Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

EQ 編集部編『英米超短編ミステリー50選』

(読了日:2018年09月14日)

トニー・ウィルモット「過去の秘密」

お昼休憩で訪れる公園でよく見かける若い娘と言葉を交わすことをささやかな楽しみにしている市職員スマイズは、その娘が古い車の所有者について熱心に調べ回っていることを職場で偶然に知ってひどく動揺する。なぜならその車は… 苦くて複雑な読後感を残す。

ナンシー・ピカード「同居人」

頻繁にかかってくる無言電話を恐れる妻を家に残して出張中のジーン。宿泊先から連絡を入れると妻が怯えた声で応答したため、ちょっとした出来心から無言を貫いてみたところ、知らない男の声がして… ほんの一瞬の「魔」が人間の運命を大きく狂わせる怖さと虚しさ。

ヘレン・メリアン「十五年後」

成績優秀で将来有望と思われていた少年が当時唯一親しくしていたのは勉強が苦手で「警官ごっこ」が大好きな腕白スティーブだった。少年の引越を境に疎遠になっていた二人に不意に訪れた再会の日とは。原題 Night and Day (正反対の二人を暗示) がうまい。超短編

ヘンリー・スレッサー「目」

ボスから「人目に付かない簡単な仕事だ」と言われて殺しを引き受けたリオン。人里離れた場所にあるターゲットの家へ下見に行ってみると、すぐ目の前に建つ家に暮らす老婆が玄関先の揺り椅子に座っていて… スレッサーが得意とする何とも可笑しい結末を素直に楽しむ。

パトリック・アイアランド「発見」

同じ大学で働く博士に手柄を取られないよう単独で遺跡発掘の旅に出る准教授ハロウェイ。洞窟の奥で古代の壺を発見するが、懐中電灯を壊して闇の中に閉じ込められてしまい… 祖母の財産に手をつけてまで欲を満たそうとした男の末路。究極の選択。どちらも悲惨。

ルース・レンデル「苦い黄昏」

入院中の男子が「友人の話だ」と前置きして知人に聞かせる話。夫の浮気相手に復讐するつもりだった妻が… じとじと・ねちねちした話が多くて苦手なレンデルですが、いざサラッとしていると何だか拍子抜けしてしまうという… 読み手はわがままですね。作家は大変だ。

アンドリュー・クレイヴァン「これが最後よ」

度重なる夫の浮気に悩まされるマーガレットは相手の家を訪れて直接対決を狙うが相手の若さと美しさに圧倒されてしまう。後日、肉切り包丁を入れた買い物袋を持って彼女の家を再訪すると… あっと言わせる結末。何かと世話のかかる夫に思わず苦笑。

サイモン・ブレット「極秘情報」

街娼の女性が自転車のチェーンで絞殺される。9ヶ月ぶりに連続殺人魔「13日の殺人者」の登場に警察が再び動き出すが… タイトルから結末が想像できてしまうのが残念。犯人のメンタルが案外弱いところも微妙な感じ。

アーサー・ポージス「プリントアウト」

何年も行方不明の子供の現在の姿を推定写真として表示できるコンピューターを開発して捜査に貢献する科学者が、その写真を参考に警察が保護した少女を偏愛していた変質者から脅迫を受け… アシモフ編『三分間の宇宙』に収録されていそうなSF風味の超短編

クリスチアナ・ブランド「目撃」

お抱え運転手スミスが運転するロールスロイスの後部座席から、背中にナイフの刺さったアラブの族長ホラー・ホラーの死体が発見され、スミスが容疑者として警察に連行されるが… いくら何でもそれは厳しいんじゃない?という設定と結末にモヤモヤが止まらない。

ジョン・バーク「パートナー」

ひとつ屋根の下で暮らすシンディの支配的な性格に嫌気が差しているアレックスは、ある日の夕方の散歩中、通りを渡ろうとしている彼女に対し、ある反抗を試みたところ… 先入観をガラリとひっくり返される結末に「そういうことだったのか」と思わず膝を打つ。

アヴラム・デイヴィッドスン「追いはぎ」

夜遅くの電車を降りたところで何者かに後ろから頭を殴られ、下着以外を身ぐるみ剥がされてしまったスレイドだったが、警察から変質者と間違えられたりして仕事に支障が出るのを恐れて草むらから出ることができず… だから何なの?な終わり方にポカーン。

ミルトン・バール「トラック・ストップ」

長距離トラック運転手の溜まり場であるカフェに新米運転手らしき見慣れない男が現れる。暴走族三人組がその男にちょっかいを出し、歌えだの踊れだの命令して笑い者にするが… 男と入れ違いで店にやってきた常連客の一言に思わず吹き出すコミカルな一編。

スティーヴ・シャーマン「石の壁」

妻デブラを亡くしたアルバートは一週間家に閉じこもった後、日々黙々と石の壁を作ることに没頭する。やがて壁が隣人ウェズリイの敷地内に侵入し始めるが、アルバートは一向に意に介さない様子で… 彼の行動に隠された本当の意味を知らされる瞬間、胸にジワッとくる。

マイケル・J・エルリッチ「女房の殺し方」

ハリーは水漏れなどの家庭内の問題は何でも自分で直して節約したい主義だが、妻はそれをしみったれだと非難。事あるごとに口論になる二人。バーテンのビルに愚痴をこぼした勢いで「奥さんを事故で亡くしたなんて幸運だ」と口を滑らせたハリーだったが… 5ページ半のショートショートなのでこれ以上書けないけれど、何でもかんでも DIY にこだわるのもなかなか困りものだな… と失笑させられる結末。急展開の印象を与えることなく起承転結でしっかりと面白みを伝える技術は本当にすばらしい。これだからショートショートはやめられないんでしょうね。

キャロル・ケイル「殺意の明日」

家庭内で絶対的権限を振るって何もかも思いのままに操る夫に対し、いつしか殺意を覚えるようになったロイス。ある日発覚した水道の配管ミスにかこつけた夫の毒殺を計画するが、もう少し自分一人でいろいろな雑事をこなせるようになってから実行しようと思い直し… あはは! 目標に向けて大きな決断をした人間は強いですね。火事場のク◯力を発揮し始めた妻を前にした夫がどう変わるか。家庭内のパワーバランスについて考えさせられる人が少なからずいるかも…? 意外な展開で面白かった。

