Aira's bookshelf

書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

エラリー・クイーン編『新世界傑作推理12選』

(読了日:2018年8月9日)

P・Gウッドハウス「エクセルシオー荘の悲劇」

引退した船乗りたちが暮らす下宿屋の一室でガナー元船長が毒殺された。コブラの毒による過失死とされたが、他殺だと確信する女主人ピケットは探偵スナイダーに相談する。生意気な助手オークスの良い薬になればと思い、この難事件の捜査を命じるが… 自信過剰な助手の鼻っ柱を折ってやりたくて仕方のない探偵スナイダーのお茶目な上司ぶりがおかしくて何度もクスクス笑ってしまった。男二人の掛け合いが醸し出すユーモアとしっかりした謎解きが楽しめる短篇に大満足。彼らのコンビぶりが気に入ってシリーズものかどうかすぐに調べたけれど単発と判明。

エドワード・D・ホック「三人レオポルド」

ボスを殺して麻薬取引の独占を狙うハザードを逮捕すべく、彼が滞在中のヘルス・クラブへ潜伏捜査に向かうレオポルド警部。彼の到着を事前に把握していたハザードの前に現れたのは背格好のよく似た三人の中年男性で… 読者は殺人犯とともに警部探しをしながら、誰に化けているかわからない警部が遊び心を交えながらじわじわと (しかし確実に) 犯人に肉薄していく気配も味わうという、二つの視点が楽しい短編。必要ならば躊躇なく細かいルールを無視する行動力を備えたレオポルド警部がほどよく男くさくてカッコいい。既読レオポルドものでは一番好き。

ルース・レンデル「生まれついての犠牲者」

「運命の皮肉」として既読につき読了ツイート省略。

ヘンリー・スレッサー「世界一親切な男」

ボートから転落した妻ネッティを見殺しにした四人の男を許すことにしたコーヴィは、私立探偵を雇って男たちの趣味や性格を念入りに調べ、一人一人にふさわしい内容の親切を人知れず施していく。ヒッチコックに愛された短編名手による粋でブラックな一篇。スタイリッシュさとブラックさをここまで絶妙なバランスで両立させられる作家はわたしにとっては今のところスレッサーくらいなのですが、似たような作風でパッと思い浮かぶ (できれば短編が得意な) 作家の名前がもしあったら、ぜひお聞きしたいです。

ハロルド・Q・マスア「受難のメス」

不正医療裁判で敗れ、手術費全額返金の判決を受けた医師ウェーバー。さらに運の悪いことに、麻薬中毒の若者二人組に自宅を襲われ、妻の宝石や薬品などを盗まれるが、そこに七万ドルもの大金が混ざっていたことが後に判明し、事件は意外な方向へと進んでいく。主人公ジョーダン (ウェーバー医師の弁護士) の脳内で組み立てられた理論を最後に一気に明らかにして事件が解決されるタイプの作品。具体的/科学的な捜査を伴わないために結末が唐突な印象。前半の不正医療裁判に関する部分はもう少し短くてもよかったかも。原題 Trial and Terror のひねりがよい。

ジョイス・ポーター「臭い名推理」

女好きで知られるデザイナーが自宅に友人らを招いてパーティーを開いた後で射殺された。同居人である叔母グラットの証言から、犯人は車を運転できる友人 6 人に絞られた。さらにドーヴァー警部はデザイナー宅のトイレからある物がなくなっていることに気付き…「史上最低の探偵」とも呼ばれるドーヴァー警部もの。被害者の叔母が証言している最中に鼾をかいて寝るなど、惜しげもなく最低ぶりを見せてくれる警部に失笑。面倒くさいことはすべて部長刑事マグレガーに押し付けるところも相変わらず。その上、見目麗しくも何ともないときているのに憎めないんだな。ドーヴァー警部の何がいいって、被害者や容疑者の名前を覚える気が全くないところ。本当はチェシャーなのにシュロプシャーとかウィルトシャーとか呼んだりして。身なりはだらしないし太っているし食べ方は汚いしどうしようもないおじさんなのにどこか憎めないんですよね。

パトリシア・マガー「完璧なアリバイ」

仕事で知り合った若い女性に恋をしたフランクは、遠い昔に愛想が尽きた妻や気の強い愛人との関係に終止符を打とうとする。昨今話題の強盗殺人魔の犯行に見せかけて妻を殺すようプロに依頼し、犯行当夜の自分に完璧なアリバイを作り上げたフランクだったが…考えに考え抜いてからでないと何の行動にも出ない性格のフランクが意外にも追い込まれてしまった厳しい状況とは。罪を逃れるために用意した完璧なアリバイがまさかこんな風に効いてくるなんて… と読後しばらくボーッとしてしまった。レベルの高いひねりを楽しむ一篇。

ビル・プロンジーニ「朝飯前の仕事」

ロスの超豪邸に住む依頼人から頼まれたのは、娘の披露宴で高価な贈り物の数々が盗難に遭わないよう部屋を数時間だけ見張るという単純極まりない仕事だったが… パルプ・マガジン収集を何よりの趣味とする「名無しの探偵」が活躍する人気シリーズからの一篇。犯人が使ったトリックは「なぁんだ」と「それは気付かないわ」の組み合わせ。いまいち腑に落ちる感じがないけれど、主人公が現場に持っていった『ダブル・ディテクティヴ』にコーネル・ウールリッチ の小説が載っていたという描写だけで十分に興奮できたので、これはこれでよしとします (上から目線)。

ドナルド・オルスン「汝の隣人の夫」

夫が仕事の都合で月の半分近く家を空ける生活を持て余しているセシルは、隣家に越してきた既婚男性フィリップを相手にしたロマンチックな妄想を、退屈しのぎにと夫から贈られた日記帳に認め始めるが、ある日それを夫に知られてしまい… 最後の一言にゾクッ。妻の密かな楽しみが夫婦関係を揺るがしていく過程でどんどん高まる緊迫感の描き方が上手いし、まさかの真実を最後の最後に「そんな…!」という形で明かすまでの焦らしもまた効果的。手帳や日記を書くことが大好きなわたしにとっては非常に怖い、一風変わったドメスティック・サスペンスでした。

ピーター・ラヴゼイ「レドンホール街の怪」

タバコ屋を営むブレイドが二階を間貸ししている切手商メシナーは、前入居者が退去するまで一年近くも忍耐強く待ち続けて入居したわりには滅多に部屋を使っていない様子。ある日、ジェント警部がメシナーの部屋を調べたいとブレイドを訪ねてきたのだが…タイトルから何となく不気味なゴシック系の話を想像していたら大違い。どことなくほんわかしつつも英国人作家らしい皮肉もピリッと利いた小洒落た短編。ラヴゼイは「次期店長」(「肉屋」) を読んだ時に気になった作家。読まなきゃ損という話をちょくちょく読む/聞くので、短編集を買ってみます。

夏樹静子「足の裏」

都合により読了ツイート省略。

松本清張「証言」

都合により読了ツイート省略。 

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)

新 世界傑作推理12選 (光文社文庫)