Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

レイモンド・T・ボンド編『暗号ミステリ傑作選』

(読了日:2017年3月5日)

R・オースチン・フリーマン「文字合わせ錠」

みんな大好きソーンダイク博士による懇切丁寧な暗号解読講義だよ!科学者ならではの緻密な謎解きを惜しげもなく披露するよ!才能を全く鼻にかけない上に相手がどんなに鈍くても決して見下さない博士の人徳にも注目だよ!

M・D・ポースト「大暗号」

宝探しの冒険旅行に出かけたまま帰らぬ人となった考古学者ショーヴァンヌの日記には、死の間際に彼が狂気の沙汰に陥っていたかのような記述が多く見られるが、内容を詳しく検討してみると… 編者がポー「黄金虫」に次ぐ面白さと言うわりにどうもオチがわかりにくい。

E・C・ベントリー「救いの天使」

結婚してまもなく悪妻と化した若夫人から何年も苦しめられ続けた男。病で先が長くないことを悟った彼が弁護士の手を借りてどうしてもやり遂げたかったこととは。弁護士から相談を受けた探偵フィリップ・トレントが暗号の解読に貢献する。最後は清々しい気分に。

M・R・ジェイムズ「トマス僧院長の宝」

僧院長が残した暗号を解き明かし、ついに宝の眠る井戸へと辿り着いた古文書研究家サマトンと召使ブラウンだったが、そこには恐ろしい「守護の者」が… 暗号解読ミステリというより怪奇小説に近い。暗号が宗教がかっていて複雑。異文化人には少々難しい。

アントニー・バウチャー「QL 696・C9」

職場で何者かによって殺された主任司書ベンソンは息絶える直前にタイプライターで謎の文字列を残していた。新米警部補マクドナルドがノーブル元警部補 (引退して酒浸り) の助けを借りて暗号解読に奔走。ノーブルの超人的高速推理に鳥肌が立つ。

エルザ・バーカー「ミカエルの鍵」

ロシアから亡命したヴォロンツォフ老王女が旅先で急死する。孫ボリスに託された謎の言葉が意味するものとは。一家と旧知の間柄にある美男子探偵デクスター・ドレイクが王女の想いに応えるべく情熱的に暗号解読に挑む。王女の高い知性と孫への深い愛情に涙する。デクスター・ドレイクがとにかくイイ男。見目麗しい上にロマンを理解できる稀有な探偵かと。短編集があったら家宝にするのに。

O・ヘンリー「キャロウェイの暗号」

日露戦争を取材中のキャロウェイは日本軍による奇襲攻撃の詳細を入手。検閲を逃れるため巧みに暗号化された電信文。新聞社の精鋭チームが解読に当たるが糸口が見えず。そこへ最年少記者ヴェシーがやってきて… O・ヘンリーの意外な一面に興奮できる傑作。優等生的な雰囲気が苦手だったO・ヘンリー。まさかこんなにスリリングな暗号解読ものを書いていたとは。思わず吹き出してしまうユーモアもあり。大活躍のヴェシーはもちろんだけど、一番カッコよかったのはリライターのエイムス。わずかな文字数の事実を一面いっぱいの記事に膨らます職人技に脱帽。

F・A・M・ウェブスター「比類なき暗号の秘密」

アパートの一室でクリスティエルンソンという名刺を持つ男の刺殺体が見つかった。アパート管理人によれば、この男は一週間前に向かいの部屋でショットガンを使って自殺したはずのハンフリーズであるらしく… 無理ゲー顔負けの暗号でしらけた。

ドロシー・L・セイヤーズ「龍頭の秘密の学術的解明」

ピーター・ウィムジー卿の甥が惚れ込んで買い求めた古書を倍の値段で引き取りたいという男が急に会いにきた。取引を断ると男に雇われた泥棒に侵入され… 家族向け娯楽短編の趣き。古書蒐集に目覚めたばかりの甥を見守る卿の包容力が素敵。

ハーヴィ・オヒギンズ「恐喝団の暗号書」

電報配達員として働くバーニーは憧れの探偵事務所から預かった電報 (求人広告) を覗き見して採用面接へ。そこに現れた探偵バビングの鞄を持つなどして必死に自己アピールした結果、ある仕事を手伝うことに。狡賢い少年への不快感しかない作品だった。

マージェリー・アリンガム「屑屋のお払い」

裕福な家庭の高級宝飾品ばかりを狙う連続空巣事件のカラクリに "万人の叔父" ことキャンピオン探偵が挑む。挑むといってもガツガツしたところはなく、知的な娯楽として悠然と調査に取り組むキャンピオン。読んでいて肩が凝らないのがお気に入り。原題 The White Elephant が「屑屋のお払い」と訳されていたのがよくわからなかった。

ルフレッド・ノイズ「ヒヤシンス伯父さん」

バルセロナ行きヒスパニオラ号に偽名で乗船するドイツ諜報部員のクラウス。暗号で書かれた国からの手紙を出発直前に受け取るが、解読に必要な書物はすでに船に搭載されていた。出港後に解読を始めたところ、クラウスの顔色が… ドイツ人に同情する。

リリアン・デ・ラ・トーレ「盗まれたクリスマス・プレゼント」

英語辞典編纂で知られるサミュエル・ジョンソンが助手ボズウェルとともに探偵役となり、突然部屋から消えた高級ダイヤの行方を追う。犯人の考えがあまりに幼稚でバカバカしくなってしまった。今回のアンソロジーを締めくくる一編。 

暗号ミステリ傑作選 (創元推理文庫 169-2)

暗号ミステリ傑作選 (創元推理文庫 169-2)