ジョージ・バクスト「言わなきゃよかった」

アパート内に越してきた女性が日夜奏でるひどいピアノの音に悩まされる作家のマルカムは、管理人に訴えたり彼女に直接手紙を書いたりするが効果はなく… うーむ。いまいち。最後の「言わなきゃよかった」の意味するところがよくわからなかった。

スティーヴ・アレン「長い剃刀」

「ハリウッド式殺人法」として既読につき、読了ツイート省略。

ジェーン・カーター・ラッキー「万全の対策」

「用心するに越したことはない」が口癖で、普段着を鍵付きトランクに入れたり車のバッテリーを外したりする夫に辟易している妻が主人公。こうなるだろうと簡単に予想できる結末にちょっとしたおまけ付き。吹っ切れた女はしたたかで恐ろしい。

エドワード・ウェレン「義を見てせざるは」

自動車事故で脚に大ケガを負って松葉杖生活を送るマーティン。自宅そばの暗がりに停まった車から女の悲鳴が聞こえる。窓から様子を伺っていると、女がナイフを持った男に羽交い締めにされ… どこで誰が見ているかわからないことを忘れちゃダメですね。

レジナルド・ヒル「巷説」

自分が創作した架空の話がどのような尾ひれを付けながら巷間に広がっていくかを研究中のアンは、偶然バーで隣り合わせた女がその作り話を友人に聞かせているのを耳にするのだが… 話の中の人・伝える人・聞く人が交錯してわかりにくいのが難。幻想小説の雰囲気が漂う。

ウェイド・H・モズビー「ゴルフ狂」

ゴルフ場のグリーンに立つと人が変わったように閉鎖的・攻撃的になるハリーと週二回の面談をしている主人公は、彼を偏執病の一種と考えていたのだが… おっと、そういうことだったのね。作者の思う壺にズボッとハマってしまった。何だか妙に悔しいわ…!

ジョイス・ハリントン「警官グルーピー

警官マイクがバーで出会った女ラスティーは彼の仕事や銃に興味津々であれこれ話を聞きたがるが、マイクはあまり多くを語らず、彼女と早く二人きりになることばかりを考えている。なぜなら彼は… 結末に向けてもう少し加速度的なスリルがあるとよかった。

エリザベス・テイラー「蠅取り紙」

祖母の命令で渋々ピアノのレッスンに通う11歳のシルヴィア。バスの中で見知らぬ男からしつこく話し掛けられて困っていたところを中年の女性によって助けられるが… 静かでのんびりとした風景描写につられてボーッと読んでいたらサイコな結末が待っていた。怖。

ジェイムズ・ホールディング「世界に一つ」

切手仲買人カーマイケルは男性客クラドックが持ち込んだ複数の古切手の中に、世界でたった一枚しかないと言われる英領ギアナのーセント切手を見つけて驚愕する。遊び心があって軽妙だが王道。もっと毒気ある結末だったら忘れられない一編になったかも。

E・J・ワグナー「シェフのおすすめ」

週刊誌の料理欄を参考に来客用ディナーを必死で用意するルースの頬には前日に夫から殴られた際の痣ができていた。レシピ通りに作った料理がなぜか失敗して夫からまたも激しく罵られたルースは… 夫が払わされた長年の抑圧のツケとは。おぉ、怖い!

ジーン・L・バッカス「ラスト・ランデブー」

海辺の食堂で老女から相席を申し込まれた主人公の女性。一度は承知したもののやはり一人にしてほしいと伝える。なぜなら彼女には静かに浸りたい思い出があり… ミステリに属するかどうかは疑問だが、出会えてよかったと思える深い味わいに満ちたお話。

パトリシア・J・サーモンド「ガス・ステーション」

夜勤を終えて車で自宅へ戻る看護婦 (本文ママ) は、近頃周辺で多発している連続暴行事件を思い出していつになく緊張しながらハンドルを握るが、途中でガソリンが残り少ないことに気付き… 主人公とともに感情のジェットコースターに身を任せる。5ページ程度の文章にショートショートの面白さを手際よく全部詰め込んだ、非常によくできた作品だと思いました。

アル・ナスバウム「ヒーロー」

エンジンが落下した際に尾翼を損傷して操縦不能となった旅客機が湖に緊急着水する事故が発生する。大きく二つに折れて湖底へと沈みゆく機体から何人もの人を救った勇気ある男性の正体とは。その彼が未来に向けて残した明るい一筋の光とは。静かに心に染み渡る一編。

ピーター・ラヴゼイ「死者の託宣」

ギリシアで新婚旅行中のヘレンは夫が街で見つけたクリケット場で仕方なく試合を見物することになって退屈の極み。そこへ御者が名所「死者の託宣所」へ行ってみてはどうかと進言し… 現実と幻想が交錯した後に訪れるまさかの結末。ラヴゼイの引き出しの多さ。

ロレイン・コリンズ「飢えた幽霊」

シンガポール駐在中の掘削技師ハーヴィーは、何やら曰く付きの高級アパートの一室を格安で借りられるらしいと友人から聞いた話に飛びついたが… 悪どい不動産屋に酷い目に遭わされるハーヴィーがさすがに気の毒。ただで済むと思うな!と彼の代わりに言いたい。

ヒラリー・ウォー「お訊きしたいこと」

金物店を経営するマイクの妻メアリは深夜の事務所で共同経営者ジェイクの撲殺死体を発見。そこへ偶然にも現れた夫から「二人で一緒に死体を見つけたと証言しろ」と言われ、メアリは彼に対する疑念を強めてゆく… ドメスティック・ミステリーはやはり好物。

ロバート・バーナード「消した女」

恋人との付き合いが面倒になってくると、彼が元恋人をどのように「消した」かを聞かせて首尾よく女を追い払う主人公マイルズ。読者が英文学や詩に詳しい場合、マイルズの特技の元ネタがすぐにわかってしまう。そんな相手でも唸らせる何かが一つあればよかった。

ジャック・リッチー「バード・ウォッチャー

森の中で野鳥の巣を観察をしていた主人公の前に、死体を肩に担いだ男が茂みの中から突然現れる。男はいずれ大統領の座を手に入れるだろうと噂されている有力者で… 権力を持つ人間と彼の弱みを握った平凡な人間との息詰まる駆け引き。その結末とは。ジャック・リッチーの作品には、彼が持つ「人間愛」「隣人愛」みたいなものが漂っている気がする。どことなくあったかい雰囲気があって好き。

