Aira's bookshelf

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書棚の片隅でコーネル・ウールリッチ愛をささやく

エレノア・サリヴァン編『世界ベスト・ミステリー50選 (上)』

(読了日:2016年9月14日)

ジョン・ディクスン・カー「赤いかつらの手がかり」
C・デイリー・キング「消えた美人スター」

最初から胡散臭さぷんぷん。案の定とんだ茶番劇だった。見張り多数の中、誰にも見られずに外へ出られるはずはないのに人が失踪って、いいだけ使い古されたトリックだと思う。もう探偵小説書くのやめてしまいなさい、と言いたくなった。辛口ご容赦。

トマス・バーク「ブルームズベリーの惨劇」

書き出しから容赦なく不穏な空気が漂うのは作者のお家芸。主人公の友人ツリンクの人物像がまた摑みどころのない気味悪さでついつい引き込まれた。犯罪現場の描写は過去一年いろいろ読んできた中で一番の凄惨さだった。ツリンクの手紙がヒタヒタと怖い。

W・R・バーネット「晴れ姿」

あの、えっと、これって… 一体何? これで終わり? はっ?

フィリップ・マクドナルド「殺意」

ラスト数行でガツンとくる黒いオチが大好きなわたしにはありがたい作風の短編。ニヤリとしつつ背中がスゥッとするのが気持ちいい。警察は good cop, bad cop ごっこやカツ丼作戦なんかやめて (←たぶん映画やドラマの見すぎ) 精神科医と連携して事情聴取すればいいのに、と思った。内面を知り尽くした人間の質問がスルスルと化けの皮を剥がしてくれるから、冤罪やトラウマを防げるはず。

ナイオ・マーシュ「出口はわかっている」

新人脚本家の舞台が上演される中、出演者の一人が楽屋でガス中毒死。自殺のように見えるが果たして真相は…? いかにも怪しい存在がありながら犯人は別にいるという設定は当たり前すぎて今さら魅力は感じない。殺意の理由が突飛すぎたのもマイナス。

ヒュー・ペンティコースト「心理的拷問」

精神科医スミスが巧みに質問を重ねることで事件関係者の人間性を明らかにして真犯人を見つけ出す。真犯人がボロを出していく過程があまりに順調でスリラー要素には欠けるが、証拠やアリバイを重視する警察とは異なる心理面からのアプローチを楽しむ作品。

マイケル・アーレン「深夜の貴婦人」

家計が傾いた王家の息子は資産家の娘との結婚を控える身。ある晩、謎の美女に導かれて屋敷へ行くと、娘の管財人を務める銀行家 (美女の兄) からある取引を持ちかけられる。誰も殺されない平和なミステリ。王子の美しい想い出話がよい薬味になっている。

ニコラス・ブレイク「白の研究」

吹雪で立往生した列車で同じ車両に乗り合わせた特徴豊かな客6人のうち、最も落ち着きなく時間を気にしていた弁護士の男が失踪。誰が探偵役なのかがなかなか明かされないところは特徴的。筆者から読者への挑戦状 (手がかりの数を明記) が挟まれるのも楽しい。ドイル「緋色の研究」を意識したタイトルや現場の様子をつぶさに検証して的確な結論を導き出す正統派な探偵ぶりに好印象を持った。「動機」「方法」とわざわざ書いて解説する手法は斬新かつわかりやすい。パズルが解けた時のようなスッキリ感。頭がこんがらがりやすいミステリ初心者にオススメな一編。

フレデリック・I・アンダースン「幻の宿泊客」

真っ白な宿帳は不吉という理由で新しいページの一番上に架空の宿泊客名を書き込むことにしているホテルオーナー。その名前の一つが数年前に殺されたとされる女性 (死体は未発見) と同姓同名だったことから警察が動き出すというストーリー。

