Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

アイザック・アシモフ他編『ビッグ・アップル・ミステリー マンハッタン12の事件』

(読了日:2018年8月28日)

ジェイムズ・ヤッフェ「春爛漫のママ」

甥夫婦に脛を齧られながら暮らす裕福な伯母マーガレットは友人がいない孤独を紛らわせようとして新聞に友人募集の広告を出す。農園主キースと文通で親しくなり、ついに彼がニューヨークへやってくることになったが… 刑事の息子を持つ母が安楽椅子探偵。裕福で自分を頼ってくれる親戚があっても孤独感を拭うことはできなかった老婦人を巡る、あまりにも切ない真実。実地調査と科学的根拠に乏しい点から安楽椅子探偵ものはあまり好みではない上、その探偵が (たしかに賢くて気高くはあるけれども) 一風変わった中年女性ということで、ほぼ消化読書でした。

スチュアート・パーマー「緑の氷」

元小学校教員のヒルデガードが活躍する短編。宝石店のショーウィンドウからダイヤを盗んだ男によって老巡査が射殺された。有力な証言を得られない警察は包囲網を張って犯人が再び現れるのを待つが… おばさん探偵の好奇心と行動力は警察をも凌ぐとは恐るべし。(探偵が男性じゃないとどうしても興味が薄れてしまうのはなぜなんだろう… しかも助手もまた男性じゃないと気分が盛り上がらないのはなぜなんだろう…)

ヒュー・ペンティコースト「ジェリコとアトリエの殺人」

ある実業家の息子ポールが肖像画を描いてもらう目的で画家シェリダンのアトリエを訪れていたところへ何者かが侵入して二人を射殺する。かつてポールの父がマフィアの息子を死に追いやったことに対する報復なのでは?と世間で騒がれ始め… 私立探偵ジョン・ジェリコのシリーズからの一篇。ある人物が登場した瞬間からそこらじゅうに犯人臭が漂う。あまりにバレバレだから何か裏があるのかと思いきや何もなし。殺人の動機も薄っぺらで自己中心的。謎を読み解く楽しさが感じられなかった。このアンソロジー、ひょっとしてハズレかもしれない。

クレイトン・ロースン「あの世から」

霊媒師リスとともに書斎で幻視実験をしていた医師ドレイクがナイフで刺し殺される。事件発覚時リスは頭を強く殴られて昏倒中、部屋の窓も扉も内側から紙テープで封じられており、凶器も見当たらない… 密室殺人の謎を魔術師A・マーリニが見事に解き明かす。創元推理文庫『魔術ミステリ傑作選』にも収録されている一篇。ミステリに魔術を持ち出したら何でもありになってしまうんじゃないの…?という気持ちが根っこにあるせいか、どうも斜に構えて読んでしまうのがいけないと思いつつ、やはり苦手な魔術師マーリ二もの。一部たどたどしい翻訳が気になった。

フランセス & リチャード・ロックリッジ「殺人の"かたち"」

高校時代の同級生が久しぶりに集うパーティーで次々と思い出話を口にしていた主賓ハートリー。お酒は飲めないにもかかわらず途中から酔ったような顔つきになって階段から転落、首の骨を折って即死。NY市警のウェイガンドが事件に挑む。パーティー参加者 7 人の名前が何ページ読み進んでも頭に入らなくて難儀した。驚異的な記憶力を持つハートリー以外の人物描写が乏しくて見分けがつかず、犯人が明かされる場面まで進んでも全くピンとこなかった。頭の働きが頗る鈍い日に読んでしまったのかもしれないけど、今さら再読しても仕方ない。

エラリー・クイーン「一ペニー黒切手の冒険」

ヴィクトリア女王の署名が入った高価な黒切手が古切手商の店から一枚盗まれた。その犯人と特徴を同じくする男が書店から『混迷のヨーロッパ』という本を買い占めた上、その本の持ち主の家にまで次々と押し入るという不思議な事件を担当するエラリー。ある点において犯人の手口が一般的な強盗とは異なっていることに気付いたエラリーの勝利。彼の才能に一目置きつつも少し煙たがっているヴェリー部長刑事とのコミカルなやりとりが謎解きの面白さに色を添える。父クイーンの名前を知って個人的に興奮。祝・クイーン作品で初めて犯人当てに成功しました。