フリップ・ジャレット「賭け」

とある街のバーに一人の見慣れない男が現れる。地元の若い常連客を相手に賭けダーツに興じ、負けた若者に「おれがここにいることをクレーマーという男に伝えてくれ」と頼む。過去の因縁に区切りをつける時が来たとお互いに悟った二人の男を描く、渋みのある一編。

シャリン・マックラム「醜い花嫁」

死刑執行間近な囚人ケニーとしばらく文通した後に結婚したヴァーニーは刑罰制度の是非を問う演説や講演などで世間の注目を浴びて時の人に。ケニーの死後は回顧録などで一儲けするつもりのヴァーニーだったが… ある人物の活躍によって彼女の強欲に鉄槌が下る。

マイケル・タルボット「アビンドン広場の外れ」

過去の汚点をネタに他人を強請って金儲けをするエイドリアンの元に「不可思議商会」と刷られた謎の名刺が届く。好奇心に負けた彼が店を訪ねると、そこには過去が覗ける鏡や本などがあり… 店に導かれた理由に気付かなかったエイドリアンの末路は。いわゆる「奇妙な味」が好きな人は「不可思議商会」の字面だけで胸躍ってしまうかも。ロアルド・ダールやロバート・ブロックあたりの作家をチラチラと脳裏に浮かべつつ読み進め、彼らだったらどんな落とし前をつけただろうか… などと妄想を楽しんだ。私にとってはもう少し毒のある終わり方が理想的。

フランシス・M・ネヴィンズ Jr「ワイオミング心中」

ヴェガ上院議員とカルボーネ一族による金銭授受の現場を隠し撮りしたビデオをめぐって、男女二人が繰り広げる騙し合い。原題 Counterplot から想像できるとおり、作者によるプロットこねくり回しゲームを素直に楽しめるかどうかがポイント。

キャサリン・パトリック「千慮の一失」

女好きで酒浸りの夫に嫌悪を募らせる妻が息抜きに出かけたバーで旧友マーガレットと偶然再会。浮かない彼女に何があったのか尋ねると、つい最近男に捨てられたところだと言う。詳しい話を聞くうちにその男の正体が… 悲劇をケロッと書いたタッチが面白い。

ポーラ・ゴズリング「買い物は土曜日に」

ティムはバーゲンでごった返す百貨店などで店員を装い客から預かったクレジットカードを盗むのを得意な手口とする泥棒。そのカードを一日だけ使って足がつかないように買い物をするのが楽しみなのだが… 上手く立ち回っているつもりでも結局は犯罪者。

アンドリュー・ヴァクス「アリバイ」

四年の歳月と数万ドルもの大金を費やして主人公がようやくたどり着いた謎のポーカークラブへの入口。一度訪れるごとに五万ドルも支払う必要のあるクラブが存在する本当の理由とは。最後まで読んでもスッキリしない部分が残った。ハードボイルドの香りも苦手。

ドロシー・A・コリンズ「レシピー控え帖」

父親から全財産を受け継いだ双子の姉ナタリーを毛嫌いするセアラは、ある日ナタリーが家に連れてきた三流舞台俳優ジェラルドと恋仲に。遺産を相続したのは自分の方だと偽って結婚話を押し進めるが… 姉への恨みをひたすら募らせる妹の毒舌に思わず失笑。

ビル・プロンジーニ「現行犯」

既読につきツイート省略。

T・M・アダムズ「犯罪者誕生」

金遣いの荒い妻のせいで慢性的な家計の逼迫に悩まされるジョージは、近所の歯医者で見かけた犯罪雑誌で脱獄囚として紹介されている男が経理課の同僚エドだと気付き、彼から口止め料を受け取り始めるが… ミイラ取りが何とやらの典型例で、新鮮味に乏しいのが残念。

T・M・アダムズ「切り札」

トランプの手品が得意なチャックは、友人マークの前でトランプを広げて、どれでも好きなものを一枚選ぶように言い… 一万ドルもの金を賭けようと突然言い出したチャックの真意とは。マークの義娘の口の利き方に終始イライラさせられたことが一番印象に残ってしまった。50もの短編を収録したアンソロジーで、なぜよりによって同じ作家の作品を二つ続けて載せねばならなかったのだろう?という疑問も。

ジャック・リッチー「ダイヤルAを回せ」

健康問題を抱えた裕福な老人がホットラインに何度か相談の電話をした後に銃で頭を撃って自殺したが、ターンバックル刑事は自殺説を初めから疑っており… 推理を披露する機会を逸して愚痴るターンバックルと彼を慰める相棒ラルフの距離感が最高。大好き。

アン・ベイヤー「血縁」

キャプション・ライターのルイーズは、作家として大成功を収めた妹コーラの話題から距離を置くためにクルーズ船の旅を楽しむことにしたが、よりによって同じ船で妹が朗読会を行うことを知り… ルイーズのアイデンティティが大きく揺らぐ場面が読みどころ。奇妙な味。

ジェイムズ・M・ホールディング「信用ゆえに」

印刷関係の仕事で一儲けしたボビーは妻マーゴとともにクレジットカード中毒となるが事業の売却によって何とか持ち直す。その後は某クレジット会社の巡回代理人として働き、再び金回りのよい生活を送り始めたのだが… 知的犯罪のカラクリが興味深い。少し前に読んだ「犯罪者誕生」に似たオチだったため、新鮮味を感じられなかったのが残念。別のアンソロジーで読んでいたらもっと楽しめたように思う。

ロズ・アヴレット「骨董品が多すぎる」

自宅アパートの玄関ホールに張り巡らされた鏡を覗くたびに何となく気味の悪さを感じるインテリア・デコレーターのマイアラは、夫が出張で不在にする間に無断で改装工事を行うことにしたのだが… 夫の職業上の特技が重要な伏線となってオチを盛り上げる。

コーネル・ウールリッチソーダ・ファウンテン」

若者特有の瑞々しさでいっぱいの超短編。その短さゆえに若干忙しい展開だけど、18歳の主人公にフィットするテンポのよさがむしろ心地よい。コミカルなオチには思わず声出して笑った。女性がろくな描かれ方をしていないのはウールリッチの仕様。やむなし。

英米超短編ミステリー50選 (光文社文庫)

英米超短編ミステリー50選 (光文社文庫)

 

 

アイザック・アシモフ他編『ビッグ・アップル・ミステリー マンハッタン12の事件』

(読了日:2018年8月28日)

