Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

パパ・ベンジャミン (1935)

Story

彼の曲を知らぬ者はいないと言われるほど有名なジャズ作曲家兼バンドリーダーであるエディ・ブロックが、ある日の明け方、まるで死人のように黒ずんだ不気味な顔をしてニューオーリンズ警察署に現れる。エディのただならぬ様子に戸惑うばかりの警部補たちに向かって、彼は「ついさっき人を殺してきたところだ」と驚きの告白を始め…

Aira's View

同じ年に発表された「コブラの接吻」に通じる強烈な気味の悪さを持ったノワールなホラー作品。ブードゥー教の儀式に使われる曲の力強いリズムにすっかり魅せられたエディは、客入りの不振に悩むバンドに曲を演奏させることで人気を取り戻そうとするが、その代償はあまりにも大きいものだった… 異教の呪いによってじわじわと死に向かって追い詰められていくエディの様子が読み手の恐怖を煽る。後半で登場する肝の据わったフランス人刑事ディジャルダンによってストーリーは活気と痛快さを得るが、その先にはじっとりとしたツイストが待っている。

ディジャルダンの骨太で男くさい雰囲気が気に入ってしまった。もしウールリッチが特定の人物を主人公にしたシリーズを書くのを厭わない作家だったら、彼の活躍をモチーフにした短編をいくつか書いたのではないかな… などという想像を楽しんだ。

原題:Papa Benjamin
訳者:中村 能三
収録:『魔術ミステリ傑作選』創元推理文庫

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