Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

生ける者の墓 (1937)

Story

墓地管理人からの通報を受けて現場に到着した警官の目に飛び込んできたのは、一心不乱に墓穴を掘り返す若い男の姿だった。「彼女をどこへやったんだ」などと口走って取り乱す彼を署まで連行し、詳しい話をするよう促したところ…

Aira's View

警官に事情を話す形で展開する主人公バドの長い告白によって次第に明らかとなる、狂気の秘密宗教結社〈死の友〉の全貌に背筋が寒くなる作品だが、バドが生き埋めに対して過剰なまでの恐怖を覚えるようになった経緯、彼が出会った唯一無二の理解者であり婚約者のジョーンの揺るぎない愛、バドの告白によって正義感に火がついた主任警部の行動力など、読みどころは多い。

メンバーが互いに「ブラザー」と呼び合う〈死の友〉の慣習や、街中に張り巡らされた監視網の完全無欠ぶりなどから、ジョージ・オーウェル1984」(1949年刊行) の世界を連想せずにはいられなかった。

女性読者としては、深い愛情と純粋かつ強靭な精神を持ったジョーンが (さすがに現実離れしすぎの感はあれど) 少し羨ましく、またこんな女性像を描くことができたウールリッチの多面的な表現力に感じ入った。

パパ・ベンジャミン」や「アリスが消えた」辺りがお好みの読者に合いそうな一編。

Work

原題:Grave for the Living
訳者:村上 博基
収録:『アイリッシュ短編集4 シルエット』創元推理文庫

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