Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

ウィリアム・アイリッシュ『アイリッシュ短編集 1 / 晩餐後の物語』

(再読了日:2021年2月3日)

晩餐後の物語

アイリッシュ (ウールリッチ) を好きになり始めた頃に読んで衝撃を受けた作品。全く色褪せない。耳元でジリジリと音が聞こえてきそうな密室での極度の緊張状態の後、ついに明かされる老人の真意。加速していく物語の渦に身を任せる快感がたまらない。

遺贈

重罪を犯した男が妻を巻き込まぬよう、自分から離れろと説得する冒頭からはスタイリッシュなほろ苦さが感じられる一方で、男から車を奪った悪党二人組が主役となる後半はどこか間の抜けた会話が続くコミカルな展開。一風変わった巻き込まれ型。

階下で待ってて

劇場で一緒に楽しい時間を過ごすはずだったのに… 婚約者の姿が跡形もなく突然消えてしまうという非日常の恐怖と、実は相手のことを何一つ知らなかったのではないか?との疑心に苛まれ、極度の混乱をきたす主人公を描かせたらウールリッチの右に出る者はいない。消失テーマの佳作。

金髪ごろし

一面に大きく「金髪美人殺さる」と刷られた新聞を街角で買い求めた4組の男女を描く群像劇。幸せの再認識、悪からの脱却など、記事が人にもたらすものは幅広い。株式仲買人ダグの一言をどのように解釈するかで話の味わいが変わってくる。

射的の名手

人気女優に弱みを握られたせいで八方塞がりとなった小切手詐欺師が天敵であるはずの刑事に泣きつく羽目に。いざとなると意外と息の合ったチームワークを見せる二人の掛け合いが微笑ましい。さて、一枚上手なのは刑事か、それとも…?

三文作家

パルプマガジンの巻頭小説を翌朝までに仕上げるよう急な依頼を受けた作家を描く。ホテルの一室で暮らしながら長年連れ添ったタイプライターで執筆し続けたウールリッチの手による生々しい自画像を眺めているかのような気持ちが味わえる。

盛装した死体

ひたすら足を使って情報収集するタイプの地道な刑事が、保険金欲しさに元妻を殺した男のアリバイ崩しに挑む。王道のミステリとして楽しめなくはないが、プロットもアリバイ工作もかなり雑な仕上げ方で、思わずフフと笑ってしまった。

ヨシワラ殺人事件

許婚者殺害容疑をかけられたブロンド女性の無実を証明すべく奔走する水兵ホリンジャーを、日本の文化や人に対する偏見が少なからず感じられる筆致で描く。互いをまだよく知らないまま惹かれ合う男女の醸し出す艶かしさがよい。

 

【書影をクリックすると Amazon の商品ページへジャンプします】