料理が大の苦手な新妻ロバーツは、夫のケンに気付かれないよう、近所のレストランから毎日朝食を配達してもらっていたが…

Aira's View

ウールリッチがこの二人にどのようなオチを用意したのか、非常に気になるところ。