Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ハロルド・Q・マスア編『眠れぬ夜の愉しみ アメリカ探偵作家クラブ傑作選 (3) 』

(読了日:2017年3月31日)

ロバート・ブロック「ジョンとメアリー」

見苦しいほどの肥満妻メアリーに嫌悪感を抱くジョン。妻の親友フランシスと愛人関係になってからは殺意を覚えるほどに。念入りに用意したヒ素入りチョコレートで殺害を試みるが… 途中で結末がわかってしまうベタな話。ユーモアを楽しめればそれでよし。

ドロシー・S・デイヴィス「子供ごころ」

ウィレッツ保安官が担当する街で庭師ソンプソンが撲殺された。彼と同世代でありながら彼の十代の娘との結婚を望んでいる隣人キャンビーが犯人だと近隣住民は口を揃えて噂をするが… 真犯人が判明してスッキリするどころか気持ちが滅入って暗くなる結末。

スタンリイ・エリン「運命の日」

子供の頃に親しくしていた友人イッギーが自動車事故で死亡したと新聞で知った主人公による回想。最後にニヤリとさせられる作品を期待したが、終始重苦しかった。大人の社会に幻滅しつつも取引によってあっという間に取り込まれ堕落の道を進んだ人間の成れの果て。

ロバート・L・フィッシュ「複式簿記

兄の会社で副支配人を務めるモートン。裏の顔は腕利きの殺し屋。女は殺らない主義だったが酒の力に負けて某ホテルで女優を殺す任務を引き受ける。現場で淡々と仕事を終えたモートンを待ち受けていたのは… ところどころアイリッシュの短編に似た雰囲気が。

ジョー・ゴアズ「オーデンダール」

アフリカの土地や民族の名前などがいくつも出てくるけれど何が何だかわからなくてしんどい。物語を追いかけるのに必要な集中力がブツブツと途切れてしまった。しかもハードボイルド。理解したいという気分にもならなかった。もうどうでもいいや…

アレン・キム・ラング「ウォッチバードは見ている」

麻薬密売人スクリーンは自宅アパートへ押しかけてきた中毒女性と口論になり、彼女を窓から放り投げて殺す。飛び降り自殺に見せかけるための偽装工作を行った甲斐あって警察は自殺と断定。だが事件の一部始終を目撃していたという男から電話が… オチが◯◯になっている点がサービス旺盛で面白かった。悪党をカラッとしたユーモアで退治する作風にも好感が持てた。今回のアンソロジーはハードボイルドが非常に多いので、クスッと笑える部分のある短編が出てくるとオアシスのように感じる。そしてつくづくわたしはハードボイルドが無理なのだった…

パトリシア・マガー「シリーナ、ホワイトハウスで窃盗」

某共和国首相か米大統領夫人への贈り物が入国後に何度か行方不明になり、何か細工でもされたのでは?と心配するQ課のヒューは、式典に参加中の探偵シリーナにその贈り物を盗み出すよう依頼する。良くも悪くも軽快で後腐れのない話。凡作。

ロス・マクドナルド「逃げた女」

モーテルに宿泊中の私立探偵リュウ・アーチャー。隣室のベッドとバスルームで大量の血痕が見つかり、モーテルの主人の依頼を受けて調査を開始するアーチャー。ハメットやチャンドラーと並ぶ人気を誇るハードボイルド作家による荒んだ世界観が好きな人におすすめ。

イリアム・P・マッギヴァーン「ウィリーじいさん」

下宿屋門番のウィリーじいさんは女性住人インガーのことを孫のように気にかけている。彼女が勤務先のホテルでギャングのブラッキーから暴行されたことを知ったウィリーじいさんは… これはもう最高にカッコいい名作。最後の台詞にシビれた。

イリアム・F・ノーラン「黒い殺意」

幼い頃に自分を虐げ続けた継母に似たふしだらなタイプの女を街で見かけると猛烈な殺意を抱かずにはいられない連続殺人犯ブルーン。今夜出会った美しいアンもまた易々とホテルの部屋へついてくるような女だった。殺意に動かされたブルーンはアンの首に手を… これもまた結末の書き方がしびれるほどにカッコいい佳作。都会的な雰囲気の漂うハード寄りサイコスリラー。シリアルキラーの切ない過去をチラ見せして哀愁を加えるやり方にそこはかとなくアイリッシュみを感じる。作者はダシール・ハメット研究家としての著作も残したSF作家とのこと。覚えておこう。

チャールズ・ノーマン「アヒルのかわりに」

感謝祭で友人をもてなすために珍しいジャコウアヒルを手に入れようと、フィップスは人里離れた農家を訪ねる。老女に案内されて納屋へ入ると… こわい! 読み終わった時、目も口も大きく開けたまま凍りついてしまった。迅速なオチが怖さを際立たせる。

エラリイ・クイーン「物より心」

ボクシングのチャンピオンが八百長試合で挑戦者に敗れた後、駐車場に停めてあったマネージャーの車の中でメッタ刺しにされて死んでいた。現場には犯人が着ていた血まみれのコートが残されていた代わりに、すぐ隣の車に置いてあったエラリイのコートが消えており… アンソロジストとしてのクイーンの素晴らしさは日々ひしひしと感じているのに、作家としてのクイーンの面白さはどうしてもわからない… なぜなのか… つらい…

ローレンス・トリート「用心深い男」

年に何度か強盗を働いて生計を立てている男が主人公。彼は自分によく似た背格好の男バンディと恋人グエンを一緒に外出させるなどのアリバイ工作を欠かさなかった。そんなある日、バンディがグエンから強盗に関する情報を聞き出していたことを察した主人公は… 「警察小説の父」と呼ばれるトリートが書いた軽妙なおかしみに満ちた短編。用心深さを自慢するわりには恋人との意思疎通が雑すぎて笑ってしまう。用心深さが災いしてドツボにはまる主人公に幸あれ。

ヒラリイ・ウォー「女心」

保険代理人ジョセフの不在中に妻メイが自宅で殺された。買い物に出ていた夫にはアリバイがあり、隣家に住む女性の話からも証明されていたが… 刑事部長マイクと婦警ジェニーが親子ならではの息の合った様子で一か八かのアリバイ崩しに挑む。親バカマイクが微笑ましい。

ドナルド・A・ウォルハイム「地獄へ堕ちろ」

妻を共同経営者に寝取られ、娘は家出をして感化院送り… 今の人生に嫌気がさした男は悪魔に魂を差し出すことに。引き換えにいざ新しい人生を迎える段となって初めて聞かされた驚愕の条件とは。主人公の憎たらしい性格設定が功を奏してラストは爽快。

眠れぬ夜の愉しみ (ハヤカワ・ミステリ文庫 80-3)

眠れぬ夜の愉しみ (ハヤカワ・ミステリ文庫 80-3)