Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

各務三郎編『クイーンの定員 III 傑作短編で読むミステリー史』

 (読了日:2017年6月24日)

デイモン・ラニアン「ドロレスと三人の野郎ども」

セントルイスで抗争を続けて互いに大きなダメージを受けてきた三人の大物ギャングが和平会議を開くことに。その道すがら、近年頭角を現しつつある若手ギャングのファロネを殺害。会議を控え、三人は揃ってとある美人ホステスに熱を上げてしまい… 『クイーンの定員 III』いきなり痛快な一篇でスタート。美人ホステスのドロレスが生まれ持った美貌に度胸と機転を合わせてあっぱれな行動をする様子にスカッとした。互いを出し抜くことで頭がいっぱいで無防備になる三バカギャングがどこか愛おしく思えてくるほどのおかしみに包まれた愉快な作品。

エラリー・クイーン「見えない恋人」

悪い噂などひとつも聞こえてこない好人物の法律家ロジャーが同じ下宿に寝泊まりしていた芸術家を殺した容疑で裁判にかけられようとしている理由をエラリーが探る。関係者に話を聞くうちに現れた下宿屋の娘アイリスの美しさに事件の動機を見出したエラリーは… 今まで読んだ短編の中ではどこかツンと澄ました印象が強くて正直あまり好きではなかったエラリーが美女の前で思わず動転して言葉を失ったり赤面したりする場面が妙に微笑ましく感じた。人間関係や謎解きがシンプルでわかりやすいのでクイーンに苦手意識がある人にオススメしたい。

C・デイリー・キング「釘と鎮魂曲

アパートの一室から鎮魂ミサ曲が繰り返し流れてくるが住人の応答がない。素人探偵タラントが天窓から様子を覗いてみると、寝椅子の上に若い娘の全裸死体が横たわっていた。ドアも窓もすべて内側から鍵がかけられた状態で犯人はどこへ消えたのだろうか…?不可能犯罪を得意とするタラントが執事兼相談役のヒドーとともに、犯人が部屋から脱出した方法を探る。本格黄金時代に人気のあった素人探偵とのことだが、これといったクセのない人物なのがイマイチ。読み終わったらすぐに思い出せなくなってしまうタイプのキャラクター。トリックには意外性があった。

マージェリー・アリンガム「綴られた名前」

夕食に呼ばれた知人宅から車で帰宅する途中、私立探偵キャンピオンは道端で横倒しになった車に気付く。付近に転がっていた見栄えのしない指輪に興味を持ち自分のコートのポケットに忍ばせる。しばらく現場を検分していると警官に呼び止められてしまい… 久しぶりのキャンピオンもの。以前読んだ盲目の門番を巡る謎解きの話が気に入ったのでワクワクしながら読み進めたけれどこれといったインパクトのないまま終わってしまった。世間知らずでわがままなお嬢さまだから、よく正体のわからない男に警戒もせずにガードを緩めてだまされるんだよ (イラッ)

カーター・ディクスン「銀のカーテン」

カジノで負けが込んたジェリーは同じテーブルで賭けをしていたデイヴォスから勇気さえあれば簡単に大金が手に入る仕事を手伝わないかと誘われて指定された日時にある場所へと足を運ぶが… マーチ大佐が挑む不可能犯罪。からくりにちょっと無理がある気も。

ウィリアム・マハーグ「ブロードウェイ殺人事件」

ギャングのノードゥン殺害容疑でスポーツ用品仕入れ係のデニンを逮捕したが有罪にするだけの証拠が揃わずオマリー警部が改めて担当することになり… 人物名や相関関係がちっとも頭に入らず苦労させられた。説明不足な点が気になって楽しめず。

ウィリアム・アイリッシュ「裏窓」
レイモンド・チャンドラー「ゆすり屋は撃たない」

単なる消化読書になってしまったから読了と言ってよいものかどうか。よほどの機会が巡ってこない限りチャンドラーは読まないと思う。血が腕を伝って指先から滴り落ちる… などの描写はわたしが読みたいミステリには必要ないのだと認識。

リリアン・デ・ラ・トーレ「蠟人形の死体」

友人ボズウェルに誘われて蠟人形館を訪れた辞書編纂者ジョンソンだったが、蠟細工師に作業場を案内してもらっていたところで持病の発作を起こして倒れ、近くにあった蠟人形を壊してしまう。もげた手首からはなんと人間の本物の骨が見えており… 調査に同伴させてもらえなかった時などにボズウェルがいちいちジョンソンに対して恨みがましいことを言うのが可愛くない。もっとユーモアや皮肉が効いていれば魅力の一つにもなるんだけど。無条件の愛に目が眩んでいる助手が好きだから彼らのコンビにはどうもピンとこない。犯人の動機と事後行動も雑。

スチュアート・パーマー「医者と瓜ふたつの男」

パイパー警視と女教師ヒルデガードが夜道を歩いていると近くの家の二階の窓から警察を呼ぶ大声が聞こえた。二人が現場へ駆けつけるとウルツ氏が自宅の書斎で意識を失っていた。発作用の薬で一命は取り留めたものの、かかりつけ医が気になる一言を… パズル小説が得意な作家ということで、関係者みんなが怪しく見えて物語が混乱しそうなところを結末に向かってきれいにまとめていく。事件発覚から最後の一片がスッとはまってパズルが完成するまでの流れがスピーディかつスムースで気持ちよく読める。

ロイ・ヴィカーズ「ベッドに殺された男」

市会議員ベンテイクが所有する貸家でジゴロのスタンサがベッドのスプリングを調整する道具で後頭部を殴打され死亡、しかも女性がドレスの下に履くペティコートを頭に被せられた状態で発見された。容疑者がありつつ迷宮入りした本件にレイスン警部が挑む。迷宮入りが決まるまでの捜査が雑で視野が狭いし、準備に準備を重ねたくせに土壇場でなぜそんな余計なことをしたのか… という謎の行動をした犯人も情けないし、最後に脱力してしまった。以前読んだ怪盗フェリシティ・ダヴもの「聖ジョカスタの壁掛け」と同様、なぜか文章が読みにくくて大変苦労した。 

クイーンの定員〈3〉傑作短編で読むミステリー史 (光文社文庫)

クイーンの定員〈3〉傑作短編で読むミステリー史 (光文社文庫)