ジェイムズ・ヤッフェ「春爛漫のママ」

甥夫婦に脛を齧られながら暮らす裕福な伯母マーガレットは友人がいない孤独を紛らわせようとして新聞に友人募集の広告を出す。農園主キースと文通で親しくなり、ついに彼がニューヨークへやってくることになったが… 刑事の息子を持つ母が安楽椅子探偵。裕福で自分を頼ってくれる親戚があっても孤独感を拭うことはできなかった老婦人を巡る、あまりにも切ない真実。実地調査と科学的根拠に乏しい点から安楽椅子探偵ものはあまり好みではない上、その探偵が (たしかに賢くて気高くはあるけれども) 一風変わった中年女性ということで、ほぼ消化読書でした。

スチュアート・パーマー「緑の氷」

元小学校教員のヒルデガードが活躍する短編。宝石店のショーウィンドウからダイヤを盗んだ男によって老巡査が射殺された。有力な証言を得られない警察は包囲網を張って犯人が再び現れるのを待つが… おばさん探偵の好奇心と行動力は警察をも凌ぐとは恐るべし。(探偵が男性じゃないとどうしても興味が薄れてしまうのはなぜなんだろう… しかも助手もまた男性じゃないと気分が盛り上がらないのはなぜなんだろう…)

ヒュー・ペンティコースト「ジェリコとアトリエの殺人」

ある実業家の息子ポールが肖像画を描いてもらう目的で画家シェリダンのアトリエを訪れていたところへ何者かが侵入して二人を射殺する。かつてポールの父がマフィアの息子を死に追いやったことに対する報復なのでは?と世間で騒がれ始め… 私立探偵ジョン・ジェリコのシリーズからの一篇。ある人物が登場した瞬間からそこらじゅうに犯人臭が漂う。あまりにバレバレだから何か裏があるのかと思いきや何もなし。殺人の動機も薄っぺらで自己中心的。謎を読み解く楽しさが感じられなかった。このアンソロジー、ひょっとしてハズレかもしれない。

クレイトン・ロースン「あの世から」

霊媒師リスとともに書斎で幻視実験をしていた医師ドレイクがナイフで刺し殺される。事件発覚時リスは頭を強く殴られて昏倒中、部屋の窓も扉も内側から紙テープで封じられており、凶器も見当たらない… 密室殺人の謎を魔術師A・マーリニが見事に解き明かす。創元推理文庫『魔術ミステリ傑作選』にも収録されている一篇。ミステリに魔術を持ち出したら何でもありになってしまうんじゃないの…?という気持ちが根っこにあるせいか、どうも斜に構えて読んでしまうのがいけないと思いつつ、やはり苦手な魔術師マーリ二もの。一部たどたどしい翻訳が気になった。

フランセス & リチャード・ロックリッジ「殺人の"かたち"」

高校時代の同級生が久しぶりに集うパーティーで次々と思い出話を口にしていた主賓ハートリー。お酒は飲めないにもかかわらず途中から酔ったような顔つきになって階段から転落、首の骨を折って即死。NY市警のウェイガンドが事件に挑む。パーティー参加者 7 人の名前が何ページ読み進んでも頭に入らなくて難儀した。驚異的な記憶力を持つハートリー以外の人物描写が乏しくて見分けがつかず、犯人が明かされる場面まで進んでも全くピンとこなかった。頭の働きが頗る鈍い日に読んでしまったのかもしれないけど、今さら再読しても仕方ない。

エラリー・クイーン「一ペニー黒切手の冒険」

ヴィクトリア女王の署名が入った高価な黒切手が古切手商の店から一枚盗まれた。その犯人と特徴を同じくする男が書店から『混迷のヨーロッパ』という本を買い占めた上、その本の持ち主の家にまで次々と押し入るという不思議な事件を担当するエラリー。ある点において犯人の手口が一般的な強盗とは異なっていることに気付いたエラリーの勝利。彼の才能に一目置きつつも少し煙たがっているヴェリー部長刑事とのコミカルなやりとりが謎解きの面白さに色を添える。父クイーンの名前を知って個人的に興奮。祝・クイーン作品で初めて犯人当てに成功しました。

R・L・スティーヴンズ (エドワード・D・ホック)「世紀の犯罪」

50万ドル相当の積荷を貨物船から盗むことで歴史に名を残したいと願うラガーは、友人アンディの助けを借りてボートなどの手配を済ませ、貨物船の到着を待つばかりだったが、恋人エディスからアンディに関する嫌な話を聞いてしまい… このオチはないでしょう… というのが率直な感想。いろんな意味でひどい。積荷の中身がラストで明かされ、たしかに成功していたら当時の米国は大変な騒ぎになっただろうな… と想像してみると、少し気分がよくなる。かも。

レックス・スタウト「殺人は笑いごとじゃない」

有名デザイナーである弟アレックの前に突然現れて会社経営にまで口を挟むようになった女性ヴォスが目障りで仕方のない姉フローラは私立探偵ネロ・ウルフに彼女の身辺調査を依頼。ところがウルフと電話中だったヴォスを何者かが襲って殺してしまい… 今回はウルフの美食家もしくは蘭愛好家としての側面を描いた場面が少なく、助手アーチーとのツンデレな掛け合いも控えめ。その辺りを何よりも楽しみにしている読者にとっては満足度が低いかもしれない。自分で◯◯◯を調べるウルフや彼の真意を理解し損なって微妙に凹むアーチーが見られるのはよい。

Q・パトリック「一場の殺人」

殺人課トラント警部補の自宅に届いた謎の手紙には、マーナからジョージに宛てた「明日五時に。万一の場合には拳銃の使用も辞さない」との警告が書かれていた。アパートを訪ねたトラントをマーナの義妹が招き入れる。すると誰もいないはずの寝室から物音が聞こえて… 犯人のしたたかさが感じられる計画殺人をトラント警部補が10分足らずで飄々と解決してしまう軽めな味わいの短篇。トラントの温厚な性格と柔らかな物腰が関係者の警戒を解いていく辺りは読んでいて清々しい。ところどころトラントが女性好きであることをサラッと匂わす部分もよい。他の作品が気になる。

コーネル・ウールリッチ「地下鉄の怪盗」

盗んだ大金を入れたスーツケースを持ったまま警察の捜査網を器用に潜り抜けて逃亡を続ける〈怪盗〉の様子を大々的に報じる新聞を読んだ地下鉄の車掌ディレニーは担当車内の不自然な場所に置かれたスーツケースを発見。目を離さないように注意していたが… 警察と接触できるタイミングを待っていられないと判断したディレニーが果敢にも〈怪盗〉との直接対決に挑む。終盤は思わず息を飲む活劇が展開。アクション映画の一部を覗いているかのよう。前半で地下鉄車掌の仕事ぶりが妙に細かく書かれている点以外、ウールリッチらしさはあまり感じられない異色作。