エラリー・クイーンゲティスバーグのラッパ」

エアミス研所属でありながら非常に言いづらいけど、実は未だクイーンを面白いと感じたことがない。今回もまた「ふーん」で終わってしまった。クイーンという探偵がどうしても魅力的と思えないのが一因。謎解きも「やられた!」と感じたことがない。村人を何十年にわたって担ぎ続けるためだけに財宝に関する真実を隠し続けるとか、その設定が無理だった。話のどこにも誰にも共感できる部分がなかった。今までの経験から米国の古い歴史が絡んでくる探偵小説が苦手なんだとだんだんわかってきた。

マージェリー・アリンガム「札を燃やす男」

◯◯する男という作品名は何となく不穏な感じでドキッとする。苦労に苦労を重ねて借金を返しにくる女性の前でお札を燃やして見せて楽しむドM男。同情しながらも他人の不幸を別の他人に話さずにいられない女性達のいやらしさの方が気持ち悪いと感じた。

デイヴィッド・アリグザンダー「優しい修道士」

妹の死という不幸な知らせを受けた、虫も殺せないほど優しい修道士。妹の一生を狂わせた男に復讐をしようと俗世に戻る。周到な計画と準備からも伝わってくる修道士の優しさ。1分刻みで緊張が高まる展開の後に訪れる結末は… ぜひ読んでください!

アンソニー・アームストロング「一方通行」

前線を退いた元警視が安楽椅子探偵となって息子 (警部補) をサポート。タクシーの後部座席で起きた男性刺殺事件の犯人を突き止める。出だしからコレが犯人でしょってバレバレ。犯人がわかっていても楽しめるものもあるけど本作はそうじゃなかった。

ミニョン・G・エバーハート「ドッグ・ショウ殺人事件」

会場のボックス席で出場犬の飼い主である裕福な女性が刺殺された事件の謎を同じボックス席に居合わせた愛犬家の医師が解明する。設定や展開の細かいところに無理があるせいで「そんなうまくいくかしら」とシラけた気分になった。イマイチ。

オクテイヴァス・ロイ・コーエン「警官は嘘をつかない」

戦場で親しくなった友人で今は強盗殺人犯として追われる立場にある男から連絡を受けたジョニー。自分が警官であることは隠しつつ FBI が男を確保できるように知恵を絞る。嘘はつかずに相手を騙すというトリックが鮮やかに決まる佳作。

ジーン・ポッツ「萎えた心」

愛人が手紙で別れを告げてきた理由は妻の工作だったと知った男は自動車事故に見せかけて妻を殺害。だが彼女がどこへ行くにも一緒だった犬の存在をすっかり忘れていたところから男の計画が狂い始める。後編があるのかと思ってしまうほど中途半端な終わり方。やれやれ。

アンソニー・バウチャー「怪物に嫁いだ女」

売れない女優ドーリンから花嫁付添人を頼まれた従姉妹は彼女の結婚相手が保険金殺人を繰り返しては無罪となってきた青髭男と気付いて戦慄するが当のドーリンはそんなことは承知の上の結婚なのだと笑い飛ばす。彼女の意図は一体何なのか?命の危険は?

C・S・フォレスター「八時から八時まで」

刑執行の時が迫る死刑囚が所長と看守をぶちのめして脱獄。雨の中、関係が世に知られていなかった愛人の住むアパートへ転がり込むが… 英国人作家らしい陰鬱な感じがよい一方、結末が単純で残念。もう一捻りあればアイリッシュ風の佳作になり得た気が。

バリー・ペロウン「いまにして思えば」

わたしにとってコレは怪奇小説。一人称小説ながら時間軸の違う主観がゴシック体で挟まれる異色の短編。単なる偶然か運命のいたずらか。どの時点でなされたどの選択が始まりとなって男と女をこの切ない結末へと導いてしまったのか。考え出すと薄ら寒くなる。

アーシュラ・カーティス「転地」

病弱な妻のため、暖かい場所へ転地して療養を目指す親子三人の一家。順調に身体が回復するにつれて今まで病気の陰に隠れていたと思しき性格が表れ始め、夫や娘の生活がどんどん窮屈になっていく。娘の顔に痣を見つけた夫の決断とは。良質なサイコ・サスペンス。

