Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ピーター・へイニング編『ディナーで殺人を (上) 』

(読了日:2021年2月24日)

スタンリイ・エリン「特別料理」

既読につきツイート省略 (ブログ内に紹介記事なし)

ルース・レンデル「賄賂と堕落」

女友達と高級レストランに入ったニコラスは、以前、父親を一方的に解雇したソレンセンが娘ほどに歳の離れた情婦と親しげに食事していることに気付く。会計しようと給仕を呼ぶと「お父様から既にお代は頂きました」と言われ… ネチネチが十八番のレンデルにしては簡潔でサバサバした結末。非常に読みやすく、既読のレンデル短篇の中では一番しっくりくる仕上がりだった。彼女の作品苦手で仕方のない人に一度読んでみてもらいたい作品。

ポール・ギャリコ「最高傑作」

繁忙期であるはずの旅行シーズンが悪天候に見舞われ、食材の調達にも苦労するほど金欠のレストラン店主ボンヴァルの前に、多額の謝礼金が出ると書かれた手配書通りの人相をした男が現れて… ハラハラする中盤から一転、ギャリコらしいほっこりした結末を味わえる。

オリヴァー・ラ・ファージ「デュクロ風特別料理」

苦労に苦労を重ねてようやく完成させたホワイトソースの材料を知人に盗み見られてしまった料理人デュクロは、レシピの悪用により自分の名を傷付けられたら困ると考えて知人を刺殺するが… 隅から隅まで美食の国フランスらしい空気が漂う一篇。

L・P・ハートリー「ディナーは三人、それとも四人で」

イタリアを旅する英国人青年ディッキーとフィリップは、食事の約束をした相手ジャコメリのもとへゴンドラで向かう途中、水死体に遭遇して… オチがすぐ読めてしまうことに加え、終始世の中を小馬鹿にし続けるディッキーの態度が興を削ぐ。

ガストン・ルルー「胸像たちの晩餐」

船長ミシェルが片腕をなくした驚くべき理由とは?初ルルー体験である上に「胃弱の人にはおすすめできない」との注釈があったので恐る恐る読んでみたけれど大丈夫だった。作中の出来事はかなりグロテスクなものの、田口さんの訳でどこかサラリとした仕上がり。

デイモン・ラニアン「おい、しゃべらない気か!」

富豪ウィルトンが顔見知りと思われる者の犯行によって自宅で殺害された事件。警察が捜査に行き詰まる中、殺人事件を追うのが趣味の演劇批評家アンブローズは意外な方法で犯人の名を知ろうとする。真犯人が微妙だが、語り手の愉快な口調が楽しい。

パトリシア・ハイスミス「しっぺがえし」

あるパーティーで俳優スティーヴンに一目惚れしたオリヴィアは夫殺しのための細かく画策を続け、ついには事故に見せかけて階段から転落死させることに成功。晴れてスティーヴンと結ばれたオリヴィアだったが… 最後まで気が抜けないドメスティックもの。ずっと迷っていたハイスミスの短編集を買おうと決心したきっかけがコレ。出てくるのは家族のみという閉じられた環境で疑心暗鬼がどんどん悪化していく様子がヒリヒリしてよい。似たようなものを書く作家をもっと読みたい。

P・D・ジェイムズ「いともありふれた殺人」

先代社長の個室に遺された書類を整理する文書係ゲイブリエルは戸棚からポルノのコレクションを発見。誰にも見咎められることなくそれらを楽しもうと、金曜の夜に個室へ通い始めたところ… 全能感に酔いしれる主人公の心の闇の重厚な描写に圧倒される。

オーガスト・ダーレス「イーモラの晩餐」

ボルジア家に反旗を翻すための軍に加わったと噂されるコロンナ公爵を、何も知らないフリをして自宅へ招き食事を振る舞うチェーザレの秘策とは? あまりの呆気なさに唖然としてしまった。チェーザレ・ボルジアものだけに、もう少し怖くあってほしかった。

ロバート・ブロック「修道院の晩餐」

兄の家を訪れようと森を抜ける途中で悪天に見舞われた主人公は大きな修道院で雨宿りをさせてもらうことに。ところが、そこで用意された着替えや食事が異様なほど豪華なこと、そこで暮らす修道士たちが妙に行儀が悪いことに違和感を覚え… 何となく「こうなるんじゃないか」と予想できている読み手の背中も確実にひんやりさせる、スパッとキレのよい結末はブロックの真骨頂。いやはや、人◯ネタは怖いよ。

アルフォンス・ドーデー「三つの読唱ミサ」

降誕祭の豪華な食べ物のことで頭が一杯になり、3回のミサをおざなりに済ませてしまったバラゲール神父の運命やいかに。うーむ… それで…?という読後感しかない消化読書となりました。

アレクサンドル・プーシキン「葬儀屋」

引越を済ませたばかりのポローロフは、隣人で開かれたパーティーで近隣住民たちと交流するが、葬儀屋という職業を揶揄されたことに腹を立て、思わず「新居にあいつらを呼ぶくらいなら死人を呼んだ方がマシだ!」と口走ってしまい… オチの安っぽさが衝撃。

ワシントン・アーヴィング「首吊り島から来た客」

子どもに恵まれてなかった酒屋の主人チュニスが甘やかして育てたために根っからの悪童になった甥のヤンは、謎の同居人プルートーの悪影響を受けて海賊となるが、やたらと口煩い女との結婚によってさらなる不幸に追い込まれ… 面白さがわからず。

リチャード・ディーハン「主婦の鑑」

英国の名家コーブライアン家に嫁いだ米国人リディアは、先代の女主人デボラの幽霊と親しくなり、彼女の夫が亡くなるきっかけとなった「バグダリオ・パイ」の作り方などが書かれた「主婦の鑑」なる本の存在を知り… 怪奇とコメディが混ざった感じの異色作。

ウォルター・ベサントとジェイムズ・ライス「ルークラフト氏の事件」

並外れた食欲を持つ美形役者ルークは旅回りの一座を解雇されて文無しとなる。尋常ならざる空腹感から街中で倒れそうになっていたところ、一人の老紳士に声を掛けられて… 非現実的世界にグッと引き込まれる気持ちよさがよい。