エドワード・D・ホック「スペード4の盗難」

NYに出かけた怪盗ニックは信用詐欺で稼ぐ友人ロンと偶然の再会を果たし「二軒の住宅にあるトランプ全てからスペードの4を抜きとってくれないか」との相談を持ちかけられる。準備不足が気になりつつも高額の報酬に釣られて盗みを引き受けたニックだが… 以前から気になっていた怪盗ニックを初体験。完全無欠で荒っぽいところのある人物像を思い描いていたけど、実際には情に流されたり最後の詰めが甘かったりと人間くさいところがあって、逆に魅力的に思えた。「値打ちのないものしか盗まない」をモットーにする怪盗ニック。今とても気になる存在です。

アイザック・アシモフ「よきサマリアびと」

女人禁制の黒後家蜘蛛の会に例外として認められた未亡人バーバラをゲストに迎えて相談に乗る会員 6 名と給仕ヘンリー。宗教や歴史が絡んでくるとどうしても腹落ちの度合いが減ってしまい、今回も「ふーん (???)」という感じで終わってしまった。 

 

エラリー・クイーン編『新世界傑作推理12選』

(読了日:2018年8月9日)

P・Gウッドハウス「エクセルシオー荘の悲劇」

引退した船乗りたちが暮らす下宿屋の一室でガナー元船長が毒殺された。コブラの毒による過失死とされたが、他殺だと確信する女主人ピケットは探偵スナイダーに相談する。生意気な助手オークスの良い薬になればと思い、この難事件の捜査を命じるが… 自信過剰な助手の鼻っ柱を折ってやりたくて仕方のない探偵スナイダーのお茶目な上司ぶりがおかしくて何度もクスクス笑ってしまった。男二人の掛け合いが醸し出すユーモアとしっかりした謎解きが楽しめる短篇に大満足。彼らのコンビぶりが気に入ってシリーズものかどうかすぐに調べたけれど単発と判明。

エドワード・D・ホック「三人レオポルド」

ボスを殺して麻薬取引の独占を狙うハザードを逮捕すべく、彼が滞在中のヘルス・クラブへ潜伏捜査に向かうレオポルド警部。彼の到着を事前に把握していたハザードの前に現れたのは背格好のよく似た三人の中年男性で… 読者は殺人犯とともに警部探しをしながら、誰に化けているかわからない警部が遊び心を交えながらじわじわと (しかし確実に) 犯人に肉薄していく気配も味わうという、二つの視点が楽しい短編。必要ならば躊躇なく細かいルールを無視する行動力を備えたレオポルド警部がほどよく男くさくてカッコいい。既読レオポルドものでは一番好き。

ルース・レンデル「生まれついての犠牲者」

「運命の皮肉」として既読につき読了ツイート省略。

ヘンリー・スレッサー「世界一親切な男」

ボートから転落した妻ネッティを見殺しにした四人の男を許すことにしたコーヴィは、私立探偵を雇って男たちの趣味や性格を念入りに調べ、一人一人にふさわしい内容の親切を人知れず施していく。ヒッチコックに愛された短編名手による粋でブラックな一篇。スタイリッシュさとブラックさをここまで絶妙なバランスで両立させられる作家はわたしにとっては今のところスレッサーくらいなのですが、似たような作風でパッと思い浮かぶ (できれば短編が得意な) 作家の名前がもしあったら、ぜひお聞きしたいです。

ハロルド・Q・マスア「受難のメス」

不正医療裁判で敗れ、手術費全額返金の判決を受けた医師ウェーバー。さらに運の悪いことに、麻薬中毒の若者二人組に自宅を襲われ、妻の宝石や薬品などを盗まれるが、そこに七万ドルもの大金が混ざっていたことが後に判明し、事件は意外な方向へと進んでいく。主人公ジョーダン (ウェーバー医師の弁護士) の脳内で組み立てられた理論を最後に一気に明らかにして事件が解決されるタイプの作品。具体的/科学的な捜査を伴わないために結末が唐突な印象。前半の不正医療裁判に関する部分はもう少し短くてもよかったかも。原題 Trial and Terror のひねりがよい。

ジョイス・ポーター「臭い名推理」

女好きで知られるデザイナーが自宅に友人らを招いてパーティーを開いた後で射殺された。同居人である叔母グラットの証言から、犯人は車を運転できる友人 6 人に絞られた。さらにドーヴァー警部はデザイナー宅のトイレからある物がなくなっていることに気付き…「史上最低の探偵」とも呼ばれるドーヴァー警部もの。被害者の叔母が証言している最中に鼾をかいて寝るなど、惜しげもなく最低ぶりを見せてくれる警部に失笑。面倒くさいことはすべて部長刑事マグレガーに押し付けるところも相変わらず。その上、見目麗しくも何ともないときているのに憎めないんだな。ドーヴァー警部の何がいいって、被害者や容疑者の名前を覚える気が全くないところ。本当はチェシャーなのにシュロプシャーとかウィルトシャーとか呼んだりして。身なりはだらしないし太っているし食べ方は汚いしどうしようもないおじさんなのにどこか憎めないんですよね。

パトリシア・マガー「完璧なアリバイ」

仕事で知り合った若い女性に恋をしたフランクは、遠い昔に愛想が尽きた妻や気の強い愛人との関係に終止符を打とうとする。昨今話題の強盗殺人魔の犯行に見せかけて妻を殺すようプロに依頼し、犯行当夜の自分に完璧なアリバイを作り上げたフランクだったが…考えに考え抜いてからでないと何の行動にも出ない性格のフランクが意外にも追い込まれてしまった厳しい状況とは。罪を逃れるために用意した完璧なアリバイがまさかこんな風に効いてくるなんて… と読後しばらくボーッとしてしまった。レベルの高いひねりを楽しむ一篇。