ロバート・ブロック「標本」

キェェェェ…‼︎ おそろしい‼︎ と思ったら『サイコ』の人か。作品名から結末は大体読めるけれど予想よりうんと残忍なやり方だった。なのに奇妙に手際よくサッサと片付けてしまう様子がなおさら怖い。こういう怖さは大好物。早速ブロックの短編集を探そうと思う。

シーリア・フレムリン「揺り籃」

これはミステリではなくオカルトじゃないですか? オカルトですよね? わたしオカルトどうにもダメなので感想は「好きじゃない」以外にありません。以上 (バッサリ) 

世界ベスト・ミステリー50選―名作短編で編む推理小説50年史〈上〉 (光文社文庫)
 

 

G・K・チェスタトン編『探偵小説の世紀 (下)』

(読了日:2016年8月25日) 

ヘンリー・ウェイド「三つの鍵」
アントニイ・マースデン「遺伝」
H・C・ベイリー「青年医師」
F・A・クマー「豚の足」

途中から主人公の狙いがわかってしまったけれど、彼のスマートさが好みのタイプだったので楽しめた。しかし、なぜにタイトルが「豚の足」…???

アール・デア・ビガーズ「一ドル銀貨を追え」

ヨットという密室で起きたちょっとした事件。恋人の父親 (ヨットのオーナー) のために探偵役を買ってでた若手新聞記者の活躍を終始コミカルなタッチで描いた短編。空回りしながらも頑張る姿が好印象だが犯人の動機が曖昧でスッキリしなかった。

H・S・ハリスン「ミス・ヒンチ」

完全に騙された。面白かった。でもこれはアレだ、一回きりしか楽しめないやつ。

ハルバート・フットナー「封印された家」

全然楽しめなかった。モヤモヤが残っただけ。

ハーバート・ショー「強い兄ジョン」

13ページ弱のショートショート。オチまでの流れはよく組み立てられていると思うが、人物描写があっさりしているせいか、物語が表面的で薄っぺらいものに感じられてしまうのが残念。死してなお絶大な力を持つ兄とそれに屈する弟という設定はよかった。

J・S・フレッチャー「障壁の向こうから」

冒頭から怪奇小説の様相。薄気味悪い雰囲気と正統派な探偵手順で読ませる。そこまでは完璧な展開だったのに最後に明かされる犯人の動機があまりにも単純。思わず口があんぐりと開いてしまった。

ギルバート・フランカウ「カステルヴェトゥリを殺したのは誰か」

わたし、血の巡りがよくないのかしら。最後よく意味がわからなかった。

R・オースチン・フリーマン「白い足跡の謎」

わたしの大好きな科学者探偵ソーンダイク博士もの。今回の出番は少なめだったものの、いつもながらの筋の通った非常に美しい推理で事件をまとめてくれた。相棒ジャーヴィスもよくがんばったけれどソーンダイク博士に比べるとまだまだ赤ちゃんかな。

J・D・ベリスフォード「偽痣」

刑事が今でも忘れられない昔の事件の内容を友人に話す形で展開。思い出話なので臨場感に欠けるのが難。フランス人を好き者と括る点に違和感あり。特にアッと驚くカラクリやオチがあるわけでもなく、どこが編者チェスタトンのお眼鏡に叶ったのかピンとこなかった。

ネリー・トム=ギャロン & コールダー・ウィルスン「中の十二」

探偵チボー (小言のひとつにも決してユーモアを忘れない洒落た上司) と書記ブランコ (チボーの完璧なる信奉者で非常に忠実なわんこ) の会話が愉快。悪党をとっちめる方法はルパン (日本のアニメの方) のように痛快。

ヘンリー・ウッド夫人「エイブル・クルー」

片田舎で双子の赤ちゃんが砒素中毒死を遂げた理由を探る。巡査や検屍官らの頭の回転がのろくさくてイライラさせられているうちに意外な人物が突如現れて唐突に終了。どこにも面白みなし。これをもってチェスタトン編「探偵小説の世紀 (下)」読破。