R・L・スティーヴンズ (エドワード・D・ホック)「世紀の犯罪」

50万ドル相当の積荷を貨物船から盗むことで歴史に名を残したいと願うラガーは、友人アンディの助けを借りてボートなどの手配を済ませ、貨物船の到着を待つばかりだったが、恋人エディスからアンディに関する嫌な話を聞いてしまい… このオチはないでしょう… というのが率直な感想。いろんな意味でひどい。積荷の中身がラストで明かされ、たしかに成功していたら当時の米国は大変な騒ぎになっただろうな… と想像してみると、少し気分がよくなる。かも。

レックス・スタウト「殺人は笑いごとじゃない」

有名デザイナーである弟アレックの前に突然現れて会社経営にまで口を挟むようになった女性ヴォスが目障りで仕方のない姉フローラは私立探偵ネロ・ウルフに彼女の身辺調査を依頼。ところがウルフと電話中だったヴォスを何者かが襲って殺してしまい… 今回はウルフの美食家もしくは蘭愛好家としての側面を描いた場面が少なく、助手アーチーとのツンデレな掛け合いも控えめ。その辺りを何よりも楽しみにしている読者にとっては満足度が低いかもしれない。自分で◯◯◯を調べるウルフや彼の真意を理解し損なって微妙に凹むアーチーが見られるのはよい。

Q・パトリック「一場の殺人」

殺人課トラント警部補の自宅に届いた謎の手紙には、マーナからジョージに宛てた「明日五時に。万一の場合には拳銃の使用も辞さない」との警告が書かれていた。アパートを訪ねたトラントをマーナの義妹が招き入れる。すると誰もいないはずの寝室から物音が聞こえて… 犯人のしたたかさが感じられる計画殺人をトラント警部補が10分足らずで飄々と解決してしまう軽めな味わいの短篇。トラントの温厚な性格と柔らかな物腰が関係者の警戒を解いていく辺りは読んでいて清々しい。ところどころトラントが女性好きであることをサラッと匂わす部分もよい。他の作品が気になる。

コーネル・ウールリッチ「地下鉄の怪盗」

盗んだ大金を入れたスーツケースを持ったまま警察の捜査網を器用に潜り抜けて逃亡を続ける〈怪盗〉の様子を大々的に報じる新聞を読んだ地下鉄の車掌ディレニーは担当車内の不自然な場所に置かれたスーツケースを発見。目を離さないように注意していたが… 警察と接触できるタイミングを待っていられないと判断したディレニーが果敢にも〈怪盗〉との直接対決に挑む。終盤は思わず息を飲む活劇が展開。アクション映画の一部を覗いているかのよう。前半で地下鉄車掌の仕事ぶりが妙に細かく書かれている点以外、ウールリッチらしさはあまり感じられない異色作。

エドワード・D・ホック「スペード4の盗難」

NYに出かけた怪盗ニックは信用詐欺で稼ぐ友人ロンと偶然の再会を果たし「二軒の住宅にあるトランプ全てからスペードの4を抜きとってくれないか」との相談を持ちかけられる。準備不足が気になりつつも高額の報酬に釣られて盗みを引き受けたニックだが… 以前から気になっていた怪盗ニックを初体験。完全無欠で荒っぽいところのある人物像を思い描いていたけど、実際には情に流されたり最後の詰めが甘かったりと人間くさいところがあって、逆に魅力的に思えた。「値打ちのないものしか盗まない」をモットーにする怪盗ニック。今とても気になる存在です。

アイザック・アシモフ「よきサマリアびと」

女人禁制の黒後家蜘蛛の会に例外として認められた未亡人バーバラをゲストに迎えて相談に乗る会員 6 名と給仕ヘンリー。宗教や歴史が絡んでくるとどうしても腹落ちの度合いが減ってしまい、今回も「ふーん (???)」という感じで終わってしまった。