ビル・プロンジーニ「朝飯前の仕事」

ロスの超豪邸に住む依頼人から頼まれたのは、娘の披露宴で高価な贈り物の数々が盗難に遭わないよう部屋を数時間だけ見張るという単純極まりない仕事だったが… パルプ・マガジン収集を何よりの趣味とする「名無しの探偵」が活躍する人気シリーズからの一篇。犯人が使ったトリックは「なぁんだ」と「それは気付かないわ」の組み合わせ。いまいち腑に落ちる感じがないけれど、主人公が現場に持っていった『ダブル・ディテクティヴ』にコーネル・ウールリッチ の小説が載っていたという描写だけで十分に興奮できたので、これはこれでよしとします (上から目線)。

ドナルド・オルスン「汝の隣人の夫」

夫が仕事の都合で月の半分近く家を空ける生活を持て余しているセシルは、隣家に越してきた既婚男性フィリップを相手にしたロマンチックな妄想を、退屈しのぎにと夫から贈られた日記帳に認め始めるが、ある日それを夫に知られてしまい… 最後の一言にゾクッ。妻の密かな楽しみが夫婦関係を揺るがしていく過程でどんどん高まる緊迫感の描き方が上手いし、まさかの真実を最後の最後に「そんな…!」という形で明かすまでの焦らしもまた効果的。手帳や日記を書くことが大好きなわたしにとっては非常に怖い、一風変わったドメスティック・サスペンスでした。

ピーター・ラヴゼイ「レドンホール街の怪」

タバコ屋を営むブレイドが二階を間貸ししている切手商メシナーは、前入居者が退去するまで一年近くも忍耐強く待ち続けて入居したわりには滅多に部屋を使っていない様子。ある日、ジェント警部がメシナーの部屋を調べたいとブレイドを訪ねてきたのだが…タイトルから何となく不気味なゴシック系の話を想像していたら大違い。どことなくほんわかしつつも英国人作家らしい皮肉もピリッと利いた小洒落た短編。ラヴゼイは「次期店長」(「肉屋」) を読んだ時に気になった作家。読まなきゃ損という話をちょくちょく読む/聞くので、短編集を買ってみます。

夏樹静子「足の裏」

都合により読了ツイート省略。

松本清張「証言」

都合により読了ツイート省略。 

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

 

エラリー・クイーン編『世界傑作推理12選 & One 』

(読了日:2018年7月31日)

エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー「「魚捕り猫」亭の殺人」

妻マーゴを亡くして以来、自ら経営するレストランの賑わいまで失ってしまったジャン・ピエール。そんな淋しい彼の心の友は、店の水槽で長らく飼ってきた鰻のフィリップだけだったが、ある日ついに鰻料理を注文する紳士が現れて… アメリカを代表する詩人である作者が書いただけあって、主人公の心情や行動が緻密に描かれており、抒情的な文章も多い。ミステリを読んでいることを忘れそうなほど柔らかな雰囲気が漂う。のんびりとした展開の後、友人である鰻を捌く必要に迫られたことで急に主人公の思考が乱れ始めるところが見もの。読了ツイートを書くうちに面白みが倍加したように感じる作品がたまにあるのですが、今回の鰻の話がまさにそれでした。

リチャード・コンル「世にも危険なゲーム」

熟練した船長も恐れて多くを語りたがらない不吉な島の近くを航行中に銃声を耳にして驚きのあまり海に転落した冒険家レインズフォードは大きな建物の聳える謎の島に漂着する。無言の大男に案内された屋敷でザーロフ将軍なる男から手厚い歓待を受けるが… 島から脱出するには将軍の仕掛けた「ゲーム」に参加せざるを得ない状況に追い込まれたレインズフォードが繰り出すあの手この手を描くサバイバル劇。退屈ではないものの、どこかスピード感に欠けていて、スリルの度合いが低いのが難点。ラストの意味するところもよくわからなかった。

アガサ・クリスティ「うぐいす荘」

「夜鶯荘」として既読につき、読了ツイート省略 (ブログ記事なし)

トマス・バーク「オッターモール氏の手」

既読につき、読了ツイート省略 (ブログ記事なし)

ヒュー・ウォルポール「銀の仮面」

既読につき、読了ツイート省略 (ブログ記事なし)

ドロシー・L・セイヤーズ「疑惑」

既読につき、読了ツイート省略 (ブログ記事なし)

ベン・ヘクト「情熱なき犯罪」

弁護士ヘンドリックスは半年間付き合った踊り子ブラウニーに別れ話をした際、逆上して暴れた彼女を真鍮の燭台で殴り殺してしまった。彼は弁護士としての知識と経験を生かしてアリバイ作りに奔走するが… 主人公の内面の声がくどくどしくて途中で飽きてしまった。

ウィルバー・D・スティール「人殺しの青」

人を殺したとの噂がある馬を格安で購入して農場に戻ってきた長兄ジムが、その夜早速その馬に襲われて命を落とす。山へ逃げ込んだ馬を次兄フランクが仲間とともに追いかけるが… なぜ推理小説として扱われているのか理解できない作品だった。消化読書。

スタンリー・エリン「特別料理」

既読につき、読了ツイート省略 (ブログ記事なし)

シャーロット・アームストロング「敵」

愛犬ボーンズを毒殺したのは近所に住むマトリン氏だと信じ込み、憎しみの気持ちだけでいっぱいになってしまっている少年フレディとその友人たち。彼らが成長するには事件の真相を自分たちの目で確かめるべきと感じたラッセル弁護士が考えた捜査方法とは…?最初から最後までラッセルの職業について一言も言及されず、ずっと「この人は一体何なの?」とモヤモヤさせられた。彼がアームストロング作品によく出てくる弁護士だと全く知らなかったので。終始物腰が柔らかいのはいいけれど、たまたま現場近くに居合わせただけにしてはあれこれと仕切りすぎな印象。

ジョー・ゴアーズ「ダール アイ ラブ ユ」

国防総省テレックス・オペレーターとして働くチャーリーは毎日遅くまで残業してタイプの練習に打ち込む真面目な職員だったが、ある夜「コドクナ チャーリー ワイアス」という謎のテレックスを受信した瞬間から彼の人生が大きく動き始め… 何と切ない!テレックスだけでしか交流できない相手にどんどん惹かれていき、いつの間にか心も行動も支配されてしまう孤独なチャーリーが切ない。彼の将来に幸あれ… と応援しながら読んでいたら、最後にガツンとショックを受けるはめに。顔を知らない相手との SNS に慣れ親しんだ世代の人たちに読んでもらいたい。このアンソロジーで一番興奮した一篇になる予感。

