Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

各務三郎編『クイーンの定員 I 傑作短編で読むミステリー史』

(読了日:2017年3月16日)

ヴォルテール「王妃の犬と国王の馬」
エドガー・A・ポー「盗まれた手紙」

さる貴人にとって世間に知られてはまずい内容の手紙をD大臣が堂々と本人の目の前で盗んだ事件。G警視総監が万策尽きてデュパンに手紙の捜索を依頼。ポーが基礎を築いた「探偵小説」なるものをそこそこ読んできたせいか、至極普通の面白みしか感じなかった。これを最初にサラッとやってのけたポーがどれだけ優れた人物だったのかを今さらながら実感することができたのは収穫でした。ドイルがどんなに強くポーの影響を受けたかについても痛いほど伝わってきて、無性にホームズを読みたくなってしまった。

ウィルキー・コリンズ「人を呪わば」

既読の物と訳者が違ったため再読。シャーピンの自信満々なドジっぷりが何度読んでも笑える。これは興味が乱歩全集から海外アンソロジーへ移って一番初めに読んだ思い出の一編。お気に入りとまではいかないけど一生忘れない作品だと思う。

トマス・B・オルドリッチ「舞姫

語り手の下宿の向かいに住む舞踊家が自室で首を切られて死亡する事件が発生。これといった証拠がなく捜索も行き詰まりかと思われた時、保安官のところへ自首しに来た人物があり… えっ!と驚くこと二回。まんまと乗せられてしまった。科学者が安定の奇人ぶり。

マーク・トウェイン「世にも名高きキャラヴェラス郡の跳び蛙」

ある人からの依頼でレオニダス・W・スマイリーなる人物を探すためサイモン・ウィーラーという老人から話を聞こうとするが、老人の口から出てくるのはジム・スマイリーという男の思い出ばかりで… 結局レオニダスはどうなったのよ。

エミール・ガボリオ「バチニョルの小男」

ゴオドユイル医師が向かいの部屋に住む職業不詳の男の正体を知るまでのプチミステリですっかり夢中に。その後はポーの流れを汲んだ本格的な探偵小説で何から何まで完璧。医師と例の男のバディぶりがたまらない。70ページ超えで読み応えは十二分。満足。ゴオドユイルとメシネのコンビがシリーズで短編集になっていたら最高なのになぁ。

ロバート・L・スティーヴンスン「クリーム・パイを持った若い男の話」

フロリゼル王子と腹心の部下ジェラルディーン大佐が変装してお忍び外出を。酒場でクリーム・パイを配って回る若い男に興味をそそられて食事を共にすることに。彼が所属する謎のクラブに興味本位で王子らも乗り込んでみたが… 「ジキル博士とハイド」の作者による一編。夢か現かわからなくなるような、でもしっかり勧善懲悪なおとぎ話。フロリゼル王子とジェラルディーン大佐の、身分差がありながらもがっちりと噛み合った真の友情が楽しい。王子は優男風ながらも芯が強い。でも大佐がいないと結局ダメなところが最高に魅力的。

アーサー・モリスン「サミー・スロケットの失踪」

賭けの対象になっている徒歩競争レースを控えて有力選手サミーが忽然と姿を消す。 彼の才能を見込んで今まで面倒を見てきた居酒屋店主ケンティッシュは探偵として有能な友人マーティン・ヒューイットに調査依頼。良くも悪くも失踪ものの王道。モリスンは「ドイルのエピゴーネンの評をけしさることはできなかった」との解説に納得。ヒューイットは平凡さこそが魅力という説もあるようだけど、ユーモアも毒気もないとなるとさすがに地味かな。惚れ惚れするような紳士ぶりや身のこなしを見せてくれるわけでもないので男性キャラとしてもイマイチ。

アーサー・コナン・ドイル赤毛連盟」
メルヴィル・D・ポースト「罪の本体」

ニューヨークで資産家として名を馳せるウォルコットの人生は令嬢との結婚を控えて順風満帆かに見えたが、ある女性から送られてきた一通の手紙によって彼の暗い過去が明らかに。悪徳弁護士ランドルフ・メイスンの辣腕ぶりが光るも後味の悪いことこの上ない。アブナー伯父シリーズの作者がこんなに凄まじい悪徳弁護士ものを7編も書いていたという事実に驚いた。弁護士としての経験を最大限に活用して書き上げたせいか、書き手の自信が漲った作品だった。特に終盤の裁判シーンの論破はすごい。法改正を促すことになった話題作。後味は最悪だけど (まだ言う) 殺害後の行為が細かく描かれる場面は、おそらく現代の推理小説や映画・ドラマに慣れた人にとってもショッキングな残虐さと生々しさで満ちているのではないかと思う。とにかく読み応えはすごいけど後味が悪い (3回目)

グラント・アレン「ダイヤのカフスボタン

スイス随一の高級ホテルで休暇を楽しむヴァンドリフト夫妻の前に英国から来たという若い牧師が現れる。彼のカフスボタンには牧師の身分に不釣り合いなほど豪華なダイヤモンドがキラリと光る。それを見たヴァンドリフト夫妻の目の色が一瞬で変わり… 終盤で登場する某人物が指摘する通り、はたから見れば「どっちもどっち」の争い。決してつまらなくはないけれど、どの人物にも感情移入できないのが難。ダイヤを巡る騒動を遠くから野次馬として眺める距離感。大変そうだけど金持ちの道楽なんだから別にどうってことないでしょ、と若干しらける読後感。そもそも詐欺師というものにあまり興味がないので仕方ない。義賊の類なら別だけど。

M・マクダネル・ボドキン「代理殺人」

バークリー館の主人が自身の猟銃によって後頭部を吹き飛ばされて死亡する事件が発生。第一発見者である甥が前日に伯父と激しい口論をしていたことから容疑者として逮捕されたが… 普段は穏やかな経験型探偵ポール・ベックが鋭く真実を暴く場面は迫力大。あっさりとしながらも過不足のない脚本のような人物・風景描写が肌に合って、これは絶対に好きな話だな… と直感した。即、仕草や台詞を好きな俳優で脳内再生する。こういう興奮を味わえる短編はそう多くない。本作のように探偵による見分を細かく描く作品が大好物。既視感あるトリックは微妙だった。

ニコラス・カーター「ディキンスン夫人の謎」

何度も宝石を盗んでいく美女が取引先の骨董店主ディキンスンの妻とわかっているが、同業者同士の付き合いもあって対応に苦慮している宝石商フェリス。腕利き探偵のニックとともにディキンスンの事務所に乗り込んでみたが… クールな探偵に夢中です♡

E・W・ホーナング「ラッフルズと紫のダイヤ」

南アフリカでダイヤモンドを掘り当てて大金持ちに成り上がったならず者のローゼンタールが常に見せびらかしている二つの巨大ダイヤを五大義賊の一人ラッフルズが狙うが… 相棒バニーがやや面倒で信頼関係が弱い。バディものとはとても言えない。