 

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」を読んで

昨日『街角の書店 18の奇妙な物語』(創元推理文庫, 中村融編) に収録されているシャーリイ・ジャクスン「お告げ」を読んだ。「くじ」など不気味な雰囲気の作品であまりにも有名なジャクスンが、まさかこんなにほのぼのとした小品を書いていたとは!今年一番の大きな驚きに襲われた。

直接顔を合わせたり言葉を交わしたりすることもないまま、お互いの人生に少なからず影響を与え合う二人の女性を描いた不思議な夢物語のように見えるが、実はこういうことは現実にいろんな人生のいろんな局面で幾度となく起きていることなのだろう。特に、人や物との出会いはその最たるものに思える。

しかし、誰かや何かと出会ったり影響し合ったりする以上の頻度で、誰かや何かの存在を全く認識しないまま生きていたり、ぎりぎりのところで出会わずにすれ違ったりしているのもまた事実である。わたしたちの人生はそうやって不器用ながらも一歩ずつ確実に前進しているのだと思う。

そんなことを考えてからふと日常に目を向けると、自分と縁のある人、目の前にある物 (ノート、鉛筆、パソコン、マグカップなど、そこにあって当たり前の存在) 、手に取って読んでいる本 (あるいは書棚や床に積ん読している本) 、心を震わせた映画、キレイだなと感じた景色… そういったものすべてがとても貴重で何物にも代えがたく思えてくるから不思議だ。

江戸川乱歩編『世界短編傑作選』がきっかけで毎日のように読むようになった海外アンソロジーに収録されている数多の作品たちとの一期一会。これからはもっともっと大切にしよう。

The Time of Her Life (1931)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

友人と一緒に出かけたパーティーで、うんと歳の離れた裕福な作曲家ウィルビーから気に入られたポーリーンは、花束・本・衣服・手紙といった熱烈な愛情表現を受けるが、二人の関係がプラトニックなもの以上に発展することはなかった。なぜなら、ポーリーンはウィルビーの愛情とお金がもたらす副産物だけを愛していたからであり…

Aira's View

自分の虜になっている男に対して自分が持っている影響力の大きさに酔いしれるポーリーンのサディストぶりが目に余る。評伝著者によると「初期の作品群の中ではあらゆる意味で最低の作品」とのこと。あらすじを読んだだけでも筋立ての不味さや設定の無滑稽さが伝わってくる。

この小説の不恰好さの示すもの。それはウールリッチが自身の人生と向き合う時の不恰好さなのではないかと、ふと思った。人生に対して覚えていた居心地の悪さそのものがあふれているからこそ、読んでいて辛く重苦しい気持ちになったのかもしれない。

A Young Man's Heart (1930)

(未邦訳作品につき『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房) を参考に内容を紹介)

Story

主人公ブレアは、父の浮気が原因で母親と離ればなれの生活に。父はパーティー三昧の堕落した生活を送り、次から次に新しい恋人を作っては別れる始末。ブレアは家のお抱えコックの娘マリキータと相思相愛となるが、父の恋人の入れ知恵で欧州へ送られることになってしまう。マリキータに「必ず戻ってくる」と約束して出発したブレアだったが、急きょ行先変更して向かったニューヨークで地元名士の娘と知り合い…

Aira's View

作品後半で舞台が南米へとシフトし、主人公らが革命に巻き込まれるという異色作。反乱軍に占拠されたホテルでの緊迫した状況が描かれており、あらすじを読むだけでも手に汗握る出来である。この革命が主人公にもたらす偶然と、その偶然こそが運命だったのかと思わせる不条理さが読む者の胸を突くことだろう。

ところで、似たような短編をどこかで読んだことがある気がして読書ノートを一生懸命調べてみた。革命が起きるその瞬間に居合わせてしまう主人公が出てきたのは、アイリッシュ名義で書かれた短編「日暮れに処刑の太鼓が鳴る」しか見当たらず。結末は似ても似つかないものだった。やれやれ、記憶なんて当てにならないものですね…