Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

スクリーンの中の女 (1934)

Story

脅迫状を頻繁に受け取るようになった女優マーサ・メドウズの身辺警護を命じられたガルブレイズ刑事は早速撮影所へと足を運ぶ。撮影中も彼女から目を離さなくて済むようにメドウズ主演作の監督に協力を依頼するが、ガルブレイズの隙をついて監督がスタジオを閉め切って撮影を始めてしまい…

Background

1923年11月29日、米テキサス州サンアントニオのロケ地にて "The Warrens of Virginia" (1924年公開、サイレント作品、邦題「自由の旗風」) の撮影作業が進む中、女優マーサ・マンスフィールドが自ら所有する車へ戻ろうとした際、衣装のフープスカートにマッチの火が燃え広がって火だるまとなった。共演者ウィルフレッド・ライテルがとっさに自分の着ていたコートで彼女の頭部を包んだため、顔と首は焼けずに済んだものの、それ以外の部分に重度のやけどを負ったマーサは、翌30日に24歳という若さで亡くなった。別の共演者フィリップ・ショーリーに付き添われ、マーサはニューヨークの自宅へ無言の帰宅をしたという。問題のマッチはマーサの車へ投げ込まれたとの証言がある一方、マーサが撮影中の緊張をほぐすためにタバコを吸おうとしたのではないかという説もあるが、後者についてはマーサの母親が「マーサはタバコの煙が嫌いだった」と否定しており、真相は謎に包まれたままである。(Wikipedia などを参考に Aira がまとめました)

Aira's View

台本のことで頭がいっぱいで事件を受け止める気配のまったくないロボットのような台本係や、弱点を握られた途端に態度を180度変えて自分よりも有利な立場にある人間に追従する映画監督など、ウールリッチが1928~31年を過ごしたハリウッドでこういう人間を実際に見てきたのだろうと思わせるような現実味とクセを備えた登場人物が物語を味付けする。

刑事が権力や暴力の象徴として描かれることの多いウールリッチ作品にしては珍しく、人間味の感じられる刑事を主人公にしている。女優という職業に対して偏見で凝り固まっていたガルブレイズが出会ってすぐに二言三言の会話を交わしてマーサと打ち解け、彼女を生身の人間として扱い始める過程を描いた部分が特に気に入った。ガルブレイズと上司のサバサバとした何でも言い合えるドライな関係の描写もよい。

原作者・脚色家として何度か映画製作に関わったのに一度もクレジットされることのなかったウールリッチ (字幕製作者としてアイリッシュという人間がクレジットされたことはあるが、それがウールリッチであるという確かな証拠はない) がハリウッドという世界に抱いた恨み辛みがちらりと見える部分も。

Work

原題:Screen Test
訳者:高橋 豊
収録:『悪夢』ハヤカワ・ポケット・ミステリ

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