Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

自由の女神事件 (1935)

Story

機嫌が悪い妻との衝突を回避すべく、自由の女神の見物に出かけた刑事デントン。展望台へと続く螺旋階段を上っていく途中、休憩用ベンチで何度も席が隣り合わせになった肥満体の男と軽く世間話をする。像内の見学を終えて下へ降りる際、先ほどの男が忘れていったと思われる帽子を見つけたデントンは、彼の姿を探すのだが…

Aira's View

妻から「休日に考えることは映画とビールだけ」「少しは向上心を持ったらどう」などと小言を食らって、大した反論もできずにすごすごと家を出る形無しのデントンだが、いざ事件の匂いを嗅ぎつけた途端にブルドッグなみのしぶとさで犯人を探し求める刑事に変貌する。その過程でたびたび彼の口から出る自虐的なボヤキが一興。エレベーター担当の "自殺屋ジョニー" や衛兵宿舎の "老いたる雄鶏" といった強烈な個性を放つ人物がデントンの脇を固めており、読み手の笑いを誘う要素も多い。

ユーモアに満ちた軽妙な出来映えの短編であり、執筆当時、軽やかにタイプライターのキーを叩いていた作者の姿が思い浮かぶ。ウールリッチによるニューヨーク観光名所ガイドとしても満喫できる一編である。

Work

原題:Red Liberty / The Corpse in the Statue of Liberty (改題)
訳者:村上 博基
収録:『アイリッシュ短編集6 ニューヨーク・ブルース』創元推理文庫

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