ロバート・ブロック「ごらん、あの走りっぷりを」

番組降板をきっかけにアル中になってしまった放送作家ノーマンは精神科医モスに勧められて日記を書き始める。催眠療法などを経て自らの暗い過去の記憶が甦ってくるが… 主人公の内面の崩壊がもっと日記の文面に顕著に表れると怖さが増したかも。日記形式の短篇といえばバーバラ・オウエンズ「軒の下の雲」が強烈。それと比べると、今回のブロックの作品の怖さは 1/10 くらいかな。どうせならもっと「ヒィィィ!」となるくだりがほしかった。

エラリー・クイーン「三人の未亡人」

ピネロピとライアラの未亡人姉妹は裕福な父のもとでのびのびと暮らしていたが、父が後妻を迎えてからは彼女との諍いが絶えない日々を送ることに。父の死後、後妻に毒が盛られる事件が発生し… 謎解きクイズ付き。編者の貫禄でアンソロジーを締めくくった。本格推理小説を書くのに長さは全く問題にならないことを見事に示したショートショート。ギュウギュウと要素を詰め込んだ窮屈な印象はまるでないのに中身が濃くて満足度も高い。生焼け肉にかぶりついている最中に犯人を思い付いて大興奮するエラリーが微笑ましい。

世界傑作推理12選&one (1977年) (カッパ・ノベルス)

世界傑作推理12選&one (1977年) (カッパ・ノベルス)

 

エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション 2』

(読了日:2018年6月3日)

バーバラ・オウエンズ「軒の下の雲」

既読につき、読了ツイート省略。

トマス・ウォルシュ「いけにえの山羊」

ホテルのエレベーターで出会い、ほどなくのっぴきならに間柄となった男と女。彼らには障害となる一人の男の存在が。二人は男を殺す計画を練ると同時に、罪をかぶせるのにぴったりな相手を見つけ出し… 色恋に溺れて身勝手の限りを尽くす男女を待つ結末は。「いけにえ」にされた少年をいたぶる二人の男の言動がただただ不愉快だが、捜査が進むにつれて新たな人物による救いがあるから読んでいられる。出だしは都会派ロマンスの雰囲気が満点で、次に何が起きようとしているのかすごくワクワクさせられた。ちょっとだけウールリッチの短篇が恋しくなった。

ジョイス・ポーター「ドーヴァー、カレッジへ行く」

翌日から始まる市民公開講座に備えてカレッジで寝食した受講者のうち、州会議員アンドリュウズが浴室で絞殺体となって発見された。ドーヴァー警部が捜査を進めると、関係者全員がそれぞれ違った事情から議員に恨みを覚えていることがわかり…「史上最低の探偵役」とも言われるドーヴァー主任警部のクセがすごい。不愉快を通り越して一挙手一投足に笑いを禁じ得ない。彼から顎で使われる優秀な若手の部長刑事マグレガーが事件の解決にも小説の清涼化にも大貢献。毒気のあるユーモアでいっぱいの本格推理小説。この面白さは病みつきになりそう。いやはや。これは本当に面白かった。読書ノートに感想を書くにつれてジワジワと可笑しみが増してくる不思議な作品でした。

キャスリーン ・ゴッドリーブ「夢の家」

妻に先立たれて以来、狭い賃貸アパートで侘しい毎日を送っていた主人公 (警官) は知人の農場主が所有する土地の一部を購入して家を建てることにした。以前は暴力夫に悩まされていた美女との再婚がめでたく決まり、早速彼女に土地を見せる主人公だったが…作者が残した他の作品をすぐに調べずにはいられないほど魅せられてしまった。登場人物それぞれが持つ味わいと作品全体の雰囲気が物語の切なさを際立たせる。結末はわりと早い段階から想像がつくものの、それにどう主人公が対峙していくのか、最後の一行まで緊張感が途切れることはない。しびれる名作。

ブライアン・ガーフィールド「貝殻ゲーム」

石油産出国蔵相会議が開かれる都市へやってきた主人公チャーリーに与えられた任務は、二人の大臣の命を狙う一匹狼の殺し屋グリゴリアスの仕事を阻止すること。過去の因縁から自分がまず狙われてもおかしくないという緊張感の中で繰り広げられる心理戦。主人公のでっぷりした体型が災いしたのか、スパイ vs 殺し屋という構図にしてはどこかスリルと躍動感に乏しく、全体的にモッサリとした印象が否めないものの、大臣が今この瞬間に殺されるかもしれないという危機が秒刻みで迫る中、チャーリーがどう動くかの意思決定を下すまでの臨場感には息を飲んだ。もう少しシャープな面白さがあればよかった。ちょっぴり残念。

E・X・フェラーズ「忘れられた殺人」

未解決の殺人事件に関する記事を書くよう新聞社の依頼を受けた作家ハッスルは、事件の起きた街を訪れて情報収集にあたる。パブで知り合った男クラップはなぜか事件に詳しく、殺されたアーミジャーと近隣住民リドルとの間に何度も諍いがあったことがわかるが…このオチはどうしても受け入れられない… 最後まで真面目に読んだわたしはどうなるの?と思わずツッコみたくなった。特に面白い謎解きがあるわけでもない微妙な仕上がり。なぜこれがコレクションに入ったのかがわからない。モヤモヤ読後感。

スティーヴン・ワズリック「クロウテン・コーナーズ連続殺人」

平和な街のスーパーや雑貨店で次々と店主が殺される事件が発生。保安官ティントが検死官の助けを借りながら捜査を進める中で4人目の犠牲者が。ティントから容疑者の特徴を聞いた通報者ハッケンスタック夫人はなぜか顔面蒼白になり…「どのページからも笑いをさそわれる」とクイーンが解説するだけあって確かによく笑った。登場人物にではなく殺人事件の構造自体に強烈なユーモアあり。ここまで完全に殺意なく殺人を誘発するハメになった人間が他にいるだろうか。彼が飄々と保安官に事情を述べる場面にはクスクス笑いを堪えられない。

ハロルド・Q・マスア「思いがけぬ結末」

妻に離婚裁判を起こされた作家ジョージは同業者の愛人リリー宅で生活するが、しばらくして近くの川で溺死体となって発見。担当弁護士スコットがジョージの身辺を調べるうち、ある人物の存在が浮かび上がり… 登場人物も展開も地味な印象。思いがける結末。

アン・マッケンジー「さよならをいわなくちゃ」

さよならを告げた相手は悉く命を落としてしまうという不思議な少女カレンが主人公。彼女の目線と言葉で綴られている超短編。クイーンが「恐怖の戦慄」と絶賛したようだけど、何がそんなに恐怖なのかよくわからないままに終わってしまって、あらら。

