Story
心臓病で余命数ヶ月と医師から告げられた父が、愛人との密会を繰り返す後妻ドリイを寝室で誤って殺害してしまった… 父を刑務所送りにはすまいと固く心に誓った主人公ラリーは、何とかして父のアリバイを成立させようと、念入りな計画を練り上げるのだが…
Aira's View
愛する父親を救うため、どんな恐怖や苦労にもめげず、ただひたすらにアリバイ工作に没頭するラリーの姿が読み手の心をゆさぶる。冷静に考えれば、ラリーは犯人蔵匿や証拠隠滅という立派な犯罪を行っているわけだが、なぜか彼の計画が成功しますようにと応援しながら読み進めてしまうのが不思議だ。
お互いを心から愛し、尊重し合う父と子が正直に生きようと前を向いたところに訪れる、O・ヘンリ的な結末が粋な作品。強い絆で結ばれたこの親子ならばきっと… と、微かな希望さえ感じられる。手に汗握るサスペンスというよりは、親子のドラマとして楽しめた。
Work
原題:The Corpse and the Kid
訳者:村上 博基
出版:『アイリッシュ短編集 3 裏窓』創元推理文庫, 1973