エドワード・D・ホック「スパイとローマの猫」

元秘密伝達局長ランドは友人でもある英情報部ヘイスティングズから呼び出され、過去の任務から因縁が生じたネルソン大佐の不穏な動きを牽制するためローマへ飛ぶよう頼まれる。早速大佐宅を訪れるが、出てきたのは召使と思われる老人と複数の猫で…人生で一度でもスパイを経験した人間は常にこういった因縁や疑心に晒され続けるのだろうと思わされる内容。ピリピリした緊迫感よりもランドの内面の揺らぎの描写に焦点が当てられていて、全体的に落ち着いた雰囲気。猫の存在の利かせ方が小粋で気に入った分、締めの台詞でトーンが緩んだ点だけが残念。

アーネスト・サヴェージ「巻きぞえはごめん」

元警官で私立探偵のサムは休暇で釣りを楽しむために山地へ出かけ、十年来の友人バッキーが暮らす小屋へ出向いたものの、彼を出迎えたのは見ず知らずの不潔な若い女で… 硬派と人情と正義のバランスが悪くて中途半端なところが引っかかる。消化読書。

リリアン・デ・ラ・トーレ「重婚夫人」

サミュエル・ジョンソン博士 & ボズウェルもの。非の打ちどころがない美女として有名なキングスフォード夫人が甥から重婚罪で訴えられた件を探る内容。これで三篇目だが相変わらず何が面白いのか全くわからず、デ・ラ・トーレが苦手作家の筆頭に。

パトリシア・マガー「壁に書かれた暗号」

米情報局員夫婦のセリーナとヒューはロンドンで二週間の休暇旅行中だったが、米国人テロリストが殺害されたホテルの部屋で発見され未だ解読されていない数字の暗号に関する情報をヒューが支局で入手してきて… 解読キーが何であるかの気付きがポイント。つまり、その見事な気付き以外には特にコレといったポイントがなく、全体的にこじんまりとした仕上がり。セリーナが主人公の短篇はいくつか読んだけれど、毎回「もう一捻りあったらな…」という物足りなさが残る。わたしにとってのマガーは強く印象に残るタイプの作家にはならなさそう。

ルース・レンデル「運命の皮肉」

妻ローラが親しくなった相手ブレンダは口を開けば男性遍歴自慢ばかりなのに周囲には男性の気配がまるでないことに気付く主人公。夫婦だけの静かな時間も持てないほど家庭に割り込んでくるブレンダの存在が徐々に疎ましくなった彼は、ある行動を起こす決意をする。女性のまつわるネチネチ・ジメジメ・ドロドロを書かせたら右に出る者はいないだろうと思われるルース・レンデルだが、本作は行動力のある男性が主人公で終始サラッとドライな雰囲気。冒頭の一文で引き込まれないミステリ好きはいないはず。オチのキレも良好。レンデルが苦手な人にもぜひ読んでほしい。

ロバート・トゥーイ「支払い期日が過ぎて」

クイーンが「不条理ミステリ」と紹介していたのでワクワクしながら読み始めたけど… ウーム。ローン返済から逃れようとする男が重ねる、センスのない嘘嘘嘘… 面白いどころか無性に腹が立ってくる。読んだ時間を返してほしいと真剣に思った作品の一つ。

ジャック・リッチー「白銅貨ぐらいの大きさ」

殺人班の刑事ヘンリーと相棒ラルフは、押し込み強盗シャーキーが自宅アパート内で殺された事件を捜査。不透明の薬壜が割られていたことから犯人は小さな物を探していたと思われ、つい最近高価な宝石を盗まれた女性から話を聞くことになったのだが…久しぶりに胸がときめく男性二人組に出会った。ヘンリーとラルフの関係が最高に微笑ましくてよい。ヘンリーの超人的推理力 (でもたまにポンコツ) が何より素敵。ラルフはそんなヘンリーを絶妙な位置から見守ってサポートする姿がカッコいい。ヘンリーの愛ある柔らかめの毒舌を受け流すラルフに萌えた。

パトリシア・ハイスミス「ローマにて」

二人の男による痴漢行為に悩まされ続けている美女イザベラは将来有望な官吏の妻として接待に同席して愛想を振りまくだけの退屈な暮らしにも辟易している。そこで痴漢の一人であるウーゴを利用して大金を手に入れようとするが… ハイスミスにしては毒弱め。登場人物全員がどこか人間味を欠いているため、全編を通して不穏で不愉快な空気が漂う。人間の業や欲の醜さがたどり着く先を知りたくて読み進めるも、文庫で40ページという長さが災いして途中でダレる印象。もう少し締めるところがあってもよかった気がする。歯車の狂った人間関係が後味の悪さを残す。

ジョン・ラッツ「もう一人の走者」

湖畔のコテージで一人静かに暮らすクライドンはランニングが日課。近くに住むマルヘイニーも毎日欠かさず走っているが、彼はいつも何かに追いかけられてでもいるかような不安な表情を浮かべていて… 背後から不気味なものがヒタヒタと迫りくる恐怖感がよい。マルヘイニーに付きまとう不気味でぼんやりした謎の存在と好対照をなすのが、彼から事情を聞いて手助けを申し出たせいで厄介な立場に追い込まれてしまうクライドンが味わうことになるジリジリとした焦り。こちらの描写はリアルで臨場感があり、彼の心臓の音や冷や汗の感触が伝わってくるかのよう。

デイヴィッド・イーリイ「昔にかえれ」

人里離れた山小屋で昔ながらの自給自足の生活を送ることにした若手の職人 7 名の平穏で満ち足りた日々が、ある新聞記者の取材を受け入れたことをきっかけに崩壊の一途を辿る。どこにでも起こりうる社会問題の根源には何があるのか。読者に強く問いかける。

ドナルド・E・ウェストレイク「これが死だ」

既読につき、読了ツイート省略。

ビル・プロンジーニ「現行犯」

自宅から見知らぬ男が出てくるところに鉢合わせしたルーミス。男の持ち物や家の中を調べ回ったが何一つ盗まれてはいなかった。しかし翌朝になってみると… そうきたか!そうか!これこそがショートショートの醍醐味よ!と膝を打ちたくなる見事な一篇。

スタンリイ・エリン「不可解な理由」

「ゆえ知らぬ暴発」として既読につき、読了